↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒幕の物語  作者: 時根脱才 
モズキャッチャー編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
13/20

第二話 第三被験者

第二話 第三被験者


 第一被験者は、身体が耐えなかった。


 第二被験者は、身体こそ耐えたものの、精神が壊れた。


 ならば三人目は。


 どこまで人間のままでいられるのか。


     ◇


「第三被験者、搬入します」


 実験室の扉が開いた。


 運び込まれてきた少女を、博士は厚いガラス越しに眺めていた。


 サクラ。


 意識はない。


 眠ったまま実験台へ移され、両手両足を拘束される。


 研究員たちは手慣れた様子で電極や計測器を取り付けていった。


 だが、今回の工程は前の二人と同じではない。


 失敗したからこそ、得られたものがある。


「第一被験者は、細胞変化の速度に肉体が耐えられなかった。第二被験者ではそこを改善できた」


 博士がモニターを操作する。


 二人分のデータと、これから改造するサクラの数値が並んだ。


「次の問題は精神だ」


「第二被験者は、怪人化後に意思疎通そのものが不可能になりました」


「あれでは人間を使う意味がない」


 人間を主体にする最大の目的。


 考えること。


 判断すること。


 状況に応じて行動を変えること。


 それらを失ってしまえば、従来型の怪人以下だ。


「細胞変化はさらに緩やかに。神経系への負荷も分散させろ。脳波に異常が出た場合は、肉体側の工程より精神維持を優先する」


「了解しました」


 博士は実験台のサクラを見る。


「人間を残したまま、怪人にする」


 それこそが、今回の実験だった。


「開始」


     ◇


 装置が動き出した。


 低い駆動音が実験室を満たし、モニターに無数の数値が走る。


「心拍、上昇」


「許容範囲です」


「細胞変化、開始します」


 人間の身体へ、本来なら持ち得ない生物の特性が組み込まれていく。


 博士が今回選んだのは、一種類ではなかった。


 蜂。


 蝶。


 蟻。


 そして。


 それら全てを受け入れる土台としての、人間。


 蜂の攻撃力。


 蝶の飛行能力。


 蟻の連携能力。


 異なる特徴を、一つの肉体へ重ねていく。


 ただし。


 主体は変えない。


 あくまで中心に置くのは、人間だ。


「筋組織、変化開始」


「骨格補強、正常に進行」


「神経接続、問題ありません」


 第一被験者の時とは明らかに違う。


 危険値まで上昇する項目がない。


 第二被験者よりも、さらに安定している。


 サクラの身体は、怪人化を受け入れていた。


「背部、変化します」


 背中が大きく盛り上がる。


 やがて、そこから人間には存在しないものが形成されていった。


 翼。


 閉じた状態のそれが、ゆっくりと形を整えていく。


 腕。


 脚。


 皮膚。


 身体の各所にも、複数の生物の特徴が現れていった。


 サクラの身体が小さく痙攣するたび、研究員たちの視線がモニターへ集中する。


 それでも。


「心拍、安定」


「血圧も問題ありません」


「脳波は?」


「……安定しています」


 博士の視線が止まった。


「もう一度確認しろ」


「正常範囲です。精神活動を示す反応も維持されています」


 第一被験者は、ここまで来ることすらできなかった。


 第二被験者は、肉体の変化と引き換えに人間としての精神を失った。


 だが。


 三人目は違う。


 身体が耐えている。


 脳も壊れていない。


「続けろ」


 博士の声に、わずかな熱が混じった。


     ◇


 長い処置の末。


 装置の駆動音が止まった。


「肉体改造工程……完了しました」


 研究員が息を吐く。


 実験台の上。


 そこに横たわっているものは、もう運び込まれた時の少女と同じ姿ではなかった。


 複数の生物の特徴を持つ異形。


 怪人。


 それでも、モニターに表示されている脳波は、人間としての精神活動を維持している。


「呼びかけろ」


「はい」


 研究員がマイクを取った。


「第三被験者。聞こえますか」


 反応はない。


「こちらの声が聞こえるなら、右手の指を動かしてください」


 数秒。


 何も起こらない。


 研究員が博士を見る。


 その時だった。


 サクラの指先が、僅かに動いた。


「……反応あり」


 別の研究員がモニターを確認する。


「偶発的な筋反応ではありません。脳波と一致しています」


「もう一度だ」


「第三被験者。聞こえていますか」


 少し間を置いて。


 再び。


 指が動いた。


 研究員たちが顔を見合わせる。


「意思反応、確認」


「精神活動も安定しています」


 博士は実験台のサクラを見つめた。


 肉体は怪人。


 それでも、中には人間が残っている。


 考えている。


 こちらの言葉を理解している。


「……成功だ」


 博士が初めて、そう口にした。


     ◇


 だが。


 それは博士にとって、完成を意味する言葉ではなかった。


「次の工程へ移る」


 研究員の表情が変わる。


「脳処置ですか」


「ああ」


 人間の精神を残す。


 判断力を残す。


 思考能力を残す。


 そこまでは成功した。


 だからこそ、次が必要になる。


 考えられるということは、命令へ逆らうこともできるということだ。


「第二被験者のように精神そのものを失わせては意味がない」


「では、人格は維持したまま?」


「そうだ」


 博士はサクラの脳波データを開いた。


「記憶も思考も判断力も残す。それらは、この方式の利点だからな」


「では、どこまで処置を?」


「命令系統だけでいい」


 研究員が博士を見る。


「考えるのは自由だ」


 博士は平然と言った。


「判断するのも自由でいい。だが、最終的な命令には逆らえないようにする」


 人間の知性を持ち。


 怪人の力を持ち。


 そして。


 こちらの命令に従う。


 それが完成形。


「脳処置の準備を始めろ」


「了解しました」


 研究員たちが動き始める。


 博士は満足そうにモニターを見ていた。


 第一被験者の死。


 第二被験者の暴走。


 二つの失敗を経て。


 ようやく、求めていたものへ手が届く。


 はずだった。


     ◇


「……博士?」


 一人の研究員がモニターを覗き込んだ。


「どうした」


「脳波が」


 博士も画面を見る。


 さっきまで安定していた波形が、大きく動き始めている。


「覚醒反応です」


「予定より早い」


「鎮静を追加します」


「急げ」


 研究員が操作する。


 だが。


 薬剤が投与されるより、ほんの少しだけ早く。


 サクラの目が開いた。


     ◇


 白い天井。


 眩しい光。


 サクラが最初に見たのは、それだった。


「…………?」


 頭が働かない。


 ここはどこ。


 どうして寝ている。


 起きようとする。


 動けない。


「……っ?」


 両手。


 両足。


 何かで固定されている。


 知らない天井。


 知らない機械。


 ガラスの向こうにいる、知らない人間たち。


 記憶を探す。


 最後に覚えているのは。


 道場からの帰り。


 そして。


 ブドウクレープ。


 その先がない。


「ここ……どこ……?」


 自分の声が出た。


 それだけで、まだ自分がいることに少しだけ安心した。


 だが。


 身体の感覚がおかしい。


 痛い。


 重い。


 全身が、自分の身体ではないようにぎくしゃくしている。


「第三被験者、覚醒!」


「鎮静剤を!」


 聞き慣れない声。


 第三被験者。


 誰のことだ。


 機械の一部が動く。


 何かが自分へ近づいてくる。


「……何?」


 怖い。


 理由なんて分からない。


 でも。


 身体の奥から、ここにいてはいけないと何かが叫んでいる。


「嫌……」


 サクラが腕へ力を入れた。


 ギィッ――。


 金属が鳴った。


「……え?」


 サクラ自身が驚いた。


 固定具が歪んでいる。


「拘束強度を上げろ!」


 その声で、恐怖が一気に膨らんだ。


「嫌!」


 もう一度、力を入れる。


 今度は。


 金属製の拘束具が、根元から引きちぎれた。


     ◇


「何!?」


「腕部拘束、破損!」


「押さえろ!」


 研究員たちが動く。


 博士も立ち上がった。


「第三被験者を止めろ!」


 しかし。


 今のサクラに、その命令へ従う理由などない。


 残る拘束も引きちぎる。


 実験台から転がるように降りる。


 足が床へ触れた瞬間。


 バキッ。


「……え?」


 床に亀裂が入った。


 踏んだだけ。


 ただ立とうとしただけなのに。


「何……これ……」


 サクラは自分の身体を見る。


 腕。


 違う。


 脚。


 違う。


 何もかも、知っている自分ではない。


 背中には、大きな何かまである。


「動くな!」


 研究員が近づいてきた。


 サクラが反射的に振り向く。


 その瞬間。


 背中の翼が大きく開いた。


「――っ!」


 猛烈な風。


 近づいていた研究員の身体が床から浮き、機材へ叩きつけられた。


「うわっ!」


「…………」


 サクラが固まる。


 何もしていない。


 少なくとも、こんなことをするつもりはなかった。


「私が……?」


「捕まえろ!」


 その一言で。


 考えるより先に身体が動いた。


 ここにいたら駄目だ。


「逃がすな!」


 サクラは走った。


     ◇


 速い。


 速すぎる。


 自分でも制御できない。


 廊下が後ろへ飛んでいく。


 曲がる。


 壁へぶつかりそうになり、慌てて身体を捻る。


 肩が壁を掠めた。


 それだけで、壁の一部が砕けた。


「…………!」


 怖い。


 自分の身体が。


 何をされるか分からない、この場所が。


 そして。


 何をしてしまうか分からない自分自身が。


 全部。


 怖い。


 警報が鳴り響く。


 赤い光が廊下を染める。


「第三被験者、逃走!」


「出口を封鎖!」


「捕獲しろ!」


 第三被験者。


 違う。


 自分は。


「……サクラ」


 走りながら、名前を口にする。


「私は……サクラ……!」


 そこだけは忘れていない。


 自分の名前。


 家族。


 道場。


 空手。


 そして。


 昔から何度も拳を交えてきた、あいつの顔。


 覚えている。


 なら。


 まだ。


 自分は自分だ。


「……帰らなきゃ」


 どこへ。


 どうやって。


 この身体で。


 そんなことは、まだ考えられなかった。


 今は、ただここから逃げる。


 それしかなかった。


     ◇


「第三被験者、施設外へ逃走!」


 研究室に報告が飛び込んできた。


「追跡班を出します!」


「白蟻部隊にも連絡を!」


 研究員たちが慌ただしく動く。


 だが。


 博士だけは、モニターに映る逃走記録を見つめていた。


 サクラは走っている。


 無意味に物を壊しているわけではない。


 邪魔なものだけを排除し。


 追っ手から逃れ。


 出口を探している。


 明確に考えている。


 判断している。


「…………」


「博士?」


「脳処置は?」


「まだです。準備に入った直後でした」


「一切、手を加えていないのか」


「はい」


 博士は目を細めた。


 だから逃げた。


 自分が捕らえられていると理解した。


 危険だと判断した。


 逃走経路を探した。


 怪人の肉体を得ても、人間としての思考は残っている。


「なるほど……」


「博士?」


 博士の口元が、わずかに持ち上がった。


「成功している」


 研究員が耳を疑ったように振り返る。


「しかし、逃亡しました」


「それは別の問題だ」


 博士は即答した。


「肉体は怪人化に適合した。精神も維持されている。記憶も判断力も失っていない」


 第一被験者にはなかった。


 第二被験者にもなかった。


 求めていた結果が。


 今、自分の意思で施設から逃げている。


「第三被験者は使える」


「ですが、命令には従いません」


「まだ脳処置をしていないのだから当然だ」


 博士はサクラのデータを開いた。


「回収すればいい」


「……生死は?」


 博士が研究員を見る。


「殺すな」


 即答だった。


「傷つけすぎるな。第三被験者は貴重な成功例だ」


「了解しました」


「生きたまま連れ戻せ」


 博士はモニターへ視線を戻した。


「脳処置さえ終わらせれば、完成する」


     ◇


 白蟻たちへ、新たな命令が下された。


 探せ。


 第三被験者を。


 殺すな。


 必要以上に傷つけるな。


 生きたまま、ここへ連れ戻せ。


 白い怪人たちが、次々と施設を出ていく。


 サクラを探すために。


 博士はその様子を、モニター越しに眺めていた。


 第一被験者は死んだ。


 第二被験者は壊れた。


 第三被験者は逃げた。


 結果だけを並べれば、また失敗に見える。


 だが。


「違う」


 博士はサクラのデータを見る。


 肉体は耐えた。


 精神も残った。


 知性も。


 記憶も。


 判断力も。


 全て、人間だった頃のものを残したまま。


 怪人になった。


「ようやく……」


 博士は椅子へ深く腰掛けた。


「成功例ができた」


 逃げたことなど、博士にとっては本質的な失敗ではなかった。


 見つければいい。


 捕まえればいい。


 そして、残された最後の処置を施せばいい。


 サクラのデータを保存し、博士は別の画面を開いた。


 そこには。


 まだ手をつけられていない被験者たちの記録が並んでいる。


 六人のうち。


 二人は、もういない。


 一人は逃げた。


 それでも。


 実験は終わっていない。


「第三被験者の捜索は白蟻に任せる」


 博士が告げた。


「我々は?」


「次へ進む」


 研究員が画面を見る。


「第4被験者……ですか」


「ああ」


 博士は椅子から立ち上がった。


「今回の失敗も、使える」


 サクラは肉体と精神の両方を保った。


 ならば。


 次に直すべきものは、もう分かっている。


「同じ失敗は繰り返さない」


「……脳処置を先に?」


 博士の口元が僅かに上がった。


「そうだ」


 逃げられる前に。


 命令する側を、決めておけばいい。


 その時。


 別のモニターに、一つの映像が映った。


 怪人たちと戦う男。


 ベルト。


 メモリー。


 能力を切り替えながら戦う、キット。


 博士は足を止めた。


「…………」


 その戦いを。


 しばらく黙って見つめる。


 そして。


 ゆっくりと笑った。


「いや」


 ただ次の被験者を作るだけではない。


 せっかくなら。


 もっと先へ進める。


「第4被験者には、別のものを試す」


「別のもの?」


 博士は画面の中のキットを指した。


「これだ」


 怪人ごとに能力を固定する必要などない。


 状況に応じて。


 必要な能力を選べるようにすればいい。


 その答えが。


 目の前にいる。


「準備を始めろ」


「何を作るおつもりですか?」


 博士は、キットの戦闘記録を停止した。


「戦えるものだ」


 その目に映っていたのは。


 次の被験者ではない。


 すでに。


 新しい兵器の姿だった。


※本作は、作者とChatGPT(AI)による合作作品です。物語の企画・原案・世界観・キャラクター設定・物語構成・展開の方向性など、作品の根幹となる部分は作者が制作しています。それらの原案や設定、作者との相談・修正・指示をもとに、ChatGPTが文章化、表現の調整、推敲などを担当しています。作者とAIが互いに案を出し、検討と修正を重ねながら、一つの物語として完成させています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。