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黒幕の物語  作者: 時根脱才 
モズキャッチャー編

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第一話 六人

第一話 六人


 薄暗い研究室で、同じ映像が何度も繰り返されていた。


 再生。


 怪人が動く。


 停止。


 数秒戻す。


 もう一度、再生。


 博士は椅子に深く腰掛けたまま、モニターから目を離さなかった。


 映っているのは、すでに終了した作戦の記録だ。


 怪人そのものの性能に、大きな問題はない。


 人間をはるかに上回る身体能力。


 モチーフとなった生物の特徴を利用した特殊能力。


 通常の武器では容易に倒れない耐久力。


 兵器として見れば、十分すぎるほど強力だ。


 だが――。


「ここだ」


 博士が映像を止めた。


 画面の一部を拡大する。


 本来なら、作戦上は別の行動を優先すべき場面だった。


 それにもかかわらず、怪人はモチーフとなった動物の習性に引っ張られ、目的とは異なる行動を取っている。


「やはり……能力だけを切り離すことはできないか」


 博士は顎に手を添えた。


 動物を怪人化すれば、その動物が持つ能力を大きく引き上げられる。


 それは、これまでの実験ですでに証明されている。


 問題は、能力とともに本能まで強く表へ出ることだった。


 狩る。


 逃げる。


 集める。


 守る。


 特定の物や場所へ執着する。


 動物ごとに異なる習性は、使い方次第では大きな利点になる。


 しかし作戦目的と噛み合わなければ、どれほど優れた能力を与えても邪魔になる。


 命令より、本能が勝つ。


「……非効率だな」


 博士は映像を閉じた。


 強ければいいわけではない。


 命令された場所へ行き、状況を判断し、目的に応じて行動を変える。


 必要ならば、自らの本能に逆らってでも任務を遂行する。


 求めているのは、そんな怪人だ。


 だが、動物を主体にする限り、そこには限界がある。


「ならば……」


 博士は立ち上がり、壁一面に表示された研究資料へ目を向けた。


 動物。


 昆虫。


 細胞。


 神経。


 脳。


 怪人。


 その中に混じっていた一つの項目へ、視線が止まる。


 人間。


 しばらく、その文字を眺めた。


 やがて博士の口元が、わずかに持ち上がる。


「逆にすればいい」


 近くにいた研究員が振り返った。


「逆……ですか?」


「動物を怪人化して、そこへ知性を求めるから無理が生じる」


 博士は人間の資料を開いた。


「最初から、知性を持つものを主体にすればいい」


「まさか……」


「ああ」


 博士は淡々と言った。


「次は、人間を使う」


     ◇


 命令を受けた白蟻たちは、その日のうちに動き始めた。


 場所も。


 年齢も。


 性別も。


 同じである必要はない。


 必要なのは、人間であること。


 そして、実験に使えること。


 人通りの途絶えた道。


 人気のない場所。


 ほんのわずかな隙。


 人間ほどの大きさをした白蟻たちは、そこへ現れては人を襲い、意識を奪い、運び去った。


 何が起きたのか理解する時間さえ与えない。


 一人。


 また一人。


 研究施設へ運び込まれていく。


 六人目が到着した時。


 白蟻たちは、何事もなかったかのように暗闇へ消えた。


     ◇


「揃いました」


 厚いガラスの向こう。


 六人の人間が、それぞれ別の台へ寝かされている。


 全員、まだ意識はない。


 男もいる。


 女もいる。


 年齢も違う。


 博士は一人ずつ、値踏みするように眺めていった。


「六体か」


「……六人です」


 研究員が思わず訂正する。


 博士が横目で見る。


「今はな」


「…………」


 研究員は口を閉ざした。


 博士は再びガラスの向こうを見る。


 これまでとは、根本から違う実験になる。


 動物を怪人へ変えるのではない。


 人間という土台を残したまま、その身体へ別の生物が持つ特性を組み込む。


「人間の最大の利点は何だと思う?」


 突然問われ、研究員が戸惑う。


「……知能でしょうか」


「それだけなら、他にも知能の高い生物はいる」


 博士は首を振った。


「人間は、本能に逆らえる」


 空腹でも、必要なら食べるのを我慢する。


 恐怖を感じても、理由があれば危険へ向かう。


 欲しいものが目の前にあっても、別の目的のためなら諦めることができる。


 もちろん、全ての人間が常にそうできるわけではない。


 それでも。


 最初から動物の本能を主体にするよりは、はるかに制御の余地がある。


「人間の思考と判断力を残し、そこへ怪人の力を与える。成功すれば、これまでより柔軟な運用ができる」


「ですが、人間の身体が改造に耐えられる保証はありません」


「だから六人いる」


 博士は当然のように答えた。


「一人で成功するとは思っていない」


 その言葉に。


 ガラスの向こうにいる六人を、人間として見ている気配はほとんどなかった。


     ◇


 実験開始に向けて、六人の身体データが次々と調べられていった。


 骨格。


 筋肉。


 神経。


 臓器。


 血液。


 細胞。


 改造後も残す機能。


 怪人化に伴って変化させる機能。


 研究員たちが確認を進める中、一人が資料を持って博士のもとへ来た。


「博士。改造範囲について確認があります」


「何だ」


「怪人化後の戦闘や任務に必要のない器官についてです。機能を維持するだけでも調整項目が増えますので、不要なものは――」


「具体的には?」


 研究員が資料を示した。


「例えば、生殖機能です」


 博士の目が止まった。


 数秒。


 考える。


「残せ」


「……残すのですか?」


「ああ」


「戦闘には必要ありません」


「戦闘だけが実験ではない」


 博士は六人へ視線を向けた。


「人間を怪人へ変えたあとも生殖能力が残っていた場合、次代はどうなる?」


 研究員が言葉に詰まる。


「人間として生まれるのか。それとも、怪人として生まれるのか」


「それは……」


「あるいは、どちらとも違うものになるかもしれない」


 博士の声に、わずかな興味が混じった。


「確かめる価値はある」


「ですが、現時点ではデータがありません」


「だからこそだ」


 博士は平然と言う。


「結果を見る機会を、実験前から潰す必要はない。人間としての生殖機能は残しておけ」


「……分かりました」


 研究員が項目を書き換える。


 博士にとっては、それも数ある実験項目の一つにすぎなかった。


     ◇


「第一被験者、準備完了しました」


 一人目が実験室へ運び込まれた。


 手足を固定され、身体中へ装置が接続されていく。


 モニターには心拍、血圧、脳波をはじめ、無数の数値が表示されていた。


 博士はガラス越しに被験者を見る。


「開始」


 機械が動き始めた。


 人間の身体へ、本来そこには存在しない要素が組み込まれていく。


 筋組織。


 骨格。


 神経。


 細胞。


 一つずつ。


 人間だった身体を、人間ではないものへ書き換えていく。


 被験者の身体が大きく跳ねた。


「心拍数、上昇!」


「想定範囲内だ。続けろ」


「血圧も上がっています」


「まだ止める数値ではない」


 博士はモニターを見続ける。


 苦痛に反応し、身体が激しく痙攣している。


 それでも、数値上は耐えていた。


「細胞変化、第二段階へ移行します」


「進めろ」


 研究員が操作する。


 直後。


 警告音が研究室に響いた。


「心拍、急低下!」


 博士の眉が動く。


「血圧も維持できません!」


「処置を止めろ。蘇生へ移行」


 機械が停止する。


 研究員たちが慌ただしく動く。


 薬剤。


 電気刺激。


 蘇生処置。


 しかし、下がった数値は戻らない。


 やがて。


 心拍を示していた波形が、一本の直線になった。


 警告音だけが響く。


「……第一被験者、死亡」


 誰かが告げた。


 研究室が静まり返る。


 博士はしばらくモニターを見ていた。


 落胆も。


 驚きも。


 ほとんど見せない。


「死亡直前までのデータを保存しろ」


「博士……?」


「細胞変化の速度を落とす。負荷が一度に集中しすぎている。神経処置の順序も変更だ」


 すでに博士の思考は、次へ移っていた。


「第2被験者へ反映する」


「続けるのですか?」


 博士が研究員を見る。


「一人目で完成すると思っていたのか?」


「…………」


「失敗したから、次は一つ先へ進める」


 ガラスの向こう。


 白い布が第一被験者へ掛けられた。


「第2被験者を準備しろ」


     ◇


 二度目の実験は、第一被験者の死亡データをもとに大幅に調整された。


 身体への負荷を分散。


 細胞変化の速度を抑える。


 処置の順番も変更する。


「開始」


 再び、人間の身体が作り替えられていく。


 心拍が上がる。


 血圧が変動する。


 何度か警告が表示される。


 それでも。


 今度は崩れない。


「心拍、維持しています」


「神経接続、正常範囲」


「細胞変化……最終段階へ」


 博士がモニターへ身を寄せる。


「そのまま進めろ」


 数値が安定する。


 そして。


「改造工程……完了しました」


 研究員の声に、わずかな興奮が混じった。


 ガラスの向こう。


 台に横たわるものは、もう運び込まれた時の人間と同じ姿ではない。


「成功……ですね」


 研究員が呟く。


 博士は答えなかった。


「拘束を一部解除。反応を確認しろ」


 固定具が外される。


 しばらくして。


 第2被験者が、ゆっくりと身体を起こした。


 研究員たちの間に緊張が走る。


 博士がマイクを取る。


「聞こえるか」


 反応はない。


「こちらを見ろ」


 被験者は俯いたまま。


「立て」


 その瞬間。


 身体が動いた。


「反応しました」


 研究員が声を上げる。


 博士も目を細めた。


 だが。


 次の瞬間だった。


 第2被験者が突然、横にあった装置へ腕を叩きつけた。


 轟音。


 金属製の機器が歪み、破片が床へ飛び散る。


「何を――」


 もう一撃。


 今度は壁。


 命令など聞いていない。


 目に入ったものへ、ただ力をぶつけている。


「止まれ!」


 博士が命令する。


 反応はない。


「第2被験者、制御できません!」


「鎮静剤を!」


「投与します!」


 薬剤が打ち込まれる。


 それでも止まらない。


 第2被験者は拘束器具を引きちぎり、近くにいた研究員へ腕を振り上げた。


「退避!」


 警報が鳴り響く。


 研究員たちが逃げる中。


 博士だけがガラスの向こうを見続けていた。


「…………」


 肉体改造には耐えた。


 怪人化も成功している。


 身体能力も申し分ない。


 だが。


 こちらの命令を理解している様子がない。


 目的も。


 判断も。


 何もない。


 ただ暴れる。


 博士の顔から興味が消えた。


「……使えないな」


「博士?」


「処分しろ」


 研究員が振り返る。


「しかし、肉体改造そのものは初めて成功しています。もう少し調整すれば――」


「成功?」


 博士が遮った。


「命令を理解できない。状況判断もできない。目の前のものを壊すだけ」


 ガラスの向こうで、また装置が破壊された。


「これなら、まだ動物の習性に従う怪人の方が扱いやすい」


「…………」


「我々が作ろうとしているのは、ただ強いだけの生物ではない」


 博士は冷たく言った。


「処分しろ」


「……了解しました」


 やがて。


 ガラスの向こうから、大きな音がした。


 それを最後に。


 警報は止んだ。


     ◇


 第一被験者。


 改造手術に耐えきれず死亡。


 第二被験者。


 肉体改造には成功。


 しかし、精神状態を維持できず制御不能。


 処分。


 博士は二つの記録を並べていた。


 人間を主体にすれば、本能の問題は解決する。


 最初は、そう考えた。


 だが。


 人間という土台そのものが怪人化に耐えられなければ意味がない。


 肉体が耐えても。


 その中に残る精神が壊れてしまえば、やはり使えない。


「肉体適合だけでは足りない……」


 博士は新しい実験項目を追加していく。


 肉体適合。


 神経適合。


 精神維持。


 命令系統。


 一つの問題を解決すれば、次の問題が見つかる。


 だが。


 博士にとって、それは実験をやめる理由にはならなかった。


 むしろ。


「面白くなってきた」


 失敗するたびに。


 完成形へ近づいている。


 そう考えていた。


 博士は残された四人へ視線を向ける。


「次だ」


「第3被験者ですね」


「ああ」


 研究員がガラスの向こうへ向かう。


 そして。


 次の一人が、実験室へ運ばれていく。


 まだ眠っている。


 自分がどこにいるのかも。


 これから何をされるのかも知らない。


 博士は、その姿を静かに見送った。


 第一被験者は、身体が耐えなかった。


 第二被験者は、精神が耐えなかった。


 なら。


 三人目は。


「今度は、どこまで保つ?」


 その問いに答える者はいない。


 第三被験者。


 その名は。


 サクラだった。


※本作は、作者とChatGPT(AI)による合作作品です。物語の企画・原案・世界観・キャラクター設定・物語構成・展開の方向性など、作品の根幹となる部分は作者が制作しています。それらの原案や設定、作者との相談・修正・指示をもとに、ChatGPTが文章化、表現の調整、推敲などを担当しています。作者とAIが互いに案を出し、検討と修正を重ねながら、一つの物語として完成させています。

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