よん
主人公不在は続く。長くなりました。
兄との年齢差を7つにしました。
「思い当たったのです。」
妻の言葉にフィンネルは警戒する。
「な、何を?」
妻は少し頬を染めた。
「実は、私もブランジェが常に眠り続けるのと同じように止められないものがあったなぁって。」
「やめられない?(ブランジェの眠りはその類いか?)」
娘の眠りの現状を癖か性質のように言うビエラに力が抜ける思いだった。
「えぇ、自分で意識した訳ではなかったのですが、今思えば、それこそが私の魔力コントロール方法だったのではと思ったのです。」
困った顔をしたビエラであるが、聞かされたフィンネルの方も困惑である。
「幼い頃、私は、親、兄弟を悩ませる程の食欲魔人だったのですわ。」
赤く染まった頬を押さえる夫人。
突然の告白。
意味がわからないフィンネル。
「へっ?しょ、食欲魔人?」
さすがに家令のジョゼッペは眉ひとつ動かさなかったが、フィンネルと同じく部屋にいたアンナとメリルは目を見開いた。
結婚して早10年。
初めて知る妻の秘密である。
因みにビエラを“食欲魔人”と名付けのは、何番目の兄だったか。
今の公爵家と同様に多産で有名な侯爵家から嫁いだビエラ。
「赤子の頃から、乳母だけでは足りず、母や牛からも乳を貰っておりました。ひたすら何かを口にしていないと夜泣きが酷かったようで、空腹で泣く時は、屋敷が揺れたそうです。」
抱き上げて泣き止む時は乳を要求しておらず、泣くと同時に局地的地震が起こる時は空腹。ビエラと接する内に学んでいった侯爵家の人々。
「赤子の時は1日の大半を乳を飲んで過ごしておりました。私の魔力の性質が分かるまで、我が家の家計の1/5は私の食費でした。」
初めて聞かされることだった。因みにビエラの魔力の性質が分かったのは彼女が10歳の頃である。食べることで安定する魔力なのだと少々天然であるビエラは気付いていなかった。年頃の貴族令嬢が食欲魔人など酷だと両親は考えたのだろう。人よりもエネルギー消費が激しいのだと言われてきた。人前でみっともなく空腹で倒れる訳にはいかないと言われてきたビエラは自分の異常な食欲を隠してきた。
「今思うと、母の教育方針には感謝しかありません。異常な食欲の片鱗が垣間見えても、それを上回るほどのレディとしてあるよう振る舞えるよう鍛練致しましたもの。マナーや社交術への惜しみ無いスパルタ教育。思い出しても泣けそうですわ。」
目頭をよよっと押さえるビエラ。
「まったく気付かなかった。」
昔を思い出してもビエラが貴族令嬢として何の問題もなかったのは確かである。
「社交に出た時は、ドレスのポケットに飴を忍ばせたり、付き添いの侍女に軽食を持たせたり、招かれた家の方に一室お借りして食事を秘密裏に用意させておりました。どんなに食べても太らなかったのは影の努力と魔力の放出を無意識に行っていたせいだと思います。」
大人になるに従い地震は起きなくなったが、食欲を我慢すると気分が悪くなり、魔力が暴走したとビエラは言った。
「私の魔力の放出で屋敷の裏の森が出来たと言ったら、信じて貰えます?兄の一人が教えてくれました。」
公爵家ほどではないが大きな屋敷の裏には魔物でも出そうな鬱蒼とした森があった。確か貴重な鳥が住み着いたと一時期話題になった森だったと思い出したフィンネルはぎょっとした。
「私の魔力が植物に影響を与えるものだとご存知でしょ?あなたの治める土地は、広大な農作地帯を含みますから。両親が結婚相手として条件としたのは豊富な農作物の収穫です。ラーゼフォン公爵領ならば空腹には困らないだろうと両親に言われました。」
当初、ビエラには多くの縁談が持ち込まれていたが、年頃の候補として一番の有力者がフィンネルだった。




