よん の に
若い頃の侯爵令嬢ビエラは社交界の花と言われる程の美貌ではあったが社交中に姿を消してしまうことでも有名だった。
「社交の途中で消えたのは?用意された部屋で休んでいたのではなかったのか?ダンスに酔うのだと言っていたじゃないか。」
妻からの告白に婚約期間中のビエラを思い出し確認する。
「お腹が空いて仕方なかったので、嘘を申しました。社交の日は朝からディナー並みの量を食さないと、持ちませんでしたの。時折、体調が悪いと言う理由を使って控室に引き上げたのも空腹だったからですわ。」
王宮や自分の家より高位の貴族宅に招かれた際は、専用の食堂を用意させる訳にはいかず、早々に引き上げていたのだとビエラは言った。ビエラが社交に出るときは侯爵家からの付き添いが普通の令嬢より多かったのは、専用のケータリングを持参していたからだと言う。
「もちろん、あなた様の人柄や勤勉さに惹かれましたのは事実ですわよ?」
呆然としている夫に慌てて言うビエラ。二人は所謂政略結婚だが、お互いの印象もよく知り合うほどに愛情を深めていった。
そう言えば、嫁いで来た当初に頼まれて作った離れがあったなとフィンネルは思った。
「植物の研究をすると言って建てたのは……。」
「もちろん!植物の品種改良を研究してはいましたけど、食事を作ってもいました。嫁いだ先で暴走せぬよう料理を覚えるのは私にとって急務。研究助手として当初実家から来ていたのは私に料理を教えるための料理人です。だってあなたったら、身一つで出来るだけ早く嫁いでくれなんて仰られるし……。今でも美味しいケーキやクッキーが食べられるのは、その時の努力からですの。」
婚姻を急いだのはフィンネルなり、ラーゼフォン公爵家の事情があったのだが。侯爵家には迷惑をかけることになるので離れぐらい安いものだった。
「今だからもうしますと……」
貴族令嬢には、相応しくないとされる料理が趣味だとビエラは言った。それは見事な笑顔で。
ほほほと笑うビエラ。
フィンネルの結婚当初、ラーゼフォン公爵領内に問題のある土地があった。それほど痩せた土地ではないのに作物が育たないのだ。目立った産業もない地域は領内の中でも一番税収が悪く若者の出稼ぎ率が高かった。
育つと言えば、味が悪い、家畜しか食さないような麦しか育たない。フィンネルは、離れを建てる条件にその地域の問題解決をビエラに課した。
ビエラにしてみれば、ちょいと魔力の暴走をさせるだけで土地が肥えるのはわかっていた。けれど其では続かない。そこで彼女は肥料の改良、品種交配に力を入れ、民と共にどうすれば良い作物が育つのかを話し合い問題を解決したのだった。ビエラには植物の気持ちが何となく分かっていたので彼らがこうしてほしいと言う希望を代弁したに過ぎない。家畜しか食べなかった麦は今では名産となり、その地域でのビエラの人気は天元突破していた。




