よんじゅさん
公爵の死のみならず、子息が行方不明と分かった時点から、後継について口を出してきた侯爵には、兄殺しの疑惑も持ち上がり、社交界で話題となった。侯爵はその時に自分の立ち位置が怪しまれていることに気付き、一時後継の訴えをしてくることはなくなっていたのだが…。
「自身の息子が成人を迎えたからか。」
ライオネスはため息混じりで呟いた。
「娘への婚約の打診も来ております。」
ため息と共にフィンネルも呟いた。
「なりふり構わなくなってきたな。」
アルドノア公爵家の分家であるドルベック侯爵家は、フィンネルの父である先代公爵がアルドノア公爵亡き後に宰相の地位に着いたことに散々文句を言ってきた内の筆頭だ。兄の地位を引き継ぐのは弟として当然だと言ってきたのだ。しかし、前ラーゼフォン公爵は、臣下に降りた時から宰相府に勤めており、弟のドルベック侯爵は軍部に所属する騎士の一人で宰相府には縁のない者だった。しかも、元を正せばアルドノア公爵家は、軍部の総大将を担う家系だったのだ。しかし、前公爵は軍や騎士には然程興味を持たず、学園も最初は騎士科に入り、戦略戦術コースを受けていたのだが、早々(飛び級)に卒業し、政経科へ編入、宰相府に就職したのである。軍部を担い、代々アルドノア公爵家の分家として公爵家からの指示に従ってきたレザリオン侯爵家、スラングル侯爵家、バルディオス侯爵家からは、もちろん前公爵に軍部の総括をしてほしいとの嘆願があったが、公爵は個々の分家には実力も才能もあり、領地経営も問題なし、総大将は不要。どうしてもと言うのなら、いずれ生まれてくる自分の子供をその地位に就かせるので、それまでは先代アルドノア公爵に従うようにと言ったのだ。隠居する気満々だった公爵の父は、言い出したら利かない息子の性格を熟知し、手段を選ばず我を通すだろう息子に従うことにした。
因みにこの国で領地を持つことが許されているのは公爵家だけである。広大な土地を分家に振り分け、更に下の階級にある貴族に管理させるというのが本来の形である。税金の取り決めや領地経営の方針について最後に裁決するのは公爵家となっている。アルドノア公爵家は、4つある分家の一つであるドルベック侯爵家には土地を与えて居なかった。それは、弟侯爵が領地の管理などができる性格ではなく、彼自身も一定の収入を約束してくれるなら領地経営は下の者に任せ騎士になると宣言したからだ。現在、ドルベック侯爵は、国の空軍とも言える部署の一つの部隊の隊長となっておりそれなりの生活をしていたようだが。
本来、自分に仕えるべき存在のレザリオン侯爵家の配下に入っていることも納得しかねるものだった。
そもそも、領地もいらない、騎士になると決めた時点で何処かの部隊に所属することは決まっていた。彼の苦情は予想の範疇にあり、兄公爵と父公爵は、彼に一応侯爵としての地位を与え、アルドノア公爵家に入ってくる税収の一部を渡しはするが、働かざる者食うべからず精神により空を飛べる吸血鬼族の特性を生かし、空軍に所属すること、なお地位は実力で得ること、もし、空軍のトップを狙うなら、有翼族の総意を得ること。レザリオン侯爵以上の才覚でもって領地経営を行うことなど、事細かく取り決め、精霊誓約のもと誓わせていた。現在ドルベック侯爵は、実力で空軍内のトップ2にまで上り詰めているが、領地経営などは門外漢でそもそも与えられてもおらず、そこまでで止まっていた。




