よんじゅいち
「で、どうなったんだ?その王子様は。」
礼拝堂に行かなかったのだろう尋ねた男にゲンさんは話を続ける。
「大旦那様の言うことには、第二王子は、婚約者である公爵令嬢に婚約破棄と国外追放を申し渡したんだと。」
「はぁ?真実の愛っつーてもよ、原因は男の浮気だろ?国外追放は、厳しくないか?」
「それに、第二王子に公爵令嬢を国外追放にする権利なんてあるのかい?」
疑問に対して声を上げる者がいた。食堂の娘、リティだ。
「真実の愛の前では、全て許されるのよ!」
声高に叫び、おかみさんのゲンコツが飛ぶ。
「でもよぉ、リティちゃん。婚約者の令嬢が本当に王子様のことが好きだったらどうなんだい?リティちゃんなら、その相手の女を許せるかい?」
ゲンさんの隣にいたおっさんの言葉に娘は黙った。
「……それもそうね、私だったら、女も男も許せないわ。はぁ、世の中、物語ほど上手くは行かないものね。」
ブツブツ言いながら娘は仕事に戻っていく。
「で、国外追放を言われた御令嬢はどうなったんだ?」
ゲンさんは少し考えながら言った。
「大旦那様が言うにはよ、婚約破棄と国外追放をその御令嬢は受け入れたって言うんだよ、」
「えっ!豪胆な……。」
「よほど、第二王子がイヤだったんだなぁ。」
「いや、なんか淡々としてたらしいぜ。」
おかみさんが、酒の入ったジョッキをゲンさんの前に置く。
「浮気男なんて、こっちから願い下げ~!って思ったんだよ、第二王子って言えば、国王陛下のご寵愛を一身に受けている第三王妃様のお子だろ、王妃様は御病気で離宮で静養中だと聞いたからねぇ、ちょーっとばかり、我儘に育っちまったんだよ。」
うんうんと頷くおかみさん。
俺は立ち上がった。
「おかみさん、おあいそお願いします。」
「はいよ!おやっ、いい食べっぷりだね、その細身の体の何処に入ってるんだか。」
おかみさんの言葉に笑う。
おかみさんは、俺に旅人かと尋ねてきた。
「いや、こっちが故郷なんだ。久しぶりに帰ってきたんだ。」
会話をしながら、ゲンさんからラーゼフォン公爵の名前が出たのを耳にした。公爵は、たしか国の宰相だったはず。
「じゃあ、婚約破棄されたのは、宰相さんの娘さんか。」
「ま、俺たちにゃ関係ないか。」
「そうだな、戦争始めるとか増税とかしなけりゃ、それでいいわ。」
「そういや聞いたか?」
話題が変わったらしい。
「ん?」
「……公爵家の、」
「あー、とうとう……らしいぜ。」
店を出ながら、ほんの小さい頃、あいつらが口にしていた名前を思い出す。
(たしか、ブランジェ……。)
俺は、その名前の主に会いたくなった。
ん?なんでだ?




