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我慢の女神は惰眠を貪りたい。  作者: 櫻塚森
第七章 ある冒険者の帰郷
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さんじゅうきゅ

「……なんかおかしい。」

「何が?」

空を見上げる青年。

銀色の瞳が空の青を無数の飛行体を捉えていた。

不意に彼が扉を開けて飛び出して行く。

「ジーク!!!」

青年の背には漆黒の羽根。

蝙蝠のような形は吸血鬼族の証だが、そもそも太陽の下で吸血鬼が空に向かって飛べることがおかしい。

「あっ!」

ジークの翼が鳥の羽根に変化した。

「Sランクって、凄いのね……。」

夫人の素直な言葉に答える者は居なかった。


物凄いスピードで向かってくる影に飛竜隊隊長が声を上げる。

「何者だ!」

「冒険者だ!テイマー資格も持ってる!ワイバーンの様子がおかしい!殲滅は待ってくれ!」

「しかし、下の村に被害が出ている!」

「ワイバーンが群れるのは、産卵期だけだ!こんなに集まってるのはおかしい!」

「しかし!」

「尾根部を狙ってくれ!」

“簡単に言ってくれる”と隊長は思った。

この世界の対空戦は、飛竜と言う小型のドラゴンに騎士が実際に騎乗するか、有翼人種が更に細かいチームを組み、戦略を立てて戦うのが主流で、兵士やドラゴンを休ませるための母船が後方で構えている。母船に乗っているのは大隊長でレザリオン次期侯爵、つまりレイラの息子である。

今回は相手がワイバーンと言うことで飛竜隊が前に出ているようだった。ワイバーンと飛竜の大きさは5分の1。小回りが利く飛竜は、騎乗する隊員が上手く誘導していた。飛竜隊の隊員は飛竜から落ちても自ら羽ばたける翼を持ち、再び飛竜の背に乗ることが出来ることが採用の条件だ。翼がなくても飛行魔法を使える者も入隊出来るが、飛行魔法は魔力を喰うため、魔法陣や詠唱などの魔術を瞬時に使いこなし、魔力の温存が出来る者ではければならない。

ワイバーンは、尾根部に強い刺激を与えると数分ホバリングしたまま動きが止まる。弱点でもあるため、彼らもおいそれとは後ろをとらせない。しかし、青年は躊躇なく急所を攻撃し、ワイバーンを機能停止にしていく。

目を見張る飛竜隊の面々。

瞬間、青年は声を上げた。

「分かった!そこだっ!」


青年は空中で体を回転させて何もない所に黒い魔法の輪を投げた。

何もないと思った所に魔法の輪を掛けられた黒いフードの男が現れ、汚い悲鳴と共に落ちていく。

飛竜隊の面々は何事かと動きを止める。反対に動きを止めていたワイバーンはゆっくりと、今までの喧騒が嘘のように静かに飛び去って行った。

青年は落ちていく男を空中で拾うと呆然としている飛竜隊隊長格の元へ連れていく。

「これ、黒幕。お渡しします。」

「な、何が起こった?貴殿は?冒険者だと言っていたが……。」

青年はほとんど見えていない顔を向ける。

「とある貴婦人の護衛に雇われている冒険者ジークです。御依頼主は、…あぁ、下で手を降ってますね。」

戦っていた飛竜は母船へと帰還しはじめており、青年の前にいる騎士の飛竜も帰りたいのかソワソワしているようだった。

「あれは、レザリオン侯爵夫人!?」

「結構上空なのに、流石目がいいですね。状況説明をしないと夫人がドレス姿で飛んで来そうなので戻ります。お疲れさまでした。」

青年は去って行った。


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