じゅうはち の よん
長官の分厚い書に書かれていたのは、とある国の愛の女神を祀る祠に納められていた石板に書かれていた物語だと言う。シグルズによると各地にある愛と美の女神の祠には同じような石板が幾つも残されていたようだった。
読み上げられた話に室内は静まりかえっていた。
「こわっ!」
アルビナ妃が身震いする。
「今回、ミハエル・ダグラムが起こした号外事件。彼は、学園でスフィア妃と出会い、彼女の取り巻きだった。」
「あいつが、スフィアの狂信者だったっていうのか?」
「じゃなければ、あんな自分の得にならない事件を起こすか?」
転落死したミハエル・ダグラムの死に顔は満足そうな笑顔だった。ダグラム伯爵家の後継として妻も子もいるが、彼がスフィア妃を女神のように慕っていたことは有名だったと言う。今回、ダグラム伯爵家は、ラーゼフォン公爵襲撃に関与していたこともあり、伯爵家はとり潰しが決まった。伯爵は、こんな大事になるとは思ってなかった、嵌められたと言っていたが、襲撃事件の主犯として処断された。ミハエルの妻と子供は例外的に妻の実家に戻ることが許され、息子は爵位を継ぐことなく、騎士見習いとして王宮の士官学校へ通うことになった。
「シグルズの見解は一致しているようです。スフィア妃の取り巻きが全て狂信者となっているかは分かりませんが、要心しておいた方がいい。」
「学生時代の彼女の取り巻きなら心当たりがありますから、リストアップして、スフィア妃との面会申請などを調べてみましょう。」
エマ妃が言う。
後宮に国王以外の男性が妃に面会を申し込むのは稀である。大抵の親、兄弟も面会を憚って来ない。妃と家族が合うのは城での晩餐会や舞踏会くらいだ。アルビナ妃の場合、実家は鬱陶しいだけなのでほぼほぼ面会を拒否している。実母にだけは孫の顔を見せているが、実母もアルビナ妃に似た性格なので孫との面会はほぼ夫や息子には事後報告である。
「ライオネスは、どうなのかな?」
アルビナ妃の意地悪そうな微笑み。
「シグルズ曰く、愛と美の女神の加護持ちとの出会いの印象が全てだと言うことだ。」
渋々答える。
「ん?」
「最初の印象を良いと思い、相手も良いと思ってしまったら、魅了にかかるのだと。それは、女神堕ち者が死ぬまで消えないんだそうだ。」
ガックリと項垂れるライオネス。アルビナ妃とエマ妃は顔を見合わせる。
「彼女を目の前にすると愛さずにはいられなくなる。願いを叶えたいと思ってしまう。……だ、そうだ。執務が長くなり、スフィアと会わない日が続くと彼女の存在は薄くなる。が、色々とスフィアは問題を起こすから、俺が行かねばならなくて、で、結果……。」
「婚約締結に、王妃教育か。」
「まぁ、悪循環。」
項垂れるライオネス。
「で、国王陛下。貴方は、スフィア妃をどうするおつもり?」
ライオネスは顔を上げる。
「国を滅ぼす訳にはいかない。スフィアには離宮へ生涯療養だ。魔法省長官からのアドバイスにより彼女には魔封じの指輪を付けてもらい、愛と美の女神より上位神の力を付与されたもので囲まれた生活を送ってもらう。で、思考の正常化を目指す………。」




