じゅうはち の さん
長くなった。
『女神堕ち』なる力を持つ者は、神の力の一端を担う。
神に愛された心根と容姿、魔力の波動を持つ。
しかし、神の力は諸刃の剣、使い方を誤れば己や周囲を傷付ける。神は気紛れに愛し子に対して試練を与える。
その試練とは、気紛れと神の気質により変化する。
試練をこなし、魔力の質を上げていくことで愛し子は成長し、神の意思に従い生きていく。
昔々、愛と美の女神は心優しい娘に力を授けた。
ピンクブロンドの豊かな髪に緑色の瞳と言う己と同じ色を持つ娘に。
娘に与えられた試練は、愛されること。沢山の者に愛される中で真の相手を見つけること。
とある神は、愛と美の女神に忠告する。
“人と言うものは、お前の考えるような美しい愛情だけで生きているのではない。”
しかし、娘は神の加護と与えられた試練を理解し、出会う人々からの愛情をまんべんなく受け入れ、ある日、愛を囁く青年に恋をした。
青年は、娘の国の王子だった。2人は互いを慈しみあい、支え合っていた。
「あなたこそが、私の運命。愛の女神様が導いてくれた唯一。私が幸せになるために必要な方。」
王子は気付く。
愛する彼女を慕う者が多いことに。
彼女のためなら命を投げ出そうとするものまでいることに。信者とも言える存在。
ある時、こんなことかあった。王子の婚約者が彼女への刺客を放ったのだ。
王子の側近であった者が、咄嗟に彼女と刺客の間にはいり、命を落とした。
命を落とした彼に彼女は言った。『貴方の尊い忠誠と犠牲は忘れない。』と。王子であり、次期国王である自分に忠誠を誓ったはずの側近が彼女に忠誠を誓ったと知り、王子の中で疑問が生まれた。
ある者は彼女のために自らの家に彼女を養女として迎えいれ王子に相応しい地位を与えた。自身の娘が候補者の一人であるにも関わらず。
『すべては、あなたの幸せのため……あなたに愛されなくてもよいのです。』
彼らの言葉に王子は次第に恐怖を覚えていく。
彼女の愛情が深くなればなるほど、真綿で首を絞められるような感覚。もし、彼女と結ばれて子供ができなければ、国王となるべき自分は新しい妃を迎えねばならない。貴族としての矜持もない彼女に納得出来るのか?そうなった時、彼女を慕う者達は、自分に剣を突き立てるのではないか。彼女を慕う者の中には、隣国の王子もいた。
下手したら、戦争が起こる。
背筋に冷たいものが流れる王子はそれでも彼女を愛していることに変わりなく、彼女に魔力を弱める指輪を渡した。
魔力が弱まり、目が覚めたように彼女から離れていく男達は増えたが、狂信的に彼女を愛する者は数名存在した。
彼らは国の重要なポストにつく予定の者達だった。
王子は国王となり、彼女は王妃となった。彼女を狂信的に愛する者達は家のために家庭を持つ。
彼女を幸せにするためには国を滅ぼす訳にはいかないと、国王は、彼女を特殊な後宮に閉じ込めた。王妃としての覚悟も矜持もない、ただ愛する国王のために愛を囁き、着飾る彼女は軟禁を愛だと受け入れた。自分を愛する者達は毎日のように面会に訪れ愛を囁いてくれ、贈り物をしてくれる。年を経ても愛される自分に酔いしれている彼女は気付かない。王の渡りがないことに。『王妃の愛情が他に移るのを嫌悪した。それは自身の子供であっても。』彼女が尋ねることのない答えを用意して。
彼は、彼女の狂信者達に語る。彼女からの愛情は、自分だけに向けられるべきもの。だから、子供は作らない。しかし、それでは彼女を守る国が成り立たない。お前達も家庭を持ち子供を作りながら、彼女を愛しているのだろう、ならば、私も彼女のために他の女に子を生ませようと思う。狂信者達は、国王の意見に納得する。やがて、国王は迎えた隣国の妃との間に王子を2人、姫を3人もうけた。
子供達も新しく妃となった者も愛の女神の加護を受けたと言う妃を取り巻く環境の異常に気付いていた。特に将来国を背負う王太子は。
国王は、王太子が成人すると同時に隠居し正妃と共に離宮へと籠った。あの狂信者達も一緒である。
新国王は命じる。
「あの女と男達を離宮から出すことを禁じる。」
真綿に包まれ周りを見ていなかった女は、新しい国王が立ったことを初めて知った。
「誰の子供?」
狂信者達は語る。彼女のために、国を滅ぼさぬよう頑張ったのだと。
彼女が夢から覚めた瞬間だった。彼女が王妃となった日から今までを狂信者達は楽しそうに語る。そして、自分が欲した愛情の結果を知り、本当の意味で彼女は狂い、周囲を巻き込み亡くなっていった。
こんなはずじゃなかったと愛と美の女神は苦悩した。
”だから、言っただろう?“
ある神の声が愛の女神に降りかかる。
“人間の持つ愛情は複雑だ。”
と。ではせめて、私の加護は魔力の少ない愛し子に与えましょう。人の世の権力などに関わらぬ世界に生きる娘に。"
女神にため息を吐く他の神々に彼女は気付かない。




