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我慢の女神は惰眠を貪りたい。  作者: 櫻塚森
第三章 婚約騒動とお花畑
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じゅうなな の はち

「場違い過ぎる。やはり、もう一つの方が……。」

兄はまだブツブツ言っていた。もう一つのデビュタントも主催は国だが、会場は毎年、ファフナー国の公爵家や侯爵家が担っている。参加したい民のためにドレスや礼服のレンタルまでしてくれるのだ。王城開催のデビュタントは、資格があっても上位貴族に遠慮して、参加する家は少ない。もちろん、どの令嬢も憧れではある。兄はスフィアなど無視すればよかったと思っていた。

「素敵だわ~。」

兄の気持ちなど知らず強い憧憬の目で上位貴族令嬢達を見ているスフィアだった。


貴族令息令嬢のデビュタント。毎年国王が祝辞を述べ、デビュタントを迎える令嬢の一人が、成人の代表として婚約者とダンスを披露するのが恒例で、選ばれた令嬢には名誉が与えられる。選ばれる令嬢とは、学年首位を取ったことのある才女と決められている。

代表となった令嬢、過去にはアルビナやエマージェンが含まれる。彼女達には、婚約者が居なかったためデビュタントで国王と踊ることになったのだが、ライオネスはまだ若く後継もいない。ボトムス公爵はそれも見込んで、勉強ばかりする娘のことを大目に見ていたと言っていい。公爵の見込み通りアルビナは学年首位を何度もとりデビュタントの代表となった。

今回、公侯爵家の令嬢は居らず伯爵家の令嬢が3人。この日のために用意されたであろう純白のドレスを身に纏っていた。しかし、その3人は、優秀ではあったものの首位についたことはなく、スフィアの年代で一番優秀だと言われていた子爵令嬢が代表として選ばれた。彼女には婚約者がいなかったので、慣例に基づき国王がファーストダンスを踊ることになった。

選ばれた令嬢はカチカチに固まっていたがライオネスと踊る姿が初々しく見えた。

その頃のスフィアは、国王をお爺ちゃんだと思っていたらしく、ファーストダンスを踊る二人には目もくれず、兄の隙を狙って懇意にしていた令息に声をかけていた。

「スフィア、後で私と踊ってくれるかい?」

「いいの?婚約者の方が睨んでるわ。」


会場の隅で行われていたスフィアはともかく。首席を取ったことはないが、爵位的に自分にもチャンスがあると思っていた令嬢達は国王と踊った令嬢に嫉妬し、彼女が火照った顔を冷やすため、賑わう会場を出たところで彼女を取り囲んだ。

ライオネスは自分の役目は終わりだと会場を後にしていたのだが、彼女達が揉めている場所は執務室に続く廻廊から程近く、声が聞こえてきたため足を止めてしまった。

「止めてまいりましょうか?」

テセウスが尋ねた時だった。

「皆様!今日はおめでたいデビュタントですのよ!同じ学園の仲間ではありませんか、アマリア様の名誉を共に喜びましょう!」

と言う声が聞こえてきたのは。声を上げて騒動に割って入ったのがスフィアだった。

スフィアは令嬢達から反論されていた。婚約者がどうとかこうとか言われていたがスフィアの声程には耳に届かず、ライオネスはため息を吐いた。揉めた最後に聞こえたのはスフィアの小さな悲鳴と人が倒される音。

ライオネスは、再びため息を吐き近衛を向かわせた。

令嬢達は、現れた近衛とその後に続いたライオネスの姿にすくみ上がった。

ライオネスの目に映ったのは、昨夜降った雨でぬかるんだ地面に尻餅を着いているスフィアだった。


身分が上の者にも物怖じしない発言と相反する儚げなげな容姿。彼女を突き飛ばした令嬢達はテセウスの姿を見て蜘蛛の子を散らすように去っていった。

彼に手を差し伸べられたスフィアは、我に返ったようにテセウスが汚れるからと自力で立ち上がった。

その姿では帰るのは無理だろうと着替えを提案したテセウスにスフィアは、このドレスが母や姉からのお下がりで大事にしてきたものだと語って、洗えば何とかなると悲しく笑った。

その時点で漸く姿を見せた ライオネスとスフィアは出会いを果たした。

それが全て彼女の計算てあるとも知らずに。



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