じゅうなな の ろく
ライオネスは、喉元まで出かけた言葉を飲み込みスフィアに侍女のことを尋ねてみることにした。
スフィアの視線は今日手に入れたエメラルドの指輪に固定されている。
元々、アルビナ妃やエマージェン妃は実家から持参した貴金属以外を欲しなかった。
それほど裕福ではない子爵家出身のスフィアを憐れに思い婚約時代は自腹でもって宝石を買い与えていた。
与える度に潤んだ目で感謝を述べ大切にすると抱き締めていた。あの頃のスフィアは幻だったのか、ライオネスは目の前の第三王妃を見てため息をこぼした。
「あら、ライオネス!来てくれたの?お仕事、お疲れ様!」
スフィアは、ライオネスに気付くと駆け寄り抱き着いてきた。この間まで、無邪気な彼女を自分の腕で抱き止めることに喜びを感じていたはずなのに、今、彼の胸中は複雑なものだった。
「ちょっと、あなた!国王陛下が来られてるのよ!お茶なりお酒なり用意なさいよ!気が利かないわね!」
部屋の隅にいた侍女に向けたスフィアの言葉にライオネスは固く目を閉じる。
「ごめんなさい、ライオネス。最近、侍女の質が落ちてるの。きっと、アルビナ妃かエマージェン妃の差し金ね、ライオネスから愛を向けられないからって、やり方がやらしいのよね、」
ライオネスは、侍女を下がらせるとスフィアに腰掛けるように言った。
「どうしたの?怖い顔になってる。お仕事大変?今、何の仕事してんだっけ?宰相さんとかに任せてライオネスはやすんだら?」
ニコニコと笑顔で言うスフィア。第三とは言え無責任な発言だった。
そう言えば、スフィアを妃として迎えるにあたり、アルビナ妃とエマージェン妃から王妃としての公務をスフィア妃にはさせないように言われていた。彼女が望むなら孤児院や病院の慰問ならさせてよいが、『王妃教育の第一段階を終了させている』のが条件だった。侍従長曰く、スフィアの王妃教育は第一段階に足をかけた程度だと言う。
以前、スフィアに孤児院や病院への慰問について考えを聞いたが、彼女から帰ってきたのは孤児院や病院よりも日々戦いの訓練に励んでいる騎士達を慰問したいと言ってきた。その希望をライオネスはあっさりと叶えたが後でアルビナ妃とエマージェン日々から呆れられた。
儚く愛らしいスフィアは、一部の騎士達の心を掴み、以後彼女の近衛に志願する者が増えた。現在、スフィア妃付の近衛は選別中で決まっておらず、ライオネスの近衛から何人かを回している段階だった。スフィア妃に対する近衛の評価は真っ二つだ。
ライオネスの側近でもあり近衛のテセウス・グランソードなどは、スフィアを毛嫌いしている筆頭だが、エマージェン妃の後見人であるグランハイム侯爵家の人間だから仕方ないとライオネスは思っていた。その事をテセウスに言うと顔を歪めるので訊かないことにしていた。そんな経緯もあり、それ故に難航していた。
「ところで、スフィアのところの侍女が決まらないと聞いたが、侍女のことをどう思ってる?」
ライオネスの問いが意外だったのだろうスフィアはキョトンとした。
「侍女?いちいち覚えてないわ。私が伯爵、元子令嬢だったから、下に見てくる子が多いなって感じ。でも、私は王妃だから、ちゃんと敬いなさいって教育してるの、後宮の侍女が大したことないのは、アルビナ様が舐められてるんじゃないかしら。」
また1つライオネスの心が失望した。




