なな
おかしい。長くなりすぎてる。削らねば。すっきり仕事をまとめられない
フィンネルからの手紙を受け取ったシグルズは、いつでも何処にでも伺うと返事をした。王立図書館と宰相であるフィンネルの執務室がある棟は別区画てあるが、15分もすれば到着出来る場所。返事がきたなら、今日にだって話が出来るとしたのだ。
「ご無沙汰しております、レイズナー卿。旦那様は、急ぎ屋敷に向かっておられるようですので、応接間にご案内します。」
公爵が指定してきたのは王都にあるタウンハウス。自身も伯爵位を頂きながら、図書室にこもり気味なシグルズ。(王都が何処と無く華やいでいるのは、そろそろ社交シーズンが始まるからか。)
と改めて思い出すことに。
(そう言えば、倹約家である妻が新しいドレスがどうとかこうとか言ってたな。)
爵位だけで領地を持たないシグルズの収入はそれほど多くない。実家からは幾度か資金援助の話があったが、子沢山なテセウスの家にこそ援助をと断っていた。本職の図書館勤務は所謂公務員であるが、給料は社交に関係なければ日々の暮らしに問題はない。自分も妻も余り社交には興味のない性格ではあるが、息子の将来を考えると頭が痛い。よく出来た妻はいつもニコニコしていて余り不平不満を言わない。家の切り盛りを一切取り仕切っている彼女とは恋愛結婚だ。子供に恵まれなかったことにかなりの負い目を感じているようだったのは、彼にとってもかなり辛い経験だった。なぜテセウスばかりと今思えば嫌悪感に苛まれるような心の葛藤も経験した。でも今は、幸せだ。少なくともシグルズはそう思っている。
レイズナー家の屋敷よりも豪奢な公爵邸を訪れて思わず考えてしまったことにシグルズは頭を振る。
(いやいや、我が家の台所事情より、今は、ブランジェのことだろ。母と公爵の話から、ブランジェは間違いなく『女神堕ち』だろう。)
シグルズがブランジェに会うのは初めてだ。
妹の話では、義弟に良く似て美しい赤子だと言う。シグルズは頭に若き宰相である義弟を思い出した。
前宰相である彼の父がとある理由で一線を退かざるを得なかったのは、一年ほど前の話だ。
当時副宰相は2人いたが、次期宰相とされていたのは、経験年数から言って壮年の伯爵だった。
あくまでも経験年数だけのことで周囲は彼が次の宰相になることに納得していなかった。
それは、単に伯爵に人望がないせいだった。残念すぎる理由である。
残念な副宰相の噂は図書館に引きこもり状態のシグルズの耳に届くほどだったため、あれが次の宰相?と首を傾げる者が多かったのは確かだ。なんせ、まだ爵位を継いでいない若者であるフィンネルが副宰相に決まった時に、彼には荷が重い、若すぎる、親の七光りだと先頭をきって公言していたのは有名な話だし、伯爵と言う地位を笠に着て地位の低い貴族出身の部下や実力で地位を得た無爵位(庶民)の役人をこき使い、若い娘が下に就こうものなら差別発言、行為を繰り返し、前宰相(フィンネル父)に窘められると言いがかりだと直属の上司でもないのにラーゼフォン公爵家と同格のボトムズ公爵に助力を頼む有り様。とにかく色々やらかしてくれている人物だった。自分よりも年若いラーゼフォン公爵に宰相の地位を奪われたと吹聴しながらも、誰からも相手にされなくなっていた彼はそろそろ宰相率いる国の中枢からは外されるだろうと言われていた。
彼が仕事も大して出来ないのに国の中枢から弾き出されなかったのは、王家を古くから支えてきたボトムズ公爵家の顔を立てていたからだとも言われていた。
度重なるやらかしの上に部下から信頼されていなかった彼は、ボトムズ公爵家からの信頼が薄れてきたことへの焦りから、事件を起こす。
ラーゼフォン公爵殺害未遂事件である。
魔石や魔導具を惜しみ無く使い宰相を亡き者にしようとした彼だったが、元々の魔力の差から殺害に失敗。高額な魔石、そして魔導具から足がつき、伯爵は逮捕された。そんな経緯もありフィンネルは自分が思っていた以上に早く後を継ぐしかなかった。
学生の頃から優秀と言われ、宰相の息子、公爵家の後取りとして、自分には想像もできない程のプレッシャーがあっただろう。色々な経緯があったにせよ、余りに若い就任に眉を顰める者も多くいたが、彼を上回る程の人材はいなかった。また、長年王国を悩ませていた隣国との関係を一滴の血を流さず解決したことは、先代に劣らぬ手腕で周囲を黙らせたことは記憶に新しく、彼の地位を揺るぎないものにした。