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我慢の女神は惰眠を貪りたい。  作者: 櫻塚森
第一章 女神墜ち
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ろく の さん

「……嘘だろ?ビエラ、安定の天然だな。」

母からの手紙を読んだシグルズは、今では社交界の花と言われる妹の天然ぷりをよく分かっているつもりだった。

嫁に行く前に自身の力について説明はしたと思う、いや、した。

王家に次ぐ力と才能、美貌で引く手あまただったラーゼフォン公爵家に嫁ぐ妹。婚約を勝ち取った父の執念を感じるが、公爵領の広大な農地はあの食欲魔人を飢えさせることはないだろうとの考えが過る。婚約内定から行われた時から始まった母のスパルタ教育。今思えばあの天然娘も緊張していたのだと言えば、自分の話など頭に入ってなかったのも仕方ないことか。

現在シグルズは、王立図書館に在籍しながら、大学で古文書などの解読研究をしている。実家にある離れは爵位を継ぐまでシグルズの専用図書室だったが、今は兄の次男の実験室に変わっている。

シグルズの専門は『女神堕ち』。国内外にも数人として居らずかなりマイナーな学問だ。マイナーゆえに『女神堕ち』の本来の力を世間に誤解される一因となっているのだが、おおよそのことが分かった今となってはマイナーで良かったとさえシグルズには思えていた。

あの時、妹の食欲に関心を持たなければもっと儲ける研究に手をだし、王立図書館などで働く必要もなかったなと、シグルズは妹を思い苦笑した。


母の手紙には、

『貴方のことをビエラの手紙に書きました。あの子のことだから、貴方の研究が何なのか理解していない可能性があります。きっと公爵はブランジェについて相談してくると思うから、貴方の研究成果を話してあげてね。』

とあった。

自分より位の高い弟。冴え渡る頭脳で国を動かしている若き公爵。妹の結婚式の時以来話もしていない。

どちらかと言えば、グランベルム侯爵家の力で暮らしているような学者貴族にとって遥か上にいる宰相閣下。

5歳近く年上だが緊張する相手には違いない。

しかしー、

可愛い姪っ子のためだ、依頼があれば喜んで力になろう。


グランベルム侯爵家が持つ伯爵位レイズナーを継ぎ、自らは結婚したもののシグルズは子宝に恵まれなかった。落ち込む妻には変わらぬ愛情を注いできたつもりだった。2歳違いの兄テセウスも父の持つ爵位の1つを継いだ。彼は今、国王の近衛の副長の地位についている。閑職の自分とは大違いだと思うこともある。テセウスは男だが『女神堕ち』の影響を受けているのか3人の子供に恵まれた。剣をほぼ1日中振っていたのが代償行為だったのではとシグルズは考えている。四六時中ではなかったのは、彼が『女神堕ち』に関して完全な証拠を持っていなかったからだとシグルズは分かっていた。何せ魔力からしたら彼よりも自分の方が多い。だから子に恵まれなかったのだ。現在、シグルズはテセウスの家に生まれた双子の一人を養子に迎え幸せに暮らしている。妻同士、また、兄弟仲もよい。

テセウスは、双子の他に1人娘もおり、『女神堕ち』についての説明と心掛けについても話している。一族の中に生まれた女児が背負うかもしれない『女神堕ち』について話だ。調べを進める内に気付いた自分の特殊能力。

「私も恩恵を受けていると言うことだ。」

昔を思い出していたシグルズの執務室のドアがノックされる。

ラーゼフォン公爵からの手紙が届いたのだった。

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