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43:葉っぱでシュワシュワさせて正気にしちゃって、そんでバイバイしちゃうオッサン

切りよく区切りたかったので、ちょい長いです。

もらい泣き。しかもコボルト全員が泣いてしまった。

泣いた後で、みんなは何処か恥ずかし気に、でも新しく来たコボルトとも距離が縮まったような顔をしている。


そんななかで、僕はオーストラリア・シェパードちゃんを始めとした助け出した44匹を呼び出した。

みんなの顔が引き締まる。僕が何かをしようとしているのが分かったんだろう。


「いいかい、これからちょっとだけつらくなる。でも、直ぐに平気になるからね」


言って、僕はAシェパードちゃんにかけていたライオン・ハートを解除した。


途端にAシェパードちゃんがブルブルと震える。恐怖がよみがえったのだ。

解放された初日は喜びに恐怖心がそれほどでもなかったのだろう。しかも、寝起きで直ぐに僕はライオン・ハートをかけた。それが解かれてしまうと、ゴブリンの仕打ちがまざまざと思いだされたに違いない。


立っていられずに、Aシェパードちゃんは座り込んでしまう。


僕は真・世界樹から葉っぱを千切ると、固く噛みしめている彼女の口に無理矢理に押し込んだ。


ピタリとAシェパードちゃんの震えが止まった。


そして


「スースーシュワシュワするぅうううう!」


ワオオオオーーーン! と吠えた。


誰かさんの時と同じだ。ちら、とその誰かさんを見れば、恥ずかし気にしている。


「あれ? あたし…」


正気を取り戻したAシェパードちゃんがキョロキョロを周囲を確認して、自分の手足を確認している。


ポンポンと僕は彼女の頭を撫でてあげる。


う、ううう。と恐怖という呪縛から解放されたAシェパードちゃんは泣き出してしまった。


マズーリが手を取って、彼女を丘のふもとへといざなう。


「次は、パンネロ」


僕は名前を呼んだ。


呼ばれたコボルトが嬉しそうに僕のもとまで遣って来る。

名前をおぼえてもらっていたというのが嬉しいのだろうけど。ゴメンネ、これは鑑定を使った裏技なんだ。ホント、ごめん。ブンブンと左右に振られる尻尾に申し訳なくなる。


それから僕は44匹に同じことを繰り返した。


……手間だった。けっこう、しんどい作業だ。


当初の考えではチッチやオールにも手伝ってもらう予定だったのだ。けど、なんだか御使い様が手づから施すというのが暗黙の了解っぽくなってしまって……僕は日本人で、場の空気を読めてしまうから…方針の転換が出来なかった。


でもさ、まだ44匹なんて手始めなんだよね。

だって。僕のアイテムボックスには258匹が眠っているのだから。


とはいえ、一連の作業をこなしていると夕方になってしまった。

1匹につき5分かかったとして220分。約4時間かかっているのだ。しかも赤ちゃんがぐずったりすると、授乳やオシメの取り換えで中断をさせられた。


中断した、んじゃない。させられた、のだ。


「神聖な儀式に漏れなく参加したいんです!」


とメス達が主張したのだ。


儀式って大袈裟な。こんなの見てても手持無沙汰でしょ? と僕は思うのだけど。コボルトは違うらしい。赤ちゃんはともかくとして、あの幼い兄妹ですら真剣な顔で「うんうん」と賛同しているぐらいなのだ。


考えてみれば。ゴブリンから真の意味で解放されるのだから、コボルトにとっては感慨無量の…まぁ神聖な? 儀式なのだろう。


しかし時間が時間だ。

チッチのお腹もグーと鳴って、みんなに笑われているし。


夕餉ゆうげにしよう!

ということで、盛大にやった。


畑でとれた作物は当然として、コボルトの大好物の肉だって僕がこれでもか! と振る舞った。

というか! どういう話を経たのか、44人には僕が肉を焼くことになってしまい、レベルが上がって体力もついたはずなのに、ヘトヘトになるぐらい焼かされた。


いやいや、僕が料理するとカロリーがね…。なんて言っても聞いてくれない。

みんな、待てを強要された犬みたいに切ない顔をするのだ。

かなうはずがないじゃないか…。


まさか、と思うけど…。これからコボルトが解放されるたびに僕が肉を焼くのかな?


夕餉が終わると、露天ぶろを堪能して、僕は見張りをすることもなくグッスリと眠ってしまいましたとさ。


そして翌日である。

前の日と同じように、コボルトが真・世界樹のしたにたたずむ僕に注目している。


僕は真・世界樹を見た。

昨日、あれほど千切ってしまった葉っぱが見事にひと晩で元通りになっているのだ。


「よろしくね」


と幹に手を触れれば、さわさわと葉擦れの音がして、たくさんの妖精がはしゃいで飛び回る。


僕は、アイテムボックスからコボルトを取り出した。


「おお!」


と見慣れているはずのチッチやオールでさえもコボルトがいきなり出現したことに驚いている。


でも、そんな驚きも、出現したコボルトの様子に水を打ったようにしずまった。

だって、その驚きをもって迎えられたコボルトは胎児のように丸まって意味不明なうわごとめいたことをブツブツと呟いているのだから…。


これでも僕がヒールで四肢の欠損を治しているからいいものの、救い出した時のままだったら、メスは悲鳴を上げていたかもしれない。


44匹の新参も、思い出しているのか青い顔をしている。

それでも1匹として倒れたりしないのが、大したものだと思う。


僕は真・世界樹の葉っぱを取って、丸まっているコボルトの口に押し込んだ。


みんなが固唾をのんでいる。


これだけ酷い状態が治るのかと思っているのだろう、僕も、顔にこそだしてないけど不安だ。


ブツブツ声が止んだ。薄ぼんやりとしていた目が、パッチリと見開かれて。


「スースーシュワシュワするぅうううう!」


ワオオオオーーーン! と膝立ちになって吠えた。


丘のふもとに目をやれば。

チッチと、44匹のコボルトが恥ずかしそうにしている。


そこまで恥ずかしがることもないと思うんだけど? なにかコボルトの琴線きんせんに引っかかるのかも知れないな。


ワオオオオーーーン! と思う存分に吠えたコボルトは、そこでようやくに自分の置かれた状況に気がついたようだった。


「ココ…は?」


「もう安心だよ、君は救われたんだ」


「救われた?」


怯えを孕んだ目が僕に向けられる。逃げないのは、まだ気が動転しているからだろう。


「ごらん


僕は視線で、僕たちを見上げているコボルトを示した。


「え? あ、ああああ…」


ニコニコと笑顔の同胞コボルトを目にして、正気を取り戻したコボルトが震える。


「これは…夢か?」


「夢なんかじゃないよ。なんだったら、自分の腕をつねってごらん」


「腕なんて、食われて…」


とまで言ったコボルトは、そこで改めて自分に腕があることに気づいたみたいだった。


「ある…? 腕が? 耳も? 尻尾も!」


「もう一度言うよ。これは夢なんかじゃない。君は救われたんだ」


「あ、ああああああ」


コボルトがボロボロと涙を流す。


パチパチと拍手がされた。盛大な拍手が丘を包む。


「さぁ」とマズーリが、顔をくしゃくしゃにして泣いているコボルトをみんなのところまで誘導する。


うまくいったぁ。僕は内心で安堵していた。

十中八九は治ると思っていたけど、不安はあったのだ。


さぁて。あとはこれを257回繰り返すだけだ!

言うまでもなく、1日で終わるはずがなかった。

258匹を正気に戻すのに、6日。44匹も合わせれば、都合7日間もかかってしまった。


そして258匹目のコボルトを元に戻した、その後だった。


「終わりましたな」


マズーリが呟いた。肩の荷を下ろしたみたいにスッキリした顔で。


「終わってなんかないだろ? まだ平原にはゴブリンがたむろしてる」


「それは、ここに居る者でどうにでもなりましょう」


マズーリはフッと透明に笑った。


「御使い様はお優しいですな。ですが、ワシはもう100年を生きもうした。これ以上に生きろというのは」


ハハ、とマズーリは心底からおかしいといった風に満面の笑顔で


「残酷というものです」


言った。


「そうか……そうだな」


「お爺ちゃん、どうしたの?」


僕とマズーリの会話に不審を感じたのだろう、幼いコボルト兄妹の妹ネッサが不安そうに訊いてくる。


マズーリは目を細めて少女を見て。


「みなには、すまなかった」


深々とコボルト達に頭を下げた。


「頭を上げてください!」

「我々はもうマズーリ様を憎んでなぞおりません!」

「あなたが勇者であることは、ここにいる者は1人残らず承知しております」


老いたコボルトを責めるような言葉はなかった。

みんながみんな、マズーリのことを認めて、その100年の孤独な戦いに尊敬の念を抱いているのだ。


マズーリは頭を上げた。


「ありがとぉな。みんな、仲良くせぇよ」


笑顔のままにマズーリは……パラリとほどけて土どころかほこりのように朽ちた。


一瞬ことだった。


コボルト達は何が起きたのか頭が追いついていないようで、呆然としている。


「爺さん…何処、行っちゃったんだ?」


兄妹の兄ジングが不思議そうに僕に問う。


「天国に…女神様のところへ行ったんだよ」


その僕の言葉で、みんなは理解したようだ。


すすり泣く声があっちこっちから聞こえてくる。


「なんで、みんな泣いてるの?」


「そうだよ。爺さん、女神様のとこに行けたんだろ?」


兄妹は不思議そうにしている。

死を身近にしていた2人は、大人から『死んだコボルトは女神様と一緒に幸せに暮らすのだ』と教えられている。だから『死』は悲しむことじゃないと思っているのだ。


兄妹の頭を、僕は撫でた。


「そうだね。おかしいね。だから、ジングとネッサだけでも笑顔で見送ってあげてくれないか」


うん! 2人は頷くと


「じゃーねー」


「バイバイ、爺さん!」


空に向かって元気に手を振った。


きっとマズーリは、泣かれるよりも、こうして元気に笑顔で見送られるほうが嬉しいんじゃないかと。僕は思うのだ。






夜。

最後のパーティーだ。


新しく正気を取り戻したコボルトには、僕がどんじゃか肉を焼く。


みんな、今晩は普段にもましてはっちゃけてる。

それというのも、僕が少しだけお酒をだしたからだ。


まぁ、最後だからいいじゃない、ということで。


コボルトは男女ともにお酒をたしなむらしい。

焼酎、日本酒、梅酒にワイン。ビールみたいな発泡系は『シュワシュワ』しちゃいそうなので出さないでおいた。


みんな、したたかに酔っぱらってワイワイ楽しそうだ。


そんななか、前から集落にいたオールたちは比較的静かだ。


それというのもメスは授乳中だからお酒を飲めないし。

それに付き合って、オスもお酒を飲んでないからだ。


オール達は飲みたいのだろうけど、仕出かしてしまった手前、嫁に遠慮して飲めないので、シュンとしてしまっている。


「そんなにショゲルことないから。オール達の分はキチンと残しておくからさ」


そう慰めて、ようやく気分を変えて楽しんでいる様子だ。


「さて、と」


僕は席を立った。


「そろそろ、行くよ」


丘のいただきへと歩く。


後ろからオール達、素面しらふの面々がついてくる。


「見送りはいいのに」


「いいえ、せめて我々だけでも」


いただきで、僕は集落の様子を眺めた。


ユニット・ハウスの数も増やして、住居は足りている。

井戸も釜土かまども増やした。

ついでに露天風呂も広くなっている。


「これなら不足なく暮らせるかな?」


「充分です」


チッチが太鼓判を押してくれる。


「じゃあね、みんな」


僕は自分の心臓に過剰ヒールを食らわせた。


痛みはない。痛みのないうちに、僕は死んだ。

あっさり死ぬスタイル。


ということで、次回は地球に戻ります。

ミカの影が薄い!

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