姫と老婆と12支
現代。日本、京都某所。
静謐に広やかな場所だった。
長い部屋の奥の高台には少女がちんまりと座している。10歳ほどだろうか。年の割には小柄で、羽織ったきらびやかな和装がいかにも重そうだ。
そんな少女の前には一段下がって老婆が1人。紫色を基調とした和服を着た老婆は、昔は美しかったのだろうとしのばれる顔で、昔から変わらぬのだろうと思われる鋭い眼光を平伏する者どもに向けた。
「顔を上げよ」
衣擦れの音をさせて、座敷に集った12人の高位術者が面を上げる。
子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥。それぞれが12支のお面をつけている。
男もいれば女もいる。老人もいれば、幼い子供もいる。陰陽師もいれば巫術者も、修験者もいる。ただひとつ。彼等彼女等に共通しているのは、上座に正座する少女に従っているということだ。
「本日、姫様の予言が成った」
老婆の言葉に、しかし座する面々の驚きはない。
少女の予言が的中するのは、当たり前なのだ。
過去、全ての未来を告げる言葉が実現している。それは最早、未来予知。
だからこそ。普段はそれぞれが唯我独尊で老婆の言うことなぞ聞きもしない12支の面々が、姫様に呼ばれたという一事だけで、こうして素直に集まるのだ。
金のために。
伝手のために。
保身のために。
まれに、少女に対する純粋な忠誠心のために。
それぞれが、それぞれの思惑でもって、集まるのだ。
「北海道に世界を変革せしむる魔術師が誕生する、でしたな」
周知していることを、それでもわざわざ口にしたのは申だ。
紳士然とした年配らしき申は、確執の多い12支の取り持ち役だ。
今もこうして会話の円滑な流れを促そうとしている。
「うう…ホントにそんな危ない魔術師が出てきちゃったんですねぇ」
フルフルと少女らしき卯が震える。
「世界、か…。それが日本を指すのか、それとも文字通りに世界中を指すのか」
老人らしき辰がうなる。
「どうだっていいさ、そんなの! スゲェ奴が出てきたッてんなら、面白くなりそうじゃねぇか!」
バシン! と拳と手の平を打ち合わせるのは寅だ。
そんな戦闘狂のことを、腰まで黒髪を伸ばしたほっそりとした女性らしき巳がお面の向こうの目を醒ませて見る。
「この時の為に、北海道には数多の術者を配しておきましたからね」
幼い子が舌っ足らずな口調で嫌味っぽく言う。
だが、そう言ってしまうのも仕方ない。ただでさえ少ない術者を北海道の各地に配ってしまった為に、人手が足りず、日本は他国の術者の跳梁を許しつつあるのだ。
「姫様のおん前だぞ!」
少年らしき戌が低く声をおさえて諫める。
「あんたはホントに姫様が好きだねぇ」
少女の声で酉が茶化す。
そんな酉を戌がジロリと睨む。
「おー、恐恐」
酉が大げさに肩をすぼめる。
少女と少年は幼馴染なのだ。
そんな2人には付き合い切れないとばかりに青年らしき午が訊いた。
「魔力は測れたのでしょうね?」
「うむ」
老婆はうなずくと言った。
「計測された魔力はおよそ1000」
「1000ですか…たしかに多いですが……」
大柄な体躯の丑が納得できないように言葉を濁す。
魔力1000。確かに多い。しかし、世界を変革するほどかと言われると首を傾げざるを得ない数値だ。何故なら、12支の平均魔力は800。多い者は1000を超える。
「しかし、姫様の予言は外れたことがない」
ふくよかな体格の亥が、美しい声で言う。
「それにしても、そんな強力な魔術師が日本に潜んでいたなんて…」
冴えない中年声で未が呟く。
「その新星の正体は分かっているのですか?」
申の質問に、老婆は「パンパン」と手を叩くことで応えた。
天上から巨大なモニターが落ちてくる
「おそらく、コヤツが新星のカギを握っておる」
モニターに映し出されたのは、ネットに投稿された動画だ。
中年男性が拳銃で撃たれている。そして……。
「消えた?」
午が愕然として言う。
「いや、そんな馬鹿な…」
驚いているのは他の12支もだ。
「おい、辰の爺さん!」
寅が術者として名高い辰に、どういうカラクリなのか話を振るも
「分からん」
辰の老人は頭を振った。
お面がなければ、蒼い顔をしているのが他の連中にも分かっただろう。
それほどに。人が消えるというのは辰にとって衝撃だった。
「だが、こいつは死んだんじゃないか?」
「ですね。最後は心臓に命中しているじゃないですか」
「素性は?」
丑と卯と子が口々に言う。
「現在、こ奴の素性は調べつつある」
老婆は言うと、もうひとつの動画をモニターに映した。
それは車から録画しているようだった。
何かが…走ってくる。
「人間?」
巳が誰にともなく呟く。
そして…走ってきた男は、走り去って行った。
「「速い」」
同時に言った戌と酉の声が緊張している。
そしてモニターの映像が再度繰り返され、途中で停止させられた。
ズームする。
そこに映っていたのは、殺されて掻き消えた中年男性だった。
「最初の事件があった、その後でこの動画は撮影されておる」
老婆が述べる。
「ありえない…あの傷で生きていたなんて」
治療を得意とする未が悲鳴じみた声をもらす。
「本当に同一人物なの?」
亥が老婆を見る。
「それが、分かっておらん」
「調査班は何を?」
申が訊く。
「交戦して、当該地域に近づくことすらままならん状態じゃ」
「交戦だと? 相手は?」
寅が訊くのに
「おそらくロシア」
「協会か!」
「だが何故、協会が?」
丑に「そういえば」と応えたのは卯だった。
「東ロシア協会が賢者の石を開発したというのは…みなさんも報告を受けていますよね」
「おいおい、あれは眉唾だろう?」
「そうです、一時は話題になりましたが、それっきり続報もないガセで確定した情報だったはず」
「ですが、本当に開発に成功していて…。それが、北海道に渡っていたとしたら。どうです?」
「憶測だな。しかし、可能性はある」
申がうなずく。
「俺が行く!」
声をあげたのは寅だ。
「こんな面白ぇこと、他の誰にも任す気はないぜ」
「ならば、抑えとしてワシも行こうかの」
辰が言う。
「じゃが、相手は東ロシア協会。もう2人ほど戦力が欲しいところじゃ」
その言葉に、老婆はうなずいた。
「なれば、酉と戌を。お主たちは当主となってまだ日が浅い。こう言うてはなんじゃが、抜けても補佐がうまいこと切り盛りしてくれるじゃろう」
「「わかりました」」
少女と少年が同時に答えて、これまた同時に顔を背ける。
「では決まった。寅、辰、酉、戌は北海道へ。調査へ出向かせている術者は帰還させて、直ちに守りに専念させる。よいな」
は! 返事をして、12支どもは座敷を立った。
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だが、彼等彼女等は知らない。
見込みをつけた相手が魔力1000どころではないことを。
さらに。文字通りに世界を変革しつつある神が顕現していることを。
まだ、知らない。
え~…。モチベーションがなくなりました。
毎日投稿はもう無理ッス。週に1回か2回ぐらい不定期に投稿します。
従って、今週はもう投稿なしと思ってください。
ブックマークしていただいた10人のかた。
特に評価をして下さった1人のかたには申し訳ないのですが。
虚しくなっちゃいました…。




