42:ダイジェストもなくコボルトを助けちゃって、そんで森の集落に帰ってきたオッサン
3日3晩をかけて平原を走り回って、ゴブリンの主だった集落を潰して回った。
その結果、ゴブリン・クイーンとゴブリン・キングを3組、ゴブリン・メイジを6匹にゴブリン・ナイトとかいうキングの劣化したようなものを4匹倒した。他にもホブ・ゴブリンやゴブリンを数え切れないほど生き埋めにしている。
こうして振り返ってみると、如何に最初に滅ぼした集落が強大だったか分かろうというものだ。
もちろん、コボルトも助け出した。
やはり穴の底に囚われていたコボルトは1匹残らず神経を摩耗してしまっていた。自死できないようにだろう、歯や爪を抜かれているようなコボルトもいたし、弄ばれたとおぼしい痛ましい状態のコボルトもいた。
けれど
「助け出せたじゃないか」
僕は項垂れるマズーリを慰めた。
「ワシのせいなんです、ワシの……」
「僕は話を聞いただけでしかないけど。マズーリがゴブリンを救ったこと自体は間違ってなかったと思う。ただ、救った相手が悪かった、それだけだよ」
きっと。前にゴブリン・クイーンに言ったように、貧していたゴブリンに出会っていたのなら。僕は彼等に力を貸していたと思うのだ。困っている者に手を貸す、増して姿形の違う種族に援助しようとしたマズーリとその集落のコボルト達は間違ってしまったかもしれないけれど、間違ったことはしなかったと思う。
ただただ。救った相手が悪かった。それだけだ。
僕等が助け出せたコボルトの数は258匹。
かつては、広大な平原にあまねく散って暮らしていたコボルトは万を超えていただろうに。
それがたったの258匹である。
しかも大部分が20代の後半から30代の後半だった。
子供は産まれる先から食われ。
大人は劣悪な環境に耐えられずに弱ったところを、やはり食われてしまったのだろう。
「帰ろう」
僕はマズーリを背負って、みんなの待っているであろう森へと向かった。
レベルUPした上にも身体能力向上の魔法をかけた僕は、新幹線ぐらいのスピードはでていると思う。こうなると風圧が邪魔になるし視界も利かなくなるので、そこは結界をはって防風にしてある。
ちなみに僕の今のレベルは8648だ。
正直、素直に喜べない。これはゲームではないのだ。現実に、それだけのゴブリンを殺したということなのだから。ゴブリンは悪だったけど、それはただ本能に従って生きていただけとも言えると思う。それを、僕は、僕の都合で殺したのだから。喜んではいけないと、そう思うのだ。
とはいえ、僕は主だった集落のゴブリンしか手にかけてない。
だだっ広い平原には、まだまだゴブリンが点在している。こうして走っていても、マップにゴブリンらしき光点が映ることがあった。
スルー、する。
殺しに疲れたというのもあるけれど、コボルトの復讐心を満足させる相手として残しておこうという考えだ。
近いうちにコボルトは平原に帰るだろう。その時、彼等彼女等は点在するゴブリンを攻めて鬱屈を晴らすに違いない。
森が見えてきたのは、だいたい正午をちょっと過ぎた辺りだった。
「跳ぶよ!」
森と平原との境目で僕はジャンプした。大跳躍だ。
「ぎゃああああ!」
マズーリがあられもない悲鳴を上げている。
僕はそのまま見事に真・世界樹のある丘に着地した。
マズーリの悲鳴を聞きつけたコボルト達がわらわらと集まってきて
「御使い様!」
と出迎えてくれる。
チッチもオールも。フジ姐さんもラウンド君も。40匹の集落のみんなに加えて、2匹の幼い兄妹に35匹の赤ン坊。それに新しく遣って来たオーストラリア・シェパードちゃんを始めとした44匹のコボルトが笑顔で迎えてくれる。
「お帰りなさいまし!」
赤ン坊を抱いたメスたちが我先にと丘を駆けあがってくる。
けれど、僕が背中からマズーリを下ろすと、気まずそうな顔をした。
マズーリも居たたまれなそうだ。
そんな老コボルトに抱き着くコボルトがいた。
Aシェパードちゃんだ。
「お爺ちゃん、無事だったんだね。よかった」
抱き着かれて、マズーリはおろおろしている。
考えてみれば100年近くも1匹でいたのだ。他のコボルトと触れ合ったのは久方ぶりどころの話じゃないだろう。
おろおろ、わたわた、歴戦のマズーリは面白いくらいに慌てふためいて、僕に助けを求めてだろう視線を向けてくる。
それが無性におかしくて可愛らしくて、それでいて悲しくて。
僕は吹き出してしまった。
「マズーリ、何か言ってあげなよ」
マズーリは諦めたように体の力を抜くと、Aシェパードちゃんを恐る恐る抱き締め返しながら言った。
「ただいま」
「おかえりなさい」
Aシェパードちゃんが満面の笑顔で返す。
すると、新入りの44匹も「おかえりなさい」とマズーリに対して笑顔を向けた。
彼等は初めこそマズーリの名前に忌避感を示していた。けれど、今と同じように天真爛漫なAシェパードちゃんが感謝を表したおかげで、囚われの身を解放してくれたマズーリに対して素直に接するようになっていた。
というか…御使いなんていう訳の分からない存在で毛皮のない僕や、自分たちと年齢の近いオール達よりも、老齢のコボルトに親しみと尊敬の念を抱いたというべきかもしれない。
そんな様子を見ていたチッチ達も、もじもじしてから言った。
「お疲れさまでした」
「あ、ああ」
マズーリが照れくさそうに返す。
そんな反応にメスのコボルト達が柔らかく微笑む。
雪解けとまではいかないだろうけど。悪いコボルトではないと分かってくれたのだろう。
ワイワイガヤガヤ、しているなかでオール達、前から集落にいたオスの元気がいまいちだ。
僕はフジ姐さんに訊いた。
「蹴っぽってやったのかい?」
聞いたメス達がニンマリと笑った。
「もちろんです」
聞こえたのだろう、オス達は小さくなる。
それが可笑しくて、僕は声をあげて笑った。
くはは、とマズーリまで笑っている。
煩かったのだろう。「ミャー」と猫の子供のような声をあげてチッチの抱いた赤ん坊が泣きだしてしまった。
「おーおー、元気な坊やだ」
マズーリが目を細める。
チッチは手慣れた様子で「よしよし、ねんねこね~」なんて言いながら赤ん坊を寝かしつけると
「よかったら、抱いていただけませんか?」
とマズーリに……全ての元凶と言われていたオスに自らの赤ン坊を差し出した。
「い、いや。ワシは…」
「100年ものあいだ、たった1匹でゴブリンと戦い続けてきた勇者であるマズーリ様に抱いていただければ。この子は強くなれると思うのです」
ああ……チッチ達は疾うの前にマズーリに対する恨みつらみを捨てていたのか。
僕たちは黙って、マズーリとチッチと、そして赤ん坊を見守った。
勇者と呼ばれた老いたコボルトが……ゆっくりと赤ん坊を受け取って。
「小さいのぉ。柔かいのぉ。あたたかいのぉ」
おいおいと泣いた。
それは戦士の涙じゃない。マズーリの涙だ。
だから僕は前のように背を向けたりはしなかった。マズーリの肩を抱いて、いっしょに泣いてやった。
オッサンだから。涙腺がもろいのだ。
あとレベルが……バトル漫画みたいにインフレしてしまう!




