38:オールたちに加勢、そんで助けたコボルトに感謝されるオッサン
「らあああああああああ!」
僕は大声を上げた。
ゴブリンどもが僕に気づく。ヨダレを垂らして、駆け向かわんとする。
「カッター!」
手加減なしの全力全開だ。
薄い空気の刃がゴブリンどもを上下に裂いて吹き抜ける。
素晴らしい切れ味だ。
実際。あるゴブリンは10メートル以上も走ってから、ズルリと腰から下が滑って、それから上半身が地面に落ちるような始末だった。
これだけでゴブリンは約半分になった。
当のゴブリンどもは顔を見合わせてから。我先に死体に食らいついている。
僕はジャンプした。
「結界」
で死に体のマズーリを囲う。
それからオール達に目を向けた。
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オール 【職業:戦士長】
種族:コボルト
性別:♂
年齢:29
レベル: 30
HP : 220/310
MP : 60
こうげき:75
ぼうぎょ:35
ちから : 90/110
すばやさ : 320/380
きようさ : 130/150
かしこさ : 180/220
せいしん : 270/300
こううん : 180/180
かっこよさ: 300/470
スキル:剣技 lv6
:盾 lv3
:小隊指揮 lv4
BAD:疲労(ステータスの値を減少
:空腹(ステータスの値を減少
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マール 【職業:百人隊戦士】
種族:ホブ・ゴブリン
性別:♀
年齢:56
レベル: 8
HP : 500/540
MP : 25/ 25
こうげき:250
ぼうぎょ:120
ちから : 150
すばやさ : 100
きようさ : 50
かしこさ : 150
せいしん : 200
こううん : 160
かっこよさ: 500
スキル:棒術 lv3
:百人指揮 lv1
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ホブ・ゴブリン!
上位種か!
オールたちは、まだ僕に気づいてない。
四方八方からホブ・ゴブリンを攻め立てているけれど、どうにも攻撃が通ってないようだ。逆にホブ・ゴブリンの攻撃もすばやさに勝るコボルトに当たってはいない。当たっていたら、無事ではすんでないだろう。
ここからホブ・ゴブリンを僕が殺してしまうのは容易い。
でも。僕は香の言葉を思い出していた。『復讐って大切ですよ。ムシャクシャして、モヤモヤして。それを晴らすのは大切ですよ。あたしは女だから。子供だから、それをコウヘイさんに任せちゃったけど、ユーリィは男だもん。自分でやらないと』
ここまで来たんだ。
僕は物質生成で『剣』を造りだした。2回目だ。オオカミの時よりもこなれたのか、なかなかに斬れ味よさそうな剣ができる。
「オール!」
僕は生成した剣をオールに向かって投げた。
オールが僕を見上げ、ザクリ、と剣が彼の前に刺さる。
「果たせ!」
オールは頷いた。剣を抜いて、ホブ・ゴブリンへと疾走する。
ホブ・ゴブリンはほとんど無防備だ。今までコボルトからの攻撃が通らなかったことの油断。加えて、僕という闖入者を見上げてしまっている。
僕は大空を滑空する。
滑空しながら、オールを見る。
オールは……ホブ・ゴブリンの喉へと剣を突き刺した。
ホブ・ゴブリンの僕を見ていた目が見開かれる。
そのままオールは剣を振って、ホブ・ゴブリンの首を落とした。
オールが満面の笑顔で僕を見上げる。
「お見事!」
僕は親指を立てて応えつつ、平原へと降り立った。
そんな僕の前に、巨躯のゴブリンが立つ。
ホブ・ゴブリン。
まだいたのか。
「貴様! 何者だ!」
「ゲスに答える名なんぞ」
僕は名も知らぬホブ・ゴブリンの割れた腹筋に拳を叩きつけた。
「ない!」
ボン! とホブ・ゴブリンの腹が爆ぜて、中身が向こう側へとばらまかれる。
そのバラまかれた内臓へとゴブリンどもが殺到する。
「見ていられないな」
僕はオール達のところまで引き返した。
歴然たる力の差を見たからなのか、それとも食事がたんまりとあるからなのか、ゴブリンが僕たちを襲おうという気配はなくなっていた。
「御使い様」
オールを始めとした20匹のコボルトが膝をつく。
「言いたいことはある」
僕の責めるような口調に、オール達が緊張する。
「けど」
と僕は続けて、再び物質生成で剣を19本つくった。
「ここまで来た、その想いを存分に晴らしたらいい」
「よろしいのですか?」
「よろしいも何も、その為に来たんだろ? なら、剣をふるえ。憎い仇の血を浴びてこい」
「はっ!」
コボルト達が勇んで剣を掴み走って行く。
そんな様子を、残された44匹のコボルトが所在なげに見送る。そして近づく僕に気づくと、ある者は毛を逆立てて警戒して、ある者はブルブルと震えて怯えだした。
「怖がる必要はないよ。僕は、女神からコボルトを助けるためにと寄越された御使いだから」
一定の距離を置いて話しかける。
それにしても酷い有様だった。みんながみんな何処かしらを失っているのだ。
分かっている。
食われたのだろう。
僕はなかでも一番衰弱している、片腕のないオーストラリアン・シェパードに歩み寄った。
可哀想なぐらい震えてしまっている。
恐くない、と口で言っても信じてはくれないだろう。
僕はそっとオーストラリアン・シェパードの頭に手を乗せた。
「ヒール」
オーストラリアン・シェパードが回復する。失っていた腕も、耳も、治っていく。
「わ、わたし…」
可愛らしい声だった。女の子らしい。
Aシェパードちゃんは、失ったはずの腕をさすって確かめている。
と、えぐえぐ泣き出してしまった。
「ありがとう…ございます、ありがとうございます」
「もう大丈夫だから」
Aシェパードちゃんに笑いかけると、抱き着かれてしまった。
全力ヒールだったからか、毛並みもフサフサになっている。
う~ん、役得だ。けど、臭いはある。
僕は改めてコボルト達に目を向けた。
「もう1度言うよ。僕は女神さまから、君たちコボルトを救うように言われて来た御使いだ」
「御使い様…」
腰が抜けたように、コボルト達がヘナヘナと崩折れる。
「おいで」
僕はそのうちの1匹を手招いて、Aシェパードちゃんにしたのと同じように「ヒール」と唱えた。
「腕が! 尻尾も戻ったぞ!」
喜んでいるコボルトに、他のコボルトに肩を貸して僕の傍まで連れてくるように指示する。
そしてヒールを繰り返すこと42回。僕はすべてのコボルトを治療した。
そのあいだに1匹のゴブリンらしき光点が逃げて行ったけど、見逃した。追いかけるような余裕がなかったのだ。逃げるくらいだから、あれはホブ・ゴブリンだろう。
マップで確認する限り、ほとんどのゴブリンはオールたちに片付けられている。
僕が半分にまで減らしていたし、ゴブリンは仲間の死体を貪ることに夢中だったから、それこそ草を刈るようにオール達はバッサバッサとゴブリンの首を刈れたことだろう。
僕はマズーリの許へと歩いた。
ぞろぞろと怪我を治したコボルト達がついてくる。ちなみにAシェパードちゃんは僕と手をつないでいる。
「御使い様!」
歩くうちにも、オール達が合流する。
みんな晴れ晴れした顔をしているけど、集落に帰ったら大変だぞ。ここでは言わないけど。
マズーリを囲っていた結界を解く。
「う」
とコボルト達が目を逸らす。それほどまでにマズーリは食い荒らされていた。
でもまだ…生きている。
目、が僕を見たのが分かった。
「ほんとうに死なないんだな」
僕はマズーリにヒールをかけた。
五体が復活する様子に、コボルト達が感嘆の声をもらす。
腕や尻尾の復活を目撃したコボルトでさえも、だ。
それほどまでに、マズーリの損傷はひどかったし、それが見る間に治るのは奇跡だったのだろう。
五体満足になったマズーリは僕の前で畏まった。
「マズーリ、あんまり無茶はしてくれるなよ」
「おそれながら、それは聞けませぬ」
「まぁ、そう言うと思ってたよ」
無茶をして100年近くを生きてきたコボルトだ。僕が何を言おうと無駄だろう。
「マズーリ、ここ等でみんながゆっくりできる場所はないかな?」
「なれば、こちらに」
僕等はマズーリに誘われて、ゴブリンの血で汚れた場所をはなれた。
その際に「ワーム」で死体を地面に埋めておくのを忘れない。
それをたまたま見てしまったAシェパードちゃんが悲鳴をあげて、助け出したコボルトが魔物がでたと騒いだけれど……ワームの魔法ってつくづく嫌われるなぁ。




