37:ゴブリンとか生理的に無理、そんでミカからお墨付きをもらうオッサン
今日から2000文字ぐらいになります。
「フライ!」
と鳥のように飛んだ僕は、その10秒後には
「無理だ~」
地上に降り立って、震えていた。
身ひとつで空を飛ぶことの恐怖よ! 飛行機や気球は理屈があるから恐怖はない。けれど、魔法は別だ。理屈が分からない。魔法だから、飛べてしまうのが……怖いのだ! いきなり空中から墜落したらどうしようという想像力が、僕から空中を飛ぶという選択肢をなくしてしまった。
「どうするよ…」
森のなかで途方に暮れていると、誰かに呼ばれているような気がした。
ん~?
誰もいない…よな? けれど、確かに誰かが呼んでいる。
ジーと見詰めていると、うっすらと妖精が見えた。あっちあっち、と身振りで方向を示してくれている。
「もしかして…オール達が向かった先を教えてくれてるのかい?」
つい、訊いてしまったんだけど、妖精はこくこくと頷いている。
すごいな! 知能まであるのか、妖精さん!
「ありがとう」
僕は教えてもらった方向にダッシュした。
「身体能力向上」さらにはMPを『すばやさ』に1000割り振る。これ以上だと、たぶん走って5分ももたずに足が千切れる。
森を抜け、平原に出る。
「おお!」
思わず足を止めてしまった。それほどに胸に迫る光景だった。
夕陽が地平線のむこうに隠れようとしていた。燃えているような赤色が空と平原に広がっているのだ。
妖精さんがふよふよと漂ってきて、再び方向を指示してくれる。
お礼を言って、僕は足を急がせた。
赤い平原を走る。
走るうちにも、視界の隅に展開させていたマップに何百という青色の光点があらわれた。
「なんだ?」
大昔のアメリカ大陸みたいにバイソンの群れでもいるのか?
このままだと、かち合ってしまう。
ギリギリのところで僕はジャンプした。大跳躍だ。
空中から『群れ』を確認する。
「ゴブリン…」
その何百という光点はバイソンなどではなくゴブリンだった。
腹の突き出た、日本絵画の亡者に似た風貌。まさしくアレがゴブリンだろう。
そんな亡者の群れが、争っているのだ。組み付き、噛みつき、引き裂いて。夕陽に赤く染まった大地を、さらに赤黒く染め直しているのだ。
「地獄かよ…」
生理的嫌悪感が湧く。
大地に降りると、僕は逃げるように駆けた。
マップのあっちこっちに群れがある。
「ぜんぶ、ゴブリンかよ」
ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!
進行方向のゴブリンに見つかってしまったようだ。亡者どもが大挙して寄せてくる。
ぞわぞわ、とした。
コボルトに聞いた限り、ゴブリンは人質を取る戦術が使えるほどの知性があるはずだった。けれど、バタバタと寄せてくるゴブリンどもの目にまともな知性の閃きは感じられない。
実を言えば、僕はゴブリンを殺すのにためらいがあった。
コボルトの言い分だけを聞けば、ゴブリンは絶対的な悪だ。けれど、一方の話だけでは真実は分からない。
ゴブリンにもゴブリンなりの言い分があるのでは、と思っていたのだ。
でも、目の前のゴブリンは正しく亡者。
動物にも劣る、イナゴの群れにしか見えない。
これは……食い荒らす。放っておけば、何もかもを。
「還れ!」
ジャンプ! 空中から亡者どもを見下ろしつつ
「結界」
で連中に蓋をかぶせる。
しかる後に。
「電子レンジ」
ボン! ボン! と結界のなかでゴブリンどもが爆発する。マップの光点がひとつ残らず消失する。
結界を解除。
「ワーム」
で大量の死体を地面に埋め込む。
死体を放棄しておいたら疫病が恐い。
そして一連の魔法を使い終わった僕は地面に着地して、そのまま勢いを殺すことなく駆け続けた。
『レベルアップしました』『レベルアップしました』『レベルアップしました』
ミカのアナウンスが立て続けに告げる。
なかなか煩いんですけど…。音声のミュート機能とかないんだろうか。
『そんなンあるはずないッしょ!』
ミカの声が返ってきた。
『ツーか。レベル、ばんばん上がってるじゃん。言った通りチートしょ?』
確かにチートだ、これは。どんなに強い相手をたおしても1しかレベルは上がらないけど、逆に弱い相手を倒してもレベルが上がってしまうのだから。
『でしょでしょ。でさ、そろそろ戻ってこない? 香たちがさ、コウヘイは何時になったら生き返るのかってうっさいのよ』
それなんだけど。今さ、ゴブリンを退治しようと思ってるんだ。
『ゴブリン、てーと…ああ、あのずんどこ増えるあれね』
それが平原いっぱいに居てね。
『ふんふん、なるほど。じゃー間引きが終わるまで待ってるわ』
間引き、て。ゴブリンもミカが創ったんじゃないの?
『冗~談! ワタシは出来てる世界を貰っただけだもん』
……ちなみに訊くんだけど。世界って、そんな簡単に貰えるもんなの?
『ニシシシシ。お願いしたらくれたよ、ちょ~とお願いしたらね』
そう。ちょっとお願いしたんだ。
きっと、ちょっと物理的に厳しくお願いしたんだろう。
『ンじゃ、適当なところで終わらせて帰ってきて』
プッツリとミカの連絡が途絶える。
こんな会話をしつつも、僕は3つのゴブリンの群れを滅ぼしていた。
レベルが上がってるけど、確認してる暇はない。
何故なら。向かう先にコボルトを見出したからだ。
今までの群れより大きい。そんな群れにコボルトを示す光点があった。
数を確認する。総勢でコボルトは65匹。名前のわからないのが44。してみるとゴブリンに囚われていた連中か。
「よし!」
オール達は生きている。全員無事だ。とはいえ、1匹のゴブリンと戦って、他のゴブリンにも囲まれつつある。
他に、何故だかマズーリもいるようだ。集団の先頭でゴブリンに殺到されている。
猶予はない!
「らあああああああああ!」
僕は大声を上げた。




