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オール達と老コボルトのマズーリ

お試しの三人称。コウヘイは今回もお休みです。

森と平原との切れ目。

そこでコボルト達は誰からともなく脚を止めた。


怯え。

かつて暮らしていたソコは地獄だった。昨日、生きていた仲間が、今日には死んでいる。そんなものが日常の地獄だった。


そして。


高揚。

戻ってきた。俺たちは再び先祖の暮らした地へと戻ってきた。


最初に一歩を踏み出したのは、リーダーのオールだった。


森から。

平原へと。


「ああ」


オールは知らず息を吐いていた。


「平原の…風だ」


そんな呟きにつられるように、ここまで連れ立ってきたオス達が平原へと進む。


誰もがオールと同じように、目を閉じて、息を吐いていた。


草のニオイが濃い。吹く風が心地よかった。

この風にのって、何処までも走って行きたい。そんな気持ちになる。


「帰ってきた」


オールは拳を握りしめ、19匹の仲間を振り向いた。


「取り戻すぞ!」


虐げられている同胞を。

この平原を。

コボルトの誇りを。


全ての想いを込めて言うと、オールは走り出した。

その後を仲間がついてくる。


目指すは、蒼いオオカミが生まれたとされている湖のあるコボルト族の聖地にして、全ての元凶であるマズーリが生まれた悪災の地。

今や、ゴブリンの最大集落が構えられている場所である。


当然、コボルト族も大勢が捕らえれれているはずだった。


陽がでている間、10日ほどを駆け通しでつく距離。位置は、風に運ばれるニオイが教えてくれる。


オール達は駆けた。

ゴブリンどもの嫌な臭いが風にのって鼻に届いたら、大きく迂回して、慎重に駆けた。


だが、数年前なら嗅げていた同胞のニオイが全くなくなっていた。

それが不安で、走り通している疲労も手伝って、オール達は休憩の時ですら口を利かなかった。


30日かかって、ようやくオール達はジラント族の住み暮らしていた聖地に辿り着いた。


予想以上に時間がかかったのは、ゴブリンの臭いが四方八方から漂ってきたためだ。

連中はたった2年ほどで爆発的に数を増やしているようだった。

同時に、平原のあちらこちらで争いをしてもいた。小競り合いではない。数百がぶつかりあう、ほどほど大きな戦だ。しかも連中は相手が全滅するまで殺し合っていた。殺し合って、生き延びたほうが、死体をむさぼり食うのだ。


オール達が遅れたのは、そんなゴブリンどもを避けていた為だった。


もはや手持ちの食料はない。だから、餓えは食べられる草を口にして凌いでいる。あれだけ平原にいたウサギやキツネといった獲物はてんで見かけなかった。おそらくゴブリンに食われてしまったのだろう。水は、旅人の草と呼ばれている茎に大量の水を溜めている草を刈った。これはゴブリンどもが知らなかったとみえて、問題なく見つけることができた。


今。オール達は身を伏せて、最大集落のコブリンを監視していた。


計画では、ゴブリンの目を盗んで集落に忍び込み、そのまま囚われている同胞を助け出すつもりだった。

オール達のレベルは森での狩りで2年前に比べて数段UPしている。特に若者はラズゥを倒したことで飛躍していた。

すばやさは特に顕著で、ゴブリンの監視を潜り抜けるぐらいならば造作もないと思っていた。


が。


「なんだ、この数は…」


仲間の誰かが思わずといったていで漏らした。


静かにしろ、とは言えなかった。その誰かが漏らさなければ、オールが漏らしていただろうから。

それほどにゴブリンどもの数は異常だった。


誇張ではなしに。平原の果てまでゴブリンで埋まっているのだ。

そして、奴らは仲間を食らっていた。1匹のゴブリンを周囲のゴブリンが寄ってたかって殺して食っているのだ。それが其処彼処で行われている。


「どうする?」


仲間の1匹が訊いてきた。


「このまま、しばらく様子見だ」


オールは答えた。


それ以外に何が出来ようか…。


太陽が頂点に達した時分だった。

ゴブリンに動きがあった。


膨大な数のゴブリンが西へと移動を始めたのだ。

オール達は知りようもないが、その数は実に400。


ジッとその様子を見ていたオール達は、ゴブリンどもの規律も何もない集団の最後尾に縄につながれた同胞コボルトを見出した。



誰もが絶望した目をしていた。

五体満足の者がいない。耳を、尻尾を、腕を……誰かしら、何処かを失っていた。


「食われたのか…」


オールは心底からゾッとした。生かさず、殺さず、食われて。両脚だけが無事なのは、こうして遠征に連れて行くためだろう。

連れて行く理由はもちろん……そういうことだ。


「クソが」


ラウンドが怒りに毛を逆立てて毒づく。


「助けるぞ」


オール達は見つからないように注意しながら、ゴブリンどものあとを追った。


ゴブリンどもは歩きながら仲間を襲って食っている。

異様な光景だった。


やがて日が傾いて、ゴブリンの集団は足を止めた。


「なんだ、あれは…」


見たこともないほどデカイ体躯たいくのゴブリンだった。他のゴブリンよりも2まわりは大きいし、貧弱なゴブリンとは思えないほどに筋肉でよろわれている。

そんなのが3匹、最後尾のコボルトのところまで遣って来た。


「どれにするか?」

「久しぶりの、同胞ゴブリン以外の肉だ」

「美味そうだぜ」


縄でつながれたコボルト達は顔を上げない。

そんな中で、1匹だけがブルブルと震えていた。


ニヤリ、と3匹がわらったのがオール達にはハッキリと見えた。


「お前にする」


言うや、3匹のゴブリンは怯えるコボルトの腕にかぶりついた。


「ギャン!」


悲鳴が響く。


生きたまま腕を食われたコボルトは、その後で無くなった腕の付け根に松明を押し付けられた。


「ギャン!」


息も絶え絶えだったコボルトの口から再びの悲鳴がでる。


「こうして止血しとかねーと、死んじまうからな」


ゲヘヘヘ、と笑って3匹のゴブリンは集団へと戻っていく。


「ひでぇ…」


愕然としてオールは呟いた。


本当に食料だった。腐らないように生かされている。


余りにも悲惨な様子に、オール達は周囲に注意を払うのを忘れてしまった。長旅の疲れもあったかもしれない。


だから。ソイツ、が背後に潜んでいるのに気づかなかった。


「グエ…!」


という呻き声に、ようやくオール達は振り向いた。


そこにいたのはゴブリン。

そして……老コボルトのマズーリだった。


マズーリがゴブリンの後背から首を絞めつつ、腕を相手の口にあてがっていた。


噛まれたのだろう、マズーリの腕から血がしたたる。


その血の色が、黄昏たそがれの薄い陽のもとでも、それと分かるほどに変だった。

赤くないのだ。

白いのだ。マズーリの腕も白いのだ。


その白い血を舐めたゴブリンは、途端に苦悶の表情になると、断末魔も残さずに息絶えた。


マズーリがゆっくりと立ち上がる。


「こいつが欲をかいてお前らを逃がさないように吠えなかったからいいものの、そうでなければ皆殺しじゃったぞ」


まったく、その通りだった。

戦場にあって注意を怠るなんぞ、戦士として恥ずかしい限りだ。


だから、オールは己の迂闊さを誤魔化すようにマズーリに食ってかかった。


「なんで、お前がココにいる?!」


「言ったじゃろう、同胞を助けると。むしろ、こっちがココにいる理由を訊きたいわ。あんた等は御使い様のもとで暮らしていたはずじゃろう」


「同じだ。俺たちも同胞を助けに来た」


マズーリは鼻で笑った。


「そんな体たらくでか?」


コボルト達のうちの何匹かが小便をもらしてしまっていた。


「とっとと土をかけんか。臭いでばれる」


マズーリの忠告に、大慌てで小便をもらした連中が土をかぶせる。


それを見ながら、マズーリは「ついてこい」と顎をしゃくった。


「どうする、リーダー?」


「行くぞ」


この場所に留まるのは得策ではない。見回りが1匹いなくなったのだ、異変にゴブリンどもは気付くだろう。


マズーリが一行を連れて辿り着いたのは、沼地だった。

湖が近くにあるせいなのか、近辺には沼地が点在している。


「ここなら茂みに隠れていられるじゃろう」


マズーリは尻が濡れるのもかまうことなく座り込むと、置いてあった壺に腕を突っ込んだ。


「それは?」


「毒液じゃよ」


言うと、マズーリは壺から真っ白に変色した腕をだした。


「毒液に腕を漬けて、毒手にしておるのよ。この手で傷をつけたら、相手は必ず死ぬ。さっきのゴブリンも見たじゃろ。ワシの腕を不用意に噛んだから死んだ。この老いぼれが戦うために編み出したすべよ」


「よく、そんなことして平気だな」


ラウンドがおののいたように言う。


「平気なわけない。死ぬほど痛いし、普通なら死ぬじゃろうよ。じゃが、ワシは幸いにも死ねぬ体じゃからの」


クハハ、とマズーリは笑う。

と、オール達を順繰りに見回した。


「帰るがいい、森に帰るがいい。同胞を助けるのは、ワシに任せておけ」


「よく言う! お前は何十年と生きてきて、結局あの兄妹しか助け出せてないじゃないか」


「…そうじゃな。その通りよ。ワシは自己満足のために、こんなことをしとるのかも知れん。否定はせんよ。じゃがな、ワシは同胞を助けるために生きておるのよ、たとえ自己満足だろうとな」


「正直、俺は…俺たちはあんたのことがいとわしい。が、同胞を助けるためなら、我慢できる。どうだろう? あんただけでも、俺たちだけでも、あの同胞は助けられない。なら、力を合わせたら……助けられるだろうか?」


「森に帰るつもりは……ないようだな?」


オール達は無言でマズーリを見詰める。


「死ぬぞ? 同胞を助けられずに無駄死にするかもしれんぞ?」


「覚悟はしてる」


「なれば、ワシにいなやはない」


こうしてオールたち20匹とマズーリは共闘することとなった。


深夜。


オールたちはゴブリンを襲撃した。


マズーリがまずは相手の混乱を誘う。しかる後に、オール達が同胞を救いだすという作戦だ。


マズーリは真っ正面からゴブリンに突っ込んだ。

死なないからこその捨て身。いくらゴブリンでも毒に漬かった腕だけは食えない。しかし、その腕さえ残っていれば、マズーリは再び生き返ることができるのだ。


これは図にあたった。


ゴブリンどもに混乱……というよりも狂気が広がる。

肉が向こうから寄ってきたのだ。この機会にコボルトを食らおうとするのは、ゴブリンどもにとって当然の考えだった。


集団が前に前にと詰め寄せる。


すると、縄につながれたコボルトが集団からポツリと残された。


オール達は、ここぞとばかりに動いた。

同胞を救うために駆け寄った。


「助けに来たぞ!」

「もう安心だからな!」


縄を切ってまわる。


だが、そんなオール達の前に、あの巨躯きょくのゴブリンが1匹だけだが姿をあらわした。


グフフ、と巨躯のゴブリンは笑った。


「つまみ食いに来たら、とんだご馳走になりそうだ」


ブン、と巨躯のゴブリンがコボルトの胴体ほどもある丸太を振り回す。


「食ろうてやる!」

次回はコウヘイが登場で、何時も通りに。


この投稿は14時の8分前に予約投稿しております。

ギリギリだよ、ホント!

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