36:根菜が枝に実った。そんで馬鹿ちんどもを探しに出発するオッサン
今日は短いです。
でも、区切りが良いので。
「シュールすぎる…」
でも固定観念をもってないコボルト達は大喜びだ。
トマトの木もこれ以上は異常進化しないらしい。
ちょいちょい、と服の裾をネッサに引かれた。
「食べていーい?」
「も、勿論いいよ」
鑑定で調べたところ、問題はない。《美味しいトマト》とだけある。
「よっし、俺がとってくるよ」
兄のジングがスルスルと木にのぼって、トマトをもぐ。
そうして、その場でパクリと食べた。
「なんだこれ! ジュルジュルしてて酸っぱ甘い!」
「お兄ちゃん、ずるーい!」
「むくれんなよ、ほれ」
ジングはトマトをもぐと、ネッサに放った。次から次に放って、器用に受け取ったネッサが赤ん坊を抱えたコボルト達に渡していく。
「「「「「「「「 おいし~! 」」」」」」」」
評価は上々だ。実際、僕も食べたけれど地球のものよりも美味しかった。味が濃いのだ。
「畑って凄いですね!」
「こんなに簡単に果実が実るなんて!」
フジ姐さんとチッチを含めたコボルト達は感心しきりだけど、こんなのが畑だと思われたら困る。
自分んでやっておきながら、僕は内心で頭を抱えた。
本当はみんながトマトの加速度的な成育に驚いたところで、結界の種あかしをする予定だったのだ。
なのに、コボルト達は普通に自然に、異常な事態を受け入れてしまった。
「え~、実をいうとコノ畑は特別なんです」
「特別ですか?」
「うん。みんな、あの丘の木を見て」
と僕は真・世界樹を示してから、僕が施した結界のことを話して聞かせた。
「さすが御使い様!」
「ノミやシラミがいないなんて最高!」
「これで見張りもしないでいいのね」
みんなは無邪気に喜んでいる。
驚くかな、と思ったんだけど?
「御使い様のなさることですから」
と笑って言われてしまった。
それから僕は畑に手持ちの種を撒いて回った。
種まきの時期なんて関係ない。結界と魔力が適切に育ててくれるのだから。
キャベツ、白菜、大根、ニンジン。ナスにキュウリに、トウモロコシと枝豆。カボチャ、ジャガイモ、サツマイモ。スイカ、メロンにブルーベリー。果樹だって植えた。りんご、梨、柿、イチジク。ちょっと毛色の違うところで栗もだ。ただネギ類だけはやめておいた。ネギは犬にとって毒になるからだ。コボルトもそうだとは限らないけれど、わざわざ危険なものを育てる必要もない。
撒いたそばから、みんなが「大きくな~れ、大きくな~れ」と魔力を送って、どれもが立派な木になった。
ちょっと想像してほしい。大根やカボチャやジャガイモ、サツマイモが枝からぶら下がっているのだ。
僕は軽く眩暈をおぼえたほどだ。
更に元から果樹だったものは変な副産物がついてきた。果実は成るのだ。地球と同じように、変わらずに。ただ、果実の他に果汁を詰めたプチトマトほどの大きさの果実もぶら下げるようになってしまった。
りんごや梨は地球の100%ジュースよりも美味しいほどで、柿のジュースは蜂蜜かと思うほどに甘かった。
そういえば……受粉はどうなってるんだろう?
今更といえば今更の疑問だった。
異世界といえども受粉しないと結実しないだろう、さすがに。
《真・世界樹のうみだした妖精》
ん? 鑑定が発動した。けれど、対象は……ない。
誤作動か? そういうこともあるのか?
しかし、今まで散々頼りにさせてもらった鑑定さんだ。
僕は鑑定を信じて、何もないように見える空間を凝視した。
ん? ん~? なにか…見える? ような?
うっすらと羽の生えた子供みたいなものが大勢見えた。
あれが妖精?
目で追っていると、妖精は花から花へと飛び移っている。
どうやら妖精が受粉させているようだ。
色々と思うことはある。
世界樹が妖精を生んじゃった、とか。
世界樹が意志みたいなものを持ってる、とか。
……しかも、原因は僕にあるのではないか、とか。
でも、まぁ。やっちゃったものは仕方ない。
問題も起きてないし。
…今のところは。
こうして畑? をつくった僕は、井戸もいくつか掘った。
植物だから、魔力だけというわけにはいかない。やっぱり水やりも必要なのだ。
「他には…」
僕はやり残したことを考える。
「チッチ、これを」
僕は真・世界樹の葉っぱの束を差し出した。
糸で束ねた100枚だ。
これは正真正銘、真・世界樹から千切ったものだ。どういうわけか、アイテムボックスでも複製ができなかった。
レア・アイテムという奴だろうか?
「赤ン坊やみんなが病気になったり怪我をしたら使ってくれ」
「ですが、これは特別な霊薬なのでは?」
「みんなの方が、よっぽど特別だからいいんだよ」
僕が言うと、チッチは恭しく世界樹の葉を受け取った。
それから、清潔な布もどっさりと渡しておく。これは瑞樹さんと稲塚のガーデン・パーティで使った新品のテーブルクロスだ。加えて、針や糸やハサミのはいったお裁縫箱も人数分。智花と香が小学生の時に使っていたお古だ。
「これで、服やオシメをつくれるだろ?」
コボルト達はさすがに季節違いのユニ〇ロのダウンを着てない。けれど、自前の毛皮の上に襤褸みたいな毛皮を羽織っているような様子だった。これでは余りに可哀想だ。赤ン坊はオシメすらせずに、真っ裸なのだ。
他にも。炊事のために釜土をアイテムボックスから取り出して設置する。
例にもれず、蛯名家の粗大ゴミだ。庭の片隅にあったもので、昔はこれでもち米を炊いて、正月に餅つきをしていたらしい。
ただ、羽釜はない。とはいえ、ユニット・ハウスに置き捨てられていた鍋や薬缶が問題なく使えるはずだ。
「これで煮炊きができます!」
料理好きなのだろう、数匹がニコニコしている。
「ずーと、料理といえば焼くだけでしたから」
ならばと、薪の材料になる木も大量に。畑をつくるときに倒した物だ。
「こんなもんか」
衣食住、病気や怪我の対策もバッチリ。
色々とやって、もうお天道様は大きく傾いていた。
「それじゃあ、僕は行くよ」
みんなとの食事を終えて、僕は立ち上がった。
「御使い様?」
チッチ達が僕を見る。不安そうに。
「迎えに行ってくるよ、大事な家族を置いて行ったバカどもを、ね」
「御使い様…」
みんなが僕を見る。縋るように。
「オスどもが帰ってきたら、ケツを蹴っ飛ばしてやるんだ。いいな、みんな!」
「はい!」
コボルトのメス達がニッと笑う。
僕は背を向けて、駆けた。
マップを展開する。僕が走るそばから地図が拓かれてゆく。
「さて、問題は何処にいるか、だな」
ゴブリンが群れている近くに身を潜めているはずだけど…。
このまま地面を走っていても埒が明かない。
空を飛んでみるか。
「フライ」
僕はフワリと空中に飛び上がったのだった。
明日はコボルトのオール視点で続けます。




