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34:在ったはずのモノがない! そんでチッチをシュワシュワさせちゃうオッサン

今日から文章が短くなります。

ごめんね。


取り合えず1か月間、毎日投稿できました。

あと、ブックマークが1人増えてました。ありがとうございます!

げえええ、と毎度毎度の苦しみが僕を襲う。

でも、この時のために万能薬草がある!


僕は背中を痙攣けいれんさせながら、万能薬草を求めた。


けれど、ない! 何処にもない!

夜中とはいえ星明りがあるから、近くにあって見逃すなんてことは無いはずなのに!


結局、僕は死ぬほどの苦しみを充分に堪能してしまった。


「ここに植えたはずだよなぁ…」


大木に背中をあずけてへたり込む。

万能薬草を当てにしていただけに、予想外の苦しみは殊更だった。


…というか。こんなところに、こんなに大きな木があったか?


自然と鑑定を発動させてしまう。もはやくせになりつつある。


《真・世界樹:世界樹と万能薬草とが合わさった真の世界樹。その葉は口に含めばあらゆる傷と病を癒やし、果実を食せば寿命をのばす。花弁は身に着けた者の魅力と幸運を底上げし、葉に溜まった朝露はMPマナを回復させる。ただし、真・世界樹を傷つけることができるのは女神ミカとその御使い(コウヘイ)のみである》


ッて! なにやら大変なことになってる!


合体? 薬草を世界樹の根元に植えたせいか? それで世界樹が成長した際に万能薬草が取り込まれてしまった?


う~ん、としばらく考えて。


ま、いいか。僕はそう結論した。


だって、何か問題があるわけじゃないし。薬草となる葉っぱも増えてるし、他にも役立つ効能が満載になってるし。


僕は真・世界樹の葉っぱを一葉ちぎると、口に含んだ。


まるでミント・ガムのようだった。口の中が爽やかになる。


そうして、しみじみ思うのは、僕が死ぬ必要はなかったということだ。

自分自身にヒールをかけて、それからユーリィを回復させればよかった。けれど、そう考えられるのは冷静になっている今だからだ。どうも僕は、子供を優先させて後先考えられなくなる性質らしい。


葉っぱは口の中でシュワシュワと溶けて消えた。

昔、こんなお菓子があったなぁ、なんてことを思いながら、コボルト達の集落を見下ろす。


う~ん、なんか忘れているような?


死んで生き返ると、しばらくは頭の働きがにぶくなる。

特に異世界に渡った時が顕著だ。夢を思い出すように、徐々にコッチで経験した記憶が戻ってくるのだ。


ハッ! とした。

チッチ達の出産!


何日経った?! 僕は地球で…8日ほど過ごしてしまった。こっちだと……190日ぐらいか? コボルトは150日で生まれるとか言っていた気がする。


もう疾っくに赤ん坊が産まれてるのか!


しかも、だ。真・世界樹になって問題ないとか思っていたけど大間違いじゃないか! 真・世界樹を傷つけられるのはミカと僕だけだ。つまり、万能の薬になる葉っぱはコボルトには採取できないということじゃないか!


血の気が一気にひいた。


僕は真・世界樹の葉っぱを乱暴に10枚ほどむしると、丘を駆け下りた。


「何者!」


誰何される。

この声はチャウチャウ姐さんのフジだ。


「僕だよ、フジ」


「まさか?!」


フジが松明の灯かりを僕に近づける。


「御使い様!」


と抱き着いてきた。


キチンとお風呂に入っているみたいで、フカフカだ。


と、そんなことを考えてる場合じゃない。


「遅くなってごめん、みんなは? 赤ん坊は産まれたんだろ? 無事かい? 足りないものは? 食べ物は? 怪我したりした仲間はいないかい?」


「御使い様、落ち着いてくださいまし」


言われて、僕はヒッヒッフーと呼吸をした。ああ、違う! これは出産を楽にするラマーズ法だ。


夜中だというのに騒ぎすぎたようだ。

ユニット・ハウスから続々とコボルト達が顔を覗かせた。


最初は警戒していたみんなは、灯影に僕を見出すと、我先に駆け寄って来てくれた。


「御使い様!」

「お久しゅうございます!」

「またこうしてお会いできるなんて!」


「大袈裟だな、みんな」


僕はコボルト達の頭を1匹1匹撫でてあげながら、あれ? と小首を捻った。


「オールやラウンドが……というよりもオスが居ないみたいだけど? それにチッチも…」


こんな時、チッチとオールなら真っ先に駆け付けてきそうなものだけど。


僕が口にすると、集まっていたコボルト達の耳が伏せられた。

クーン、という悲し気な声も聞こえる。


「何かあったのかい?」


「実は……オス達は同胞を救うために平原に行ってしまいました。30日ほど前のことです」


へ? と僕は瞬間、呆けてしまった。


「君たちを? 赤ん坊を置いてかい?」


はい、とフジがうなずく。


「みんな? オスはみんな、1匹残らず行ったのかい?」


はい、と再びフジが悲し気にうなずく。


「あの…!」


馬鹿どもが! という言葉をメス達の手前、必死で飲み込む。


出産直後で体の弱っているメスを置いて。

しかも、これから余計に手のかかる赤ん坊を、メスだけに任せて。

みんなで……守り手も置かずに平原に行っただと!


オスどもの馬鹿さかげんに頭の血管が切れそうだった。


どうせ、老コボルトのマズーリに触発されたんだろうけど。


いやいや、分かるのだ。

同胞が食料にされているなんて聞かされたら居ても立ってもいられないだろう。


けど、その前に家族を守ってくれよ!

やるべきことをやってから、死地に赴けよ!


ああくそ!


僕は熱い息を吐いて、いったんオスどものことを忘れることにした。


「チッチは?」


「こちらです」


フジが僕を案内してくれる。


「チッチは、子を産んだ後も、オールに代わってメスを守るために気を張っておりました。わたくし達も、そんなチッチに頼りっきりになってしまいました。チッチが、わたくし達のなかでも一番に幼いのだということも忘れて…」


チッチは…布団で横になっていた。


臭いがする。お婆巫女のベルダが亡くなる直前と同じ臭いだ。


「無理をしていた…いいえ、わたくし達が無理をさせてしまったんです」


僕はチッチの傍らに胡坐あぐらをかいて、彼女の荒れた毛並みを撫でた。


ヒールじゃ治らない。チッチは病におかされていた。


だから、僕は


「チッチ、チッチ」


呼びかける。


うっすらと15歳の頑張り屋が目を開けてくれた。


口が動く。けど、声にならないみたいだった。


ウ、ウウ…。その様子を見ていたコボルト達がすすり泣く。


僕はチッチにうなずいて、彼女の目ヤニを指先でとってやった。


「口を開けて」


ゆっくりとチッチの口が開く。


その舌に、僕はアイテムボックスから取り出した真・世界樹の葉っぱをのせた。


そしてチッチの口を閉じさせる。


ウ、ウウ…。メス達の泣き声が場を満たしているなかで…。


カッ! とチッチの目が見開かれ、彼女は布団のうえに立ち上がると、両頬をおさえて


「スースーシュワシュワするぅうううう!」


ワオオオオーーーン! と吠えた。


泣いていたコボルト達が目をまん丸にしている。フジなんか「ぴゃ!」と跳びあがっていた。


「いやーごめんごめん」と僕は頭を掻いた。

「植えといた薬草、なくなってたんだろ? ちょっと予想外のことがあってさ」


「どーゆーことですか?」


チッチがペロペロ舌を忙しなく出し入れしながら訊いてくる。

刺激が強かったかな?


「それが、あの丘のてっぺんの木と合体したみたいでさ」


あ、ははは。と誤魔化し笑いをするけど、チッチは頬っぺたを膨らませた。


「ひどい! 御使い様、ひどいです! あたし達、枯らしたと思って世界の終わりかと思うぐらいに尻尾を垂らしてたんですからね! ねぇ、みんな?」


とチッチが、メス達を振り返って


「あれ?」


と首を傾げた。


「何でみんな、ココに居んの? というか、あたし何してたんだっけ?」


「チッチ!」


フジ姐さんがタックルするみたいに抱き着いて、病み上がりのチッチはそのまま勢いに押されてコテンと倒れた。


「痛った~、なにすんの?」


とフジ姐さんに抱き着かれたままのチッチが抗議しようとして、ぎゃああ! と乙女にあるまじき悲鳴をあげた。


それはそうだろう、感極まったメス達が一斉に飛び込んできたのだから。


「重い~死んじゃう~」


チッチの唸り声がメス達の下から聞こえてくる。


結局、チッチは2階から赤ン坊たちの泣き声が聞こえてくるまで解放されないのだった。

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