27:コボルトって風呂好きだったんだ! そんでみんなにサヨナラするオッサン
「温泉だぁ!」
思わず叫んでしまった。
いやいや、この辺て火山があるのか?
けど採掘技術が上がって関東でも温泉を掘ることが可能になったとか聞いたおぼえがある。
ということは、深く掘り過ぎた?
「地面からお湯が湧いたぞ!」
見物していたコボルトはてんやわんやの大騒ぎだ。
チッチなんて「ほーら、やらかした」と言わんばかりの視線を寄越してるし…。
僕は温泉の噴きあがっている穴にガチャポンプを設置した。
ガチャポンプ。または手押しポンプとも呼ばれている手漕ぎポンプだ。
これも、言うまでもなく蛯名家の粗大ゴミだけど、しっかりした代物で鉄製だ。
井戸用だから、温泉でどうなるかは分からないけれど…。
無いよりはいいだろう。
「御使い様? 今のお湯は魔法ですか?」
コボルトを代表してオールが尋ねてくる。
「魔法じゃないんだよ。ちょっとばかり地面を深く掘り過ぎてね。そうすると、水じゃなくてお湯が出ることがあるんだ」
「そすうると、飲めないのでしょうか?」
「飲めなくはない、と思うんだけど」
地球でも飲用の温泉はあった気がする。それでも何らかの加工がしてあるはずだ。
「まぁ、飲まない方が無難だろうね。その代わり、温泉だから入浴は体に良いよ」
「お風呂に入れるのですか!」
チッチが喜びの声をあげる。
「あれ? チッチ達はお風呂が好きなのかい?」
てっきり犬みたいに濡れるのを喜ばないかと思ったのだけど。
「大好きです!」
とのこと。
そういえば、晴れ着を着せる前に新婦たちをお風呂にいれたけど、目を細めて気持ちよさそうにしてたな。
聞けば、コボルトは3度のご飯よりもお風呂が好きらしい。しかも入浴、お湯に体をつけるのが好きらしい。
「平原でも6日に1度はお風呂に入ってました」
平原といえば水も少ないだろうし、お湯にする燃料だって見つけるのは容易じゃないだろうに。
「だって、そうしないと…」
言いにくそうにメスたちはモジモジしている。
ので、オスのオールに訊いて、教えてくれた。
「入浴しないと、シラミやノミがついてしまうのですよ」
なるほどね。
そういえば、チッチたちも櫛をとおしている時に……。
チラ、と見たらメスたちがギロリと睨んできたし……乙女だもんね…。
僕はどうやら血がまずいのか、それとも魔力なのかは分からないけど、ノミもシラミも移されなかったんだけど。
そりゃー困るよね。
「じゃあ、結果オーライということで」
僕たちはさっそく温泉づくりをすることにした。
まずは大きな穴を掘る。湯船だ。これはラウンド君たち男がスコップでガッンガッツン掘ってくれている。
掘った後は、コンクリートみたいなので固めるべきなんだろうけど、あいにく手持ちがない。仕方ないので、石を何重にも敷いて水漏れを防ぐよう言っておいた。
そのあいだに、僕はといえば排水路を確保するべく川に向かって穴を掘った。
イメージはトレマ〇ズという映画にでてきたミミズの化け物だ。あいつは地面に穴を掘って、地中から人間を襲うという設定だったから、それをイメージしてグングンと横穴を掘って歩く。
お隣には、しっかりとオール・チッチ夫妻が侍っている。
しかし、これが結構むずかしかった。
落とし穴になってはいけないので、地中の深い部分を掘り進めつつ、川に向かって斜めに下がるように傾斜をつけなくてはならないからだ。
MPは無限だけど、今までは力任せだっただけに、この繊細な作業は時間がかかってしまった。
おかげで川まで排水路をつくっただけで、ミカから申し渡された残り時間は3時間ほどになってしまっている。
もう夜だ。
コボルトは日が昇ったら起きて、日が暮れたら寝るという習慣だから、本来ならもうスヤスヤタイムだ。
チッチなんか頻りに目元をこすっている。
「じゃあ、帰ろうか」
みんなの所にもどれば、温泉はだいぶん形になりつつあった。
ついでだから、今度こそは井戸も掘っておく。
排水路づくりで何とはなしに魔力の使い方に馴れた気がする。
おかげで、今度は深く掘り過ぎるようなこともなく、しっかり水脈を掘り当てることができた。
ガチャポンプを設置。
使い方は既に教えてある。
周囲は泥濘らまないように、河原でみつけた平べったい石を敷き詰めておこう。
だいだらぼっち弱で踏みつぶせば、それだけでしっかりとした足場に早変わりだ。
「排水もしっかりしとかないとな」
ということで、溝をつくって、温泉の排水路とつなげておく。
川に垂れ流しになってしまうけど……洗剤やらを使うわけじゃないし、平気…だろう?
「御使い様! ありがとうございます!」
一連の作業が終わると、コボルトたちに頭を下げられてしまった。
僕が川まで行っているうちに組んだのだろう、新しく篝火が焚かれている。
みんな、それぞれ下には冷えないようダンボールを敷いて、傍らにはお気に入りのクッションを置いているのが、なんとも苦笑を誘う。
「気にしないでいいよ、それよりも、みんな夕ご飯がまだだろう?」
とまで言って、僕は前にも同じようなことを言ったのを思い出していた。
「はい、まだです!」
と応えたコボルト達の尻尾がブンブンと左右に振られている。
「あ~……僕が焼くのかい?」
「お願いします!」
ということで、またしてもおさんどんだ。
因みに前の集落で雪に埋めた食料は、掘り出すのが面倒だったので雪ごとアイテムボックスに収納して、こっちで吐き出してある。
自転車置き場はユニットハウスの周囲を囲むように配置してある。防壁の代わりだ。
肉を焼く。焼きあがると、すぐにコボルト達が持っていく。
僕の焼いた肉の食べおさめとあって、遠慮会釈なく食べている。
だから、焼いても焼いても追いつかないような状況だ。
それでも、みんながニコニコ食べてくれるのが僕は嬉しかった。
「おいふぃ!」
「ほんとだね」
あの兄妹も肉にかぶりついてるし。
さっきまでスヤスヤ寝ていたのに、肉の匂いで起き出してきたのだ。
「出産は何時頃になりそうなんだい?」
僕は誰にともなく訊いた。
教えてくれたのは、お婆というには若いけど、年経たメスのコボルトだった。
「さて、あとお天道様が両手の指の数を」
ひの、ふの、と地面に標をつけること15回。
「これぐらい昇れば、産まれますかいのぉ」
えーと…150日ってことかな?
地球時間だと6日ほどか。
「それにしても、今回は一斉に妊娠したもんだね」
「コボルトはそういったもんですじゃ」
詳しく訊けば、コボルトは発情期があるらしい。年中無休で発情している人間とは違うということだ。
だから、妊娠するのも出産するのも一斉なんだとか。
今まで妊娠しなかったのは、ひとえに栄養が足りていなかったんだろう。
「御使い様、赤ん坊が産まれる時は、また来ていただけますか?」
チッチが訊いてくる。
他のメスも心細そうに僕を見ている。
けど……その時に立ち会うのは難しいだろう。
死ぬのが恐いとか、そういうことじゃない。
地球に戻ると、途端に異世界のことを考えなくなるのだ。
理由に心当たりはある。
ミカ、だ。
僕の守る存在。そのミカが在る世界こそが、僕の本来の世界なのだ。
だから、どうしたって異世界のことは考えなくなってしまう。
まるで夢のように印象が薄くなってしまうのだ。
そうでなければ、もっとコボルト達に有用な品物を持って来ている。
今回は、蛯名家で粗大ごみ収集していたのが図らずも役に立ったというだけだ。
「ごめんね、みんな。その時が来ないと分からない」
「そうですか」
とコボルト達が項垂れる。
ピピピ、と電子音めいたアラームが聴こえた。
砂時計だ。
見れば、残り時間が1時間をきっている。
「もう、戻らないといけない」
僕は立ち上がって、あの丘へと歩いた。
コボルト達が黙って付いてくる。
本当は、もっと君たちの為にしてあげたかった。
畑をつくってあげたかった。
料理を教えてあげたかった。
娯楽を教えてあげたかった。
勉強を教えてあげたかった。
色々、してあげたかった。
せめて、最後に。
僕は丘のいただき、木の根元にうずくまった。
久しぶりにクリエイトする。
何にでも効く薬草をつくるのだ。
まずは、ステータス、と。
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コウヘイ 【職業:ヒモ】
種族:ミカの御使い
性別:♂
年齢:0
レベル: 23
HP : 37
MP : ∞
こうげき:32
ぼうぎょ:32
ちから : 32
すばやさ : 32
きようさ : 32
かしこさ : 32
せいしん : 32
こううん : 32
かっこよさ: 32
スキル:全魔法適性
:マップ
:鑑定
:アイテムボックス
:言語理解
:料理 Lv3
:トリミング Lv2
:物質生成 Lv 1
マホウ:氷結呪文 Lv10 ブリザード
ライオン・ハート
回復呪文Lv10
身体能力向上 Lv5
分子振動 電子レンジ
カッター 高枝切りバサミ
ワーム
ドライヤー温風
パラライズ
だいだらぼっち
ボウリング(掘削)
グラボ〇ズ
ポイント:1900
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おお! レベルがたいそう上がってる。
…もっともコボルトに比べてみるまでもなく弱いけれど…。
よく、これでラズゥに勝てたな。
スキルも魔法もやたらと増えてるし…。
と! そうじゃない。
ポイントは、と。
1900? ラズゥのオスを倒したから、1000ポイント追加してくれたのか。
では、これを使って。
万能の薬草をつくろう。
僕の手元が光った。
其処に在ったのは、タンポポに似た愛らしい花だ。
どうやら、これが万能の薬草になるみたいだ。
鑑定を使ったところ、そのものズバリ『万能薬草』となっている。
花弁が薬になるらしい。
もちろん、茎も根っこも薬にはなるけど、茎や根を使うと、花弁は再生されないようだ。
僕はコボルトのみんなを手招きした。
「みんな、この花の花弁は万能の薬草になるから。出産のときに危なかったら使っておくれ」
「「 ありがとうございます! 」」
みんなが深々と頭を下げる。
「じゃあ、これでサヨナラだ」
「御使い様! また会えますよね!」
チッチが縋るように訊いてくる。
「きっと」
僕は応えて、自分の心臓に
「電子レンジ」
をかけた。
ボン! と心臓が破裂する。
ゴフ、と口から血が溢れた。
何度だって思うけど、死ぬのは気持ちがいいものじゃない…。
「御使い様!」
みんなが僕を支えようとするけれど…その手が触れる前に、僕は息絶えた。




