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25:老コボルトの正体、そんで蚊帳の外になるオッサン

本日は、もう1話外伝があります。

「御無事でしたか!」


集落のみんなが駆け足で出迎えてくれた。

みんながみんな、心底から心配していたという表情だ。


こりゃー、ラズゥと死闘を演じたなんて言わないほうがいいな。

言ったら最後、今後は絶対に1人で行動なんてできなくなるのは間違いない。下手をしたらトイレだって…。


そう考えた僕は誤魔化すことにした。


「オオカミに襲われてたコボルトがいてね、助けてたんだよ」


嘘は言ってない!


ラズゥのことは内緒だよ、と老コボルトにアイコンタクトを送るべく振り向くけど。


当の老コボルトはそれどころではないみたいだった。


「お、おおおおおお。こんなに…こんなに同胞が……!」


その場で膝をついてオイオイと泣き出してしまった。


「お爺さん、何処から来たの?」


振り袖からダウンに着替えたチャウチャウ姐さんのフジが、老コボルトの背中をさすりながら尋ねる。


「南の、かつて蒼いオオカミが生まれたとされる湖をめぐって餓鬼同士が相争うて、隙を見てそこな兄妹を連れ出したんじゃ」


聖地を血でけがしたのか。

なんてことを…。


怒りを含んだ声がコボルトから聞こえる。


「だいぶん遠くから落ち延びてきたのね。でも、ココなら平気だから。安心して暮らせるわ」


「そのようじゃな」


老コボルトは、集落のコボルトを見渡してしみじみと呟いた。


今日はみんな身綺麗にしているから余計に安心して暮らしているという感じを受けただろう。


「御使い様に助けていただいているから」

「冬の食料もたんとあるぜ」

「爺さんと、こまいのが2人ぐらい増えてもぜんぜん大丈夫だ」


コボルト達は口々に言うと、肩を抱くようにして老コボルトを集落へと招き入れた。


「御使い様、その子等をあずかります」


チッチに言われて、幼い兄妹をチッチとオールに渡す。

因みにチッチもダウンに着替えている。晴れ着を汚すのを嫌ったんだろう。


幼い兄妹は、毛のない僕よりも同族のチッチとオールのほうが良かったのかな。

しがみつくみたいに、それぞれがすがりついている。


時刻は昼をとおに過ぎている。


律義者揃いのコボルトのことだ、僕を残して昼食を食べているなんてことは無いだろう。


そう思った僕は、篝火かがりびへと歩きながら


「みんな、昼餉ひるげはまだなの?」


何気なく…なんの気負いもなく言ってしまった。


その途端に、コボルト達が僕に注目した。いいや、注目なんて生易しいものじゃない。まさしく獲物を見る目だ。


しまった! と思ったけど、もう遅い。


キラキラと期待に満ちた目で、僕を見ている。

肉を焼いてくださいまし! と目が口ほどにものを言っている。

というか…チッチさん、ヨダレが垂れてますよ?


これは…断れないよなぁ。


「昨日みたいに順番待ちになるけど、それでもいいのかい?」


コクコク、みんながうなずく。

首を動かしてないのは、お話についてこれていない老コボルトと兄妹だけだ。


「じゃ、焼くとしますか」


僕は腕まくりをしてみせた。


コボルト達が歓声をあげた。






肉もあれば、野菜もある。お菓子みたいなドッグフードだってある。


幼い兄妹コボルトは最初こそ緊張していたようだったけど、集落のコボルトに優しくされ、何よりもご馳走を供されると、ものも言わずにガムシャラに食物をほっぺたに詰め込んで、見て分かるほどにお腹を膨らませ、コテンとゼンマイの切れた玩具おもちゃみたいに寝てしまった。


どのコボルトも微笑ましげに兄妹を見ている。

コボルト族が子供を大切にするというのは本当のことみたいだ。


「それで? 平原はどうなってるんですか?」


僕の焼いた肉がみんなに行き届いた今、コボルト達は老コボルトから話を聞こうと、彼を中心に集まっていた。


集落のコボルトがゴブリンから逃げ出して2年ぐらいにはなる。情報が欲しいんだろう。


「餓鬼…いいや、ゴブリンじゃったか。連中はこの1年ほど集合離散をくりかえして、勢力は大きく4つに別れておる」


「集合離散を繰り返したってことは……何度も争ったのね?」


「ほとんど毎日のようにな…」


「みんなは? 仲間たちはどれくらい死んじまったんだ?」


「分からん…じゃが、今はコボルト族が争いで傷つくようなことは無くなった」


コボルト達がざわつく。


「コボルトへの扱いが変わったんじゃ。今や同胞が戦士として戦場で使われることはない」


「どういうことだ?」


みんなが顔を見合わせる。


戦奴せんどじゃなくなったッてのか?」

「ないだろ、爺さんだって逃げてきたって言ったじゃないか」

「なら、どういうことだよ?」


老コボルトは俯いて。

うめくように


「同胞は牧場とゴブリンが言うとる場所で飼われておるのよ、食料としてな」


そう、言った。


バチン! と生乾きの木が大きくぜた。

火の粉が勢いよく吹いて舞う。


「食料? 食料って言ったのか、爺さん!」


シベリアンハスキーのラウンドが掴みかからんばかりの勢いで迫った。


「そうじゃ。今やコボルトはゴブリンの食料としてだけ生かされておる」


誰も声を出さなかった。

重い沈黙の中、聴こえるのは篝火の燃える音と、幼いコボルト2匹のすこやかな寝息だけだった。


ガタリ、と老コボルトが立ち上がった。


「ワシは平原に戻る。世話になった」


言って、着ていたダウンをうやうやしく僕に返す。


「御使い様。どうか、この集落に安寧あんねいを」


「あなたは? ここにとどまらないのか?」


「ワシは、どうにかして同胞を助けてきます」


「何を無茶な!」


オールが思いとどまらせようとするけれど


「無茶でも、やらねばならん。ワシは罪人じゃからな」


老コボルトは断固とした意志を感じさせる声で言った。


罪人?


鑑定で老コボルトのステータスを覗いてしまえば、何等かの答えはでる。

けど、それは失礼にあたるだろう。


だから、僕はえて尋ねた。


「そういえば、名前もまだ訊いてなかったね」


「…ワシの名はマズーリ」


マズーリだと? コボルト達がざわついた。


「罪人だというのは? 教えてくれるかい?」


「ワシは…ワシこそが、森からさまよい出てきたゴブリンを助けた元凶のコボルトなんじゃ」


「何を言ってるのよ、お爺さん。マズーリが生きてたとして100歳を越えてるわよ? だって、そんな…」


チャウチャウ姐さんが言う。


「御使い様なら、嘘かどうか分かるのではありませんかの?」


それが鑑定の許しだと、僕は解釈した。


ステータスを覗き見る。



--------------------


マズーリ 【職業:----】

種族:コボルト

性別:♂

年齢:112


レベル:      58

HP : 130/500

MP :     100


こうげき:50

ぼうぎょ:25


ちから  :   60/ 140

すばやさ :  250/ 750

きようさ :  100/ 270

かしこさ :  210/ 420

せいしん : 1000/1000

こううん :  100/ 100

かっこよさ:  150/ 890


スキル:剣技 lv 12


BAD :老化(ステータスの値を減少

    :呪い(ステータスの値を減少



--------------------



「確かに…年齢は100歳を越えている」


僕の証言に、コボルト達の目つきが変わった。

それまでは仲間をみる目だったのが、敵を……憎いかたきを見るようなものへと変わった。


「マズーリ……あなたは、どうやってそんなに長いこと生きてるんだ?」


「呪い、ですじゃ」


「呪い?」


確かにBADに呪いとある。


「ゴブリンを招き入れ、多くの同胞が殺される端緒となったワシは、呪いを受けたのですじゃ」


いきなりだった。マズーリは持っていた剣で、己の心臓を刺し貫いた。


コボルト達が息を呑む。

悲鳴を上げなかったのは、こんな凄惨な光景を見慣れているからか。

それとも眠っている幼い兄妹を起こさないよう、知らず気を使ったのか。


自決。

自殺。


ではなかった。


何故なら、マズーリは……死ななかったのだ。


ズルリ、と老ゴブリンは体から剣を引き抜いた。


「ワシは…死ねぬのです」


呪われた老ゴブリンは言った。


「あの…っくき餓鬼ばらどもを殺しつくし」


眼光に瞋恚しんにを灯し


「同胞を解放するまでは」


後悔だろうか?

悲嘆だろうか?

決意だろうか?


淡々と、言った。


「オレの兄弟はゴブリンになぶり殺された」


誰かが言った。


ママは赤ン坊を取り出すために腹を割かれて殺された!

ボクはこの手で、戦場で親父を殺した!


「呪われて当然だ!」

むくいだ!」

「出て行ってくれ!」


声をあげたのは数匹。

それでも誰も止めようとはしなかった。


オールも。チッチでさえも。


それほどに、マズーリは仲間から嫌われているのだ。


ゴブリンをはからずも招いてしまった者として。


僕はみんなを黙って見ていた。

この件に関して、僕はしょせん後から来ただけの何も知らない部外者なのだ。


やめろ、と言えば。マズーリを糾弾きゅうだんする声はやむだろう。

だけど、許せと言ったらどうか?

たぶん拒否される。

僕が御使いだろうと。

肉親知人をゴブリンに殺されたコボルトは、嫌がるはずだ。


老コボルト…マズーリが顔を背ける。

歩き出す。

同胞から離れて。

集落の外へと。


誰もマズーリの老いた背中を追おうとはしなかった。


僕だけを除いては。


「御使い様!」


チッチが声をかけてくるけど


「マズーリの傷をいやしてくる」


断って、追いかけた。


「マズーリ!」


「御使い様?」


僕は立ち止まったマズーリに回復ヒールをかけた。


「ありがとうございます。放っておいても傷は3日ほどでえますが、それでも痛いものは痛いですからの」


マズーリは笑った。あまりにも曇りのない笑顔だ。


僕はアイテムボックスから緑色をしたダウンを取り出して「寒いだろ」と手渡した。

それからリュックサックに食料と飲料水を詰め込んで、これも渡す。


「重いかもしれないけど、負担だったら途中で捨ててもいいから」


「何から何まで…」


「僕は、あなたに付いてゆくことができない」


「あの幼いコボルトを…みなを頼みます」


「ああ、任せてくれ。だから…」


だから、あなたも。


言葉が続かなかった。


頑張れ?

何時かココに帰ってこい?


どれも違うだろう。


頑張る必要もなく、老コボルトはゴブリンを憎んでいる。

そんな呪われた彼に帰れる場所なんてないのだ。


言葉を失った僕に、マズーリは笑ってみせてくれた。


「それでは、失礼いたします」


マズーリは歩いて行く。


老いた背中を曲げて。


復讐の為にマズーリは平原へと戻る。


剣を杖にしながら。


僕は…僕は。

その背中が見えなくなるまで見送った。

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