24:バトルして、そんでバトルしちゃう主人公みたいなオッサン
吠え声は丘の向こう、集落の反対方向から聴こえてきた。
そっちはまだマッピングしてない。
コボルト達がざわめいている。
そんな彼等彼女等を僕は鎮めた。
「みんなは集落に。僕が見てくる」
「そんな、御使い様だけでは」
「今は僕よりも妊婦を守るんだ、いいね」
言い残して、僕は丘から駆け下りた。
「身体能力強化!」
全力で駆ける。
さっきの吠え声。あれはコボルトのものだった。助けて! という幼い子供の悲鳴だった。
声がした方向に見当をつけて駆ける。
マップの未探索部分が段々と拓けてくる。
そうして、僕は青と赤のドットを3つ見つけた。そばには点滅するドットが20近く。
間に合え! 僕は身体能力を更に引き上げて、疾走した。
ようやく…ようやく…同族を餓鬼どもの手中から救出できたというのに。
ワシは、ワシと2匹のコボルトを逃がすものかと包囲しているオオカミどもを睨みつけた。
幼い兄妹は木の洞に押し込んでいる。
これで正面を警戒するだけで良くはなった。
しかし、相手は20もおる。
ギリギリ、か。今の体力では、むしろ20匹の相手は難しい。
それでも、倒さなければならぬ。
ワシが動けないようになれば、間違いなく洞に隠れている幼いコボルトも食われてしまうだろうから。
ようやく……100年をかけて、初めて助け出せたのだ!
こんなところで諦めてたまるものかよ!
ワシが剣を構えた時だった。
「間に合った!」
ワシの前に見たこともない姿形をした生き物が滑り込んできた。
「間に合った!」
僕は、その老齢のコボルトの前に地面を削るようにして滑り込んだ。
「助けを求めたのは君たちか?」
「い、いや。ワシじゃなく…」
老齢のコボルトが背後を気にしている。
それが隙となった。
取り囲んでいる20のドットが殺到せんと動いた。
「ぬかった!」
老齢のコボルトが焦るけど
「ブリザード!」
イメージしたのは吹雪。木も凍るほどの冷気を帯びた強風。
…なんてことはなくて、ミカの遊んでいたRPGを横合いから覗いた時に魔法使いが唱えていた魔法が素晴らしくド派手な映像だったのが脳裏に強く残っていて、つい唱えてしまった感だ。
瞬間、正面が真っ白に染まった。
さすがに画面でCGを見ていただけにバッチシ成功だ!
『レベルが上がりました』
ミカの声がアナウンスすること12回。
その声を耳にしながら、僕は木の後ろへと回り込んだ。
残るドットは8。
魔力で『剣』を生成する。
まぁ、なまくらだ。刃物なんて包丁ぐらいしか見たことがないのだから仕方ない。
「それでも!」
僕はオオカミに剣を叩き込んだ。
切れない。
斬れない。
けれど、オオカミは吹っ飛んで木にぶつかって息絶えた。
「お前らなんぞ、ラズゥや人間に比べたら怖くもなんともないんだよ!」
続けて1匹、2匹と仕留める。
そこで剣は消えてしまった。しょせんはMPで生成した仮初の物質ということか。永続はしないようだ。
手元を見て、そんなことを考えていたのがあからさまな隙にみえたのか。
背後から襲い掛かってくるオオカミ。
残念、マップ表示を常にしているから奇襲は受けない。
僕は振り返りざま
「カッター!」
風の刃をとばして、オオカミの首を落とした。
高枝刈り枝ハサミの代わりに猛練習した成果である!
残りは6。
オオカミどもは逃げようとする。
「逃がさない! ワーム!」
イメージしたのは触手。
エロ? それは考え過ぎですね。とはいえ1発で成功してしまうので、反論はできないんだけども…。
オオカミどもは足もとから突然に発生したミミズのような触手に脚を絡めとられて転倒している。
僕は淡々と逃げようのないオオカミを処置した。
可哀想だとは思う。けど、ここで1匹でも逃がせば、チッチ達が襲われないとも限らないのだ。
ここは集落に近すぎる。
ゴメンナ。
心のなかで謝って命を奪う。
剣で仕留めた8匹のオオカミの死体は何かに使えるかも知れないとアイテムボックスに。
凍らせたオオカミは残念ながら割れてしまっていた。
「ふぅ」
息を吐く。
まだ……居るのだ。大物が。
マップで点滅していたドットは20じゃない。21。
その残りのひとつが……。
「ブフゥ!」
真っ白く鼻息をだして、木を片手で押しのけ倒して……姿をあらわした。
「ラズゥ…!」
愕然とした老コボルトの声がする。
ラズゥが僕を睨んでいる。
ツガイを殺した僕を憎しみに満ちた目で見据えている。
「ライオン・ハート」
唱えて平静を保ちつつ、鑑定を発動。
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アンノウン
種族:ラズゥ
性別:♂
年齢:42
レベル: 48
HP : 2500
MP : 180
こうげき:1500
ぼうぎょ: 900
ちから : 1200
すばやさ : 380
きようさ : 80
かしこさ : 120
せいしん : 350
こううん : 200
かっこよさ: 900
スキル:死の乱舞
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「化け物かよ…」
前に倒したラズゥはメスだった。今度はオス。そりゃ、メスより強いだろうけど。
それにしたって、ステータスの数値が異常だ。
ラズゥが全身を露わにした直後。
化け物の魔力が高まったのを感じた。
『来るわよ! ラズゥの必殺技!』
ミカの警告。わくわくとした声。
見てたのか?
『面白そうだったからね』
僕は魔法で防御を上げようとした。イメージはバリアだ、どんな攻撃もはじく透明なシールド。
『言っとくけど、死の乱舞は範囲攻撃だから。間違いなく、あのコボルト達は死んじゃうね』
そのミカの楽し気な忠告で、僕はイメージを変えた。いいや、魔力を振り分ける対象を僕だけじゃなく、老コボルトとその背後も含めた。
「グオオオオオオオオオオオオオオ!」
ラズゥが吠える。
同時に針金のような毛が360度に飛んだ。
時間がなかった。
それでも僕だけを守るのなら充分だった。ムゲンのMPはまさしくチートなのだ。
けど、僕は途中で対象を4つに増やしてしまった。老コボルトとその背後の2つのドットも加えてしまった。
しかも、だ。僕はコボルト達により魔力を振った。防御が増すようにした。
だから結果は。
「げふ」
僕は大量の血を吐き出した。
右腕が肩からなくなっていた。
脇腹も大きくえぐれている。
満身創痍。
しかしながら、生きている。
こんなもんで済んでラッキーだ。
範囲攻撃というだけあって、ラズゥを中心にして円形に爆心地めいた破壊が起きている。
老コボルトは、と見れば。倒れてはいるが、生きているようだった。
その背後にある木は半ばから吹き飛んでいても、バリアを張った2つのドットは無事だ。
「ヒール」
気力を振り絞って、僕は脇腹を治癒した。
「必殺技とやら…大したことなかったな」
嘲笑ってやる。
言葉がラズゥに通じるはずもない。それでも馬鹿にされたのは理解したのだろう。
「ガアアアアアア!」
ラズゥが治癒はさせじと襲い掛かってくる。
はやい!
寸でのところで僕は跳び退いた。
僕がいた場所がラズゥの爪でえぐれる。
血は止めた。
ヒールで治癒できたのは其処までだ。腕がないから、どうにもバランスが取れない。
僕は徐々にラズゥに追い込まれた。
メスのラズゥを倒したように力技はできない。
あれは時間がかかるのだ。
僕の魔法を使う能力『かしこさ』は低い。その低いのを補うためにMPムゲンでもって、むりやりに相手の魔法抵抗値である『せいしん』を押しのけて魔法をかけているのだ。
言ってみれば【 大きな火(魔法抵抗値) 】を消すのに、本来の僕は【 水滴(魔法)】しか使えないのを、MPムゲンに頼って【 プールいっぱいの水(魔法)】で対抗している。
けど、僕本来の『かしこさ』が低いから、どうしたって魔法を発動=プールの水をためる、まで時間がかかってしまうのだ。
「ワーム!」
はラズゥを絡め縛るどころか、秒の足止めさえできず。
「カッター!」
はラズゥの剛毛に通らない。
「ブリザード!」
は煩わしいとばかりに腕を払われるだけで霧散してしまう。
ならば、と
「電子レンジ!」
は…駄目だ、ラズゥの『せいしん』に抵抗される。
「チッ!」
と化け物に舌打ちをする。
ここで僕が負けるわけにはいかないのだ。
前にも言ったように、この場所はコボルトの集落に近い。
僕を殺せば、嬉々としてラズゥは集落を襲うだろう。
僕は……僕は………!
「頼まれたんだよ!」
ベルダに託されたのだ、コボルト族の未来を。
お前のツガイに殺された2匹のコボルトの仇もある!
外からの攻撃は通じない。
ならば、内からはどうだ?
奴の魔力=MPを起爆させる。
僕なら出来るはずだ。
『なかなか良い考えだけどねぇ、ざーんねん。それだと起爆剤としてのMPが足りないよン』
ラズゥのMPは180。これだとHP2500を削り切れないか。
だったら!
僕は転倒した。
考え事をしていたから?
ラズゥが大口をひろげて僕の左脚に噛みつく。
逃げないように、まずは脚から。
そうだよな、お前は頭が良い。
獲物を…憎らしい相手をいたぶれるほどに…。
激痛と共に、噛みつかれた左脚が膝から食いちぎられる。
奴は…ラズゥは僕に見せつけるようにして脚を食う。
違う。
何が違う? 僕は考え事をしていたから転んだんじゃない。
わざと転んだのだ。
ラズゥが回復呪文を唱える暇は与えんとばかりに、僕の残った右脚を太ももから千切って食べる。
食ったな!
食べたな!
僕の両脚を!
魔力の塊を!
「終わりだ」
『終わりね』
僕とミカの声が揃って
「バースト!」
僕は唱えた。魔力が膨れ上がるイメージ! ダムの決壊をイメージ! 風船が割れるように肉体が爆ぜる、イメージ!
ラズゥがギョとしたように僕を見る。
死ぬ前に僕に襲い掛かろうとしたのだろう、大口を開けて……その口から奔流のごとく血潮が吹き出された。
ラズゥの巨体が横倒しになる。大地が震える。
『おめでとう、コウヘイ! ポイントプラスしとくかンね。じゃぁねン』
ポイントよりも、ステータスの値をどうにかしてほしい。
そう思いながら「ヒール」僕はかすれる声で唱えた。
けれど痛みが先行して、手足が生えるようなイメージができない。
…麻酔、か。
「パラライズ」
脳をいじくるのは怖いから、手足の末端の神経を麻痺させるイメージだ。
痛みがなくなる。
「おい! あんた!」
老コボルトが剣を杖のようにして遣って来た。
彼の後ろには幼いビーグルとポメラニアンが従っている。
「何か言い残すことはないか?」
わざわざ遺言を聞きに来てくれたらしい。
ハハッと僕は苦笑してしまった。
「…ひどいな」
「あんたはラズゥを倒した。勇者じゃ。末期の言葉ぐらいあるじゃろ?」
「僕はね…まだ、死ねないんだ」
正確には明日になったら死ななけりゃならないんだけどさ。
「ヒール」
僕は唱えた。
ニョキニョキと失われた腕と脚が生える。
うう…薄気味悪いし、気持ち悪い。
それは老コボルトも幼い2匹も同じだったんだろう。
飛び退いた。
「あんた…何者じゃ?」
老コボルトが僕に剣の切っ先を向ける。
「女神の御使い」
僕は立ち上がりつつ答えた。
眩暈がするし、体がだるい。貧血だな、これは。
アイテムボックスからズボンと上着を取り出して、着替える。
はぁ? と老コボルトが胡乱気な顔をしているけど
「ヒール」
と唱えて僕が老コボルトの傷を治したことで驚愕の表情に変わった。
「膝が…まさか、本当に?」
「本当だよ、嘘じゃない」
「ならば…ならば、頼みがあり申す!」
言って、老コボルトは土下座した。
「ここにおります幼きコボルトの兄妹を、どうか安全な場所へ」
幼いビーグルとポメラニアンのコボルトが不安げに僕と老コボルトを見ている。
「それなら、コボルトの集落に行こう」
「なんと! コボルトが…無事な集落があるのですか!」
「ああ、あるよ。詳しい話はソコで。食料もあるから、移動しよう」
骨と皮ばかりの老コボルトにユニ〇ロのダウンを与え、幼いコボルトは毛布にくるんで僕が抱きかかえ。
僕等は、集落へと足を進めた。
あっと! ラズゥの巨体はアイテムボックスに入れておいた。
何かに使えるかも知れないし。
勿体ないの精神だ。
いきなり魔法を連発し過ぎかな?
地球で練習してたみたいなのを挿入したほうがいいかも。




