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22:ヒモって料理が上手くないとね。そんで悪気なく秘密をばらすオッサン

集落? の中央には盛大な篝火かがりびが焚かれている。

それこそキャンプファイヤーもかくやの大きさだ。


コボルトは暖をとれるだけの焚き木さえ不自由していた。

そこで僕が、これもアイテムボックスから取り出した牧場の木製の柵をコボルト達が器用に組み上げてくれたのだ。


そんな篝火の周りでは、コボルト達が思い思いに座って料理を頬張っていた。


地面の雪は除けてあるし、そればかりかダンボールも敷いてある。しかもそれぞれのお尻の下にはクッションや座布団があるから冷えることは無いだろう。

加えて、降っている雪除けに箱型屋根付きの自転車置き場が幾重にも並んでいるのだ。これで風雪もあんまり気にならない。


さて。僕はといえば、そんなコボルト達のなかでおさんどんをしていた。


おさんどん、てのは台所仕事をする女中さんのことだ。


そう、料理をしているのだ。


特大のバーベキュー・コンロで肉を焼く。


因みに僕はバーベキュー・コンロなんて使ったことがない。


なら、どうして問題なく使えているのか?


鑑定のおかげだ。鑑定が使い方を説明書みたいに教えてくれたのだ。


ほんと、アイテムボックスといい、マップといい、チートだ。


焼く焼く焼く、肉を焼く。

試される大地の肉といえば羊、ラムだ。


というわけでラム肉を焼いて焼いて焼きまくる。


「おいっしいいいいいい!」


さっきまでコボルトは各々で肉を焼いていたのだけど、何故だか今は僕の焼いた肉に群がっている。というか順番待ちが出来ている。


焼いても焼いても、追いつかない。

焼きあがるそばから


「いただきます!」


と持っていかれる。別に特別な味付けなんてしてない。コボルト達のことを考えて、塩分を摂り過ぎないよう、バーベキューソースはもちろん塩だって振ってない。正真正銘、肉を焼いているだけだ。


なのに大人気なのだ。

焼くだけなら、篝火に肉を突っ込んでも同じだと思うけど……御使いが焼いた肉という理由で、ありがたみでもあるんだろうか?


僕の焼いた肉待ちのコボルトは、カリカリのドッグフードをかじっている。

このドッグフードは牧場で飼っていた犬のものだ。犬は1年ほど前に他の牧場に貰われていったらしい。


このドッグフードが人気だった。

カリコリカリコリ、みんなしてスナック感覚で食べている。


こんなんだったら、ドッグフードだけ大量に複製してもよかったんじゃないか?


そう思って訊いてみたけれど、やっぱり歯ごたえのある肉を食べたいし、野菜もすこしはりたいらしい。コボルトのなかにはキャベツが大好物という変わり種もいたし。

それに、まぁ、ドッグフード以外の栄養は必要だろう。特に女性陣には…。


あくまでもドッグフードはお菓子。カッパエ〇セン的な? そんな感じのものなのだ。

もちろん、ドッグフードを大量に積みましたよ? なんか、みんなして物欲しそうな顔をするんだ、仕方ないじゃないか。


雪降るなかを、僕は汗をかきながら肉を焼く。

かたわららにはチッチがはべっていて、手術オペをする先生の汗をふく看護士のように甲斐甲斐しく世話を焼いてくれている。


ありがとう、手が離せないので助かっています。


そんなことをしていると


『スキル:料理のレベルが上がりました』


とミカの声でアナウンスが聞こえた。


『つーか? コウヘイ、そんなとこで何やってんの?』


いや~、と僕は肉を焼く手を休めることなく。


ゲームを買った帰りに殺されちゃって…。


『マジで?! 何やってんのよ! ゲームは? 箱〇は無事なんでしょうね?』


なんだい? 僕よりもゲーム機のほうが気になるの?


『そらそうよ、だってコウヘイは死んでも平気だもん』


そうだけどね…。ゲーム機はアイテムボックスに収納してたから傷ひとつないよ。


『ナーイス! ナイスよコウヘイ!』


で、さ。僕はちょっとコッチで用事があるから直ぐソッチに帰れそうにないんだよ。


『まーた、コボルトに構ってンの?』


頼むよ! ミカが呼んだら、死ぬからさ。


『あらま! コウヘイったら、自分で死ぬ決心ができたんだ』


本音を言えば、恐いけど…。


『ふーん。そういうことなら、今やってるゲームが終わるまでなら待っててあげる』


どれくらいで終わりそうなんだ?


『だいたい3時間ぐらい?』


そうすると、コッチで3日か…。


『じゃ、終わったら連絡するから。しっかり死んでよね、バーイ!』


プッツリと通話が切れる。


しっかり死んでよね、か…。

その時のことを考えると憂鬱になる。


でもお婆巫女のベルダに頼むと懇願されてしまったし。最低限のことぐらいはしておかないと寝覚めが悪いものなぁ。


僕は、まさか眼前で女神ミカと会話していたとは思いもしてないだろうチッチ達の手前、溜め息をつくわけにもいかず、だから気分をまぎらわすために久しぶりに自分のステータスを見てみることにした。



--------------------


コウヘイ 【職業:ヒモ】

種族:ミカの御使い

性別:♂

年齢:0


レベル: 2

HP : 16

MP : ∞


こうげき:11

ぼうぎょ:11


ちから  : 11

すばやさ : 11

きようさ : 11

かしこさ : 11

せいしん : 11

こううん : 11

かっこよさ: 11


スキル:全魔法適性

   :マップ

   :鑑定

   :アイテムボックス

   :言語理解

   :料理 Lv3


マホウ:氷結呪文 Lv10

    ライオン・ハート

    回復呪文ヒールLv10

    身体能力向上 Lv5

    分子振動 電子レンジ


ポイント:900


--------------------



ヒモ、て職業なのか?


いやいや、そこじゃない。

確かに、スキルに料理が増えてる。しかもレベルが3だ。


これは蛯名家で料理をしているうちにスキルとして習得したと考えるべきだな。

どうりで香や瑞樹さんや稲塚から食事の評判がいいわけだ。


そして現在進行形でコボルトからも…。


僕からしたら、ただ焼いているだけのつもりなんだけど、スキル:料理の効果で、コボルト達からしたら絶妙な焼き加減になっているんだろう。


僕は肉を焼く機械だ。

無心で肉を焼き続けること3時間ほど。


ようやくのことでコボルト達は満足してくれたようだった。


満腹になったら眠くなるのが自然の摂理。

しかも篝火が焚かれて、火のそばはテントのなかよりも寒くない。


其処そこ彼処かしこでコボルト達が寝息を立て始めている。


というか、僕に侍っているチッチがもう船を漕いでいたりする。


僕は座ったままの姿勢でコクリコクリしているチッチに毛布を被せてあげた。

温かかったのだろう、コテンとチッチが横になる。地面にはダンボールが敷いてあるから、体温が地面に奪われることは無いはずだ。

チッチはピカ〇ュー・クッションを胸に抱き込んで、スースーと眠ってしまった。


篝火の周りを歩いて、みんなに毛布を掛ける。


「ありがとうございます」


ゆいいつ起きていたオールが感謝の言葉を述べる。


「オールも疲れてるんだろ? 眠っていいよ」


「ですが、見張りが居ないと」


「警戒なら僕がしてるから」


オールは何か言おうとしたけれど、思い直したみたいだ。


「では、恐れ多いことですがお願いいたします」


と、横になった。


それでいいんだよ。今日ぐらいはゆっくりおやすみ。


僕は元居た場所に戻ると、バーベキュー・コンロをアイテムボックスに片付けてから、スキルのマップを表示させた。

前回の食料探索で集落の周囲はマッピングされている。


これで敵対する生き物が近づいても分かるはずだ。


僕は半分眠りながら、監視を続けた。


だから、気づいた。

朝方。雪が降り止んだ頃に。


ひとつのドットが消えてしまったのを。






う、ううううう。


コボルト達が泣いていた。

チッチも。

シベリアンハスキー君も。

チャウチャウ姐さんも。

オールでさえも、涙を流していた。


お婆巫女のベルダが死んだのだ。


最初にベルダが死んでいるのを見つけたのは働き者のチッチだった。

誰よりも早くに起きて、まずはベルダの世話をする。それがチッチの日課だったみたいなのだ。


「あたしが…あたしがもっと早く起きてれば」


「それは違うよ」僕は自分を責めるチッチの頭に手を置いた。

「ベルダは寿命だったんだ。満足に命をまっとうしたんだよ。それが証拠に、ほら。ベルダが苦しんだ様子はないだろ?」


「はい…はい……」


ベルダの死に顔は安らかだった。

僕にコボルトの未来をたくしたことで、思い煩いから解かれたのだろう。


みんなで朝食を食べる。


どんなに悲しくてもお腹は減るのだ。

特にコボルト達は生きることの辛さを身をもって知っている。

悲しみをこらえて、食べられるときに食べておく。

そうしないと、明日には餓えて死んでしまいかねない現実を送っていたコボルトなのだ。

だから、みんなは黙々と芋をかじって、キャベツをむしり食べた。


僕はといえば、ベルダを綺麗にしてあげることにした。


プラスチックのバケツに魔法でぬるま湯を満たす。そのお湯で濡らしたタオルでベルダの体を丹念に拭いてやった。

タオルは直ぐに真っ黒になってしまう。

それでも僕は新しいタオルをだして丹念にベルダをきよめた。


みんなが近寄ってくる。


次に僕はベルダの伸び放題の毛をカットした。

所詮は素人だから上手くはカットできないけど、それでも丁寧に毛に櫛を入れてはカットをする。


「オババさま…綺麗」


誰かが呟いた。


汚れたモップみたいだったベルダは、艶々した茶色の毛並みの、地球で見るようなヨークシャーテリアになれていた。


「埋葬は何処に?」


「御使い様が降臨こうりんなされる、あの丘のふもとに。あそこは不思議と獣が近づかないので、遺体を掘り返されるようなことがないのです。前にラズゥと闘って死んだ者等も埋められています」


そっか…そうだったね。

僕を守るために死んだコボルトがいたんだ。


忘れていた?


いいや、考えないようにしていたんだ。

僕のせいで死んだのだ、ということから目をそむけていた。


彼等にも、謝りに行こう。

ありがとうと言いに行こう。


僕等は丘へと足を向けた。

ベルダの遺体は僕が横抱きに抱いて運んだ。


丘のふもとに着くと、オール達がスコップで穴を掘る。


そこに僕はベルダの小さくて軽い体を横たえた。


雪が降り始める。


僕が一番に土をかけた。それからコボルト達が順番に土をかぶせてゆく。


それから僕は、ラズゥに殺されたボクサーちゃんとチワワ君の遺体を埋めた場所に手を合わせた。


「くしゅん」


とチッチがくしゃみをした。


長いこと寒い場所に居すぎたかな?


僕は大急ぎでチッチにブランケットを肩から羽織らせた。

他にも9匹の若いメスにブランケットを与える。


「御使い様はお優しいですな」


オールが言うけど。


「優しいと言うかさ、当然だろ。妊婦さんなんだから、体を温かくしてないと」


「へ?!」


とオールが珍しく素っ頓狂な声をあげた。


「へ?」


気付いてなかったの? と他のコボルトを見れば、妊娠しているチッチを含めた10匹以外も驚いた顔をしている。


もしかして…。


「内緒にしてたの?」


チッチに訊けば、彼女は言葉なく俯いて「キューン」と申し訳なげに鼻を鳴らした。

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