21:アイテムボックスはマジチート! そんでお婆巫女を労わるオッサン
前話で書き溜めが無くなったとこぼしましたが、休みの日に頑張りました。
とりあえず土曜日までは毎日投稿です!
「さっそくだけど、何か問題はあるかい?」
「実は」と言いにくそうにオールが口にしたのは、食料がほとんどないということだった。
冬に備えて備蓄してはいたのだが、それでも足りなくなってしまったらしい。
「腐りにくい木の実を集めてはおいたのですが…」
保存食といえばジャムや干し肉があるけれど、コボルト達にそんな技術はないみたいだし、そもそもの話、砂糖も塩も満足にないのだから保存の効く食べ物なんてドングリみたいな木の実ぐらいなものだったんだろう。
「前の冬は男たちで森の動物を狩ってしのいだのですが、一帯の獲物は獲りつくしてしまったようでして」
そういえば、コボルト達にとっては2度目の冬だったんだな。
動物を求めて遠出をしようにも、万が一に備えて守りの人数は残しておかねばならず、そうなれば狩りに行く人数も限られてしまう。さらに遠出といっても2日3日も離れた場所までは行けない。そんな遠くまで行っても、帰りの道のりでせっかく狩った動物を食べてしまうし、肉食の獣がニオイにつられて襲いかかってくるやもしれない。熊の化け物のラズゥみたいなのが1匹だけとは限らないのだ。
「食料か…」
実をいえば、僕のアイテムボックスには食料も入っている。蛯名家の食事で使う食材だ。
きっかけは蛯名家の大型冷蔵庫が故障したことだった。
蛯名家は街から遠く離れている。だから、月に1度、軽トラで街にでて大量に食材を調達するのだ。
それを入れておくための冷蔵庫が壊れた。
だからといって放置しておけば、ネズミが寄ってくる。
ということで、山のような…食材の一時的な保管場所として僕のアイテムボックスを使ったのだ。
その際に分かったのだけど、アイテムボックスに収納された物品は時間経過しないようだった。
なんせ冷凍食品が半日経ってもカチンコチンのままだったのだ。
ミカに確認もした。
「時間経過するアイテムボックスとか三流じゃん」
ぷーくすくす、と何だか煽るみたいに笑っていた。
だから冷蔵庫は修理せず、食料品は何時でも家にいる無職の僕のアイテムボックスの中にということになったのだった。
お婆巫女のベルダには、この食料を食べさせるつもりだった。
けれどコボルト51匹ともなると、当然だけど量が足りない。
1食でカラッポだ。
もっとも……裏技がないわけじゃない。
「やってみるか」
僕はアイテムボックスを展開させた。
目の前にフォルダがある。フォルダ名は『地球』だ。
それを下に下に開いていくと『蛯名家・食材』というフォルダがある。着目してほしいのは『食料』ではなく『食材』だという点だ。『蛯名家・食料』のほうには冷凍食品やお菓子なんかが蓄えられているけど『蛯名家・食材』はその名称の通りに野菜や肉や魚といった材料しか入ってない。
さすがにコボルトたちにお菓子や現代の料理は……ビックリさせてしまうと思うのだ。
僕は『蛯名家・食材』というフォルダに注目して、それをコピーした。
そして……ペースト。
『蛯名家・食材』の隣りに『蛯名家・食材 - コピー』というのが出現した。
「できちゃったか…」
やっておきながら、これはチートだと思わざるを得ない。
コピー・フォルダの中にはしっかりと地球産の食べ物が揃っている。
思う。
こいつは絶対に必要なとき以外は封印しようと。特に地球では使わないほうが良い。
きっと世界中の食糧難だって、不足している何だろうと解決できる。
人は喜ぶだろう。
命だって救われる。
しかし、そんなことをしたら決定的な何かを現実世界が失う気がするのだ。
何よりも……僕が恐い。
僕はコピー・フォルダの中の食材アイテムを全てコピーした。感覚的にはキーボードの『Ctrl』を押しながら『A』押しだ。それからそれをペースト。10回ぐらいペーストしたら、再び全コピーして、ペースト。これで大量の食料品がアイテムとしてこぴーされた。
「みんな、ちょっと退いてておくれ」
コボルト達のどいた場所に、僕はコピーした品物を出現させた。
どさ、という音と共に過言でなく山のような食材が積みあがった。
コボルト達は目をまん丸にしている。
「これだけあれば、みんなが食べて何日ぐらいもつと思う?」
「…10日ほどは大丈夫かと」
オールが震える声で答えてくれる。
「冬はあとどれくらい続くんだい?」
「え、えーと」
オールは太陽をみたり、ひの、ふの、と指を折って数えてから
「お天道様があと70回のぼるぐらいでしょうか?」
だよな? と山のような食材を呆然と眺めている横にいたシベリアンハスキー君に確認しているけど
「そ、そんぐらいじゃないか?」
と何とも訊いた相手は頼りない。
70日分。多めに見積もって90日分もあれば充分かな?
僕はさらに食材をアイテムボックスから取り出した。
ドカドカと、出した僕が唖然とするほど食べ物が積みあがる。
雪崩が起きて、大慌てにコボルト達が逃げたほどだ。
え? 何でこんなに沢山の量を出したんだって?
そりゃー、前みたいにミカにいきなり呼び戻されるかも知れないからだよ。
「みんな、これを雪の中に埋めておくれ。雪の中に埋めておけば腐り難くなるからね。それから、埋めた場所が分かるように標もつけておくんだよ」
「は、はい! みんな、御使い様の言われたとおりに埋めるぞ!」
「「 おお! 」」
色とりどりの服を着たコボルト達が忙しなく動く。
コボルト達は小柄だから、遠目で見ると小学生の高学年ぐらいの子供を働かせているみたいだ。
ざ、ざ、と犬のように前足? を使って雪を掘っているけれど……すんごい冷たそうだ。
僕はアイテムボックスから除雪用のスコップやダンプと呼ばれる道具を取り出した。
これは蛯名牧場で使用されていた物だ。要らない、というのでアイテムボックスに放り込んで置いたのだ。
ガランという道具の立てた物音にみんなが注目する。
「これを使えば楽だから。使い方はね…」
近くにいたチャウチャウ姐さんに道具の使い方を教える。
コピーしたスコップとダンプを20ほどずつ追加したところで、僕はお婆巫女のベルダの為に料理を作ることにした。
「あったかくて、柔らかいものだよな。あと、肉もあったほうが好いだろうな」
う~ん?
「おじや、か?」
おっさんだから、病人食なんて他に思いつかない。
カセットコンロと小ぶりのホーロー鍋をアイテムボックスから取り出して、料理をする。
言うまでもないけど、道具は寮から拝借した品物だ。
丸鶏ガラの粉末でスープを。肉々(にくにく)しさを出すために、よくよく砕いて潰したソーセージも加える。それから焚いておいた白米を投入。グツグツ、ときたところで溶いた玉子をグルリと掻きいれる。
グゥ! という音に僕は顔を上げた。
気づけば、コボルト達が仕事の手をとめて僕を見詰めていた。
グゥ! グゥ! 其処彼処でお腹の音が鳴っている。
「これはお婆のぶんだから。みんなには、あとで作ってやるからな」
そう言うと、コボルト達は後ろ髪を引かれる様子ながらも仕事に戻っていった。
「ベルダ」
おじやの入った鍋をもって、僕はベルダのテントを訪ねた。
ヨークシャーテリアの老婆は起きていた。
外の騒ぎで目が覚めてしまったのだろう。
「ご飯を持ってきたから、食べておくれ」
「ワシにゃんぞよりも、他の者に…」
「みんなには食べきれないだけの食糧を渡したよ。だから、安心してお食べ」
「ありがたい…御使いしゃま。ありがたい」
苦労だろうけど、ベルダの上体を軽く起こす。背中にはドリャクエのスライム型のクッションを置いて支えにしてあげる。
レンゲでおじやを掬って、フーフーと充分に冷ましてから、僕はベルダに食べさせた。
モグモグとお婆巫女は口を動かす。
「美味しいですじゃ。久方ぶりの肉の味ですじゃ」
「よかったね。もっとお食べ」
けれど、ベルダはレンゲで3杯だけしか食べられなかった。
それほどに弱っているのだ。
満足だというベルダを再び寝かせてやる。
「御使いしゃま…」
「なんだい?」
「我りゃを…コボリュトを……」
老婆が毛布から手を差し出す。
ほそい腕だ。
枯れ枝のような腕だ。
僕はそんな老婆の手を包むように握った。
「安心おし、僕が力になるから」
「ありがとうごじゃります」
コボルトの巫女は、そう言って目をつむった。
弱弱しい寝息だった。




