20:チッチの滑り土下座からの、そんでお婆巫女のお見舞いをするオッサン
本日は平日なので17時投稿となっております。
例の如く黄泉がえりの苦しみに襲われて、ようやく生き返った僕は黄昏ていた。
ハァ、と溜め息をつく。
魔術師殿は死んだはずだ。何というか…手応えがあるのだ。
魔法というのは不思議なもので、感覚としてリアクションがあるのだ。例えば刀で物を斬ったら手応えがある。同じようなものだ。
これで僕は人殺しだ。
もっとも、後悔や罪悪感は微塵もない。
何時かは人を殺すことになると覚悟をしていた。なんてのは言い訳にならない。
相手は犯罪者で、僕を殺そうとした。ってのも同じく心の負担にならない理由にはならない。
ハッキリ言ってしまえば、僕はもう人間ではないのだ。
ミカの御使いなのだ。
それが今回のことでハッキリと分かった。
だから黄昏ているのは人を殺したからじゃない。
僕が人をやめたのを理解してしまったから、溜め息を吐いているのだ。
僕の傍らには、前に殴った木が立っている。
生き返ったのは同じ場所だった。
木は、見て分かるほど、あの時よりも太く大きくなっている。
そんなに年数が経ってるか?
考える。僕は地球で20日ほどを暮らしているだろうか?
こっちは向こうの1時間で1日が過ぎるはずだから……だいたい1年と4か月ほど経過している感じか?
「にしては、この木…」
成長し過ぎだろう? 異世界だからか?
というか? この木……変だ。
コッチは真冬のようだった。
周囲は見渡すか切り雪景色なのだ。シンシンと大粒の雪が降っているのだ。なのに……この木の周囲にだけ雪がない。
むしろ温かい。
だからこそ、僕は夏服でいられたわけだけど。
ココで復活するのも、この木が関係してそうだ。
「まぁ、こうしていても仕方ない」
僕はゴミ箱あらためアイテムボックスから冬物の衣類を取り出した。股引に厚手のズボン。ヒートテックの下着にネルシャツ。それからドテラを羽織って、ゴム長靴を履く。頭は毛糸の帽子だ。
これで装備は万端。
そう思った時に思い出してしまった。
よくあるだろう? 用事で家を出た後に、忘れ物を思い出すなんてことが。それと同じ感じで、思い出してしまった。
ミカは言っていた。
『アッチとコッチとでは肉体を構成する物質が違う』『だから、変換しないとバーンってなる』
冷や汗が出る。
…………アイテムボックスの中身は世界が変わる度に自動的に物質の構成が変換されているのだろう。
そうでなかったら、今頃は大爆発だ。
下手をしたら、コボルト共々にここら一帯を吹き飛ばしていたかもしれない。
「御使い様!?」
ブワッと噴き出た冷や汗をドテラの袖で拭っていると、声をかけられた。
「チッチ! 久しぶりだね」
丘の下のほうにいたのは麿眉柴犬コボルトのチッチだった。
「御使いしゃまー!」
全速力で駆けてきたチッチが、僕の前で滑り込み土下座をかます。
「ほんとうに御使いしゃまにゃのですね!」
「お、おう。そうだよ」
涙でぐしゃぐしゃになった顔で僕を見上げるチッチに、僕はといえばちょっと引いてしまった。
「いきにゃり居なくなってしまって、にゃにか失礼をしてしまったのきゃと…」
ああ、そういうことか。それで気を揉んでたんだね。
「失礼なことなんてされてないから、安心しておくれ。あの時は、女神様に呼ばれてね。急なことだったから、別れの言葉も言えなかったんだよ」
「しょうでしゅか、よかった…。あたし、みゃい日、ココに…御使いしゃまに会ったココに来てたんでしゅ、あたし達がわりゅいことをしちゃったんにゃら、謝らにゃいとと思って」
グシュグシュと鼻を鳴らしっているチッチを見て、コボルトには悪いことをしたなぁと思う。
彼等彼女等のことを気にはなっていたのだ。
けれども、異世界に行こうという決断は下せなかった。
死ぬ、というのは本当に苦しいのだ。加えて『次は生き返れるのか?』という不安がある。今回は無事に黄泉返ることができたけど、次も同じように帰って来れる確信はないのだ。
ミカにコボルトの無事を訊いたこともある。神だから異世界のことだって分かるだろうと考えて。けど、ゲームに首ったけのミカは『へーき、へーき、生きてるから、へーき』とぞんざいに言ったきりだったし。
「こんなに雪をかぶって」
僕はチッチの頭や肩にのっている雪を払った。
「も、勿体ないことを…」
「すっかり毛も冷えてるじゃないか」
アイテムボックスからユニ〇ロのダウンを取り出して、チッチに着せてやる。
ダウンは寮住みの女性が捨てて行ったSサイズなんだけど、なんせチッチたちコボルトは小柄だから、ちょっとばかりブカブカしてしまっている。
それでもチッチは「温かいですぅ」ぶんぶんと尻尾を振ってご満悦だ。
僕らは木の守りの及ぶ外に出た。
ブルリ、と震えてしまう。それほどに寒い。風がないのが救いだ。
「他のみんなは元気かい?」
集落? への道中で僕は訊いた。
チッチの丸まった尻尾がタラリと垂れて、麿眉がハの字に下がる。
「オババ様が…」
ヨークシャーテリアのお婆巫女。寿命なのだろう、もう1ヶ月近くも寝込んでいるという。
「オババ様も御使い様への感謝が足りなかったから怒って帰ってしまわれたのかと、思い煩っておりました」
「なら、はやく安心させてあげよう」
身体能力強化の魔法を使う。
僕らは歩く速度をはやめたのだった。
集落に近づくと、イの一番にゴールデンレトリバーのオールが出迎えに来てくれた。
誰かさんと同じように物凄い勢いで駆けてきて、ザザザザ! と雪を滑るようにしながら土下座をしてくる。
しかもオールだけじゃない。次から次へとコボルト達は滑り込み土下座をするのだ。
総勢で50匹の土下座だ。
居たたまれないものがある。
コボルトは僕が怒って帰ったと勘違いしているみたいだけど、真実は女神の我儘なのだから。
僕はみんなに顔を上げてくれるよう言った。
ココは雪が積もっている。丘の上とは違って、土下座をするにしても寒いだろうし。
それからチッチに言ったように、みんなの勘違いを解いた。
「お婆の具合が悪いんだって?」
「……是非とも顔を見せてあげてください」
お婆巫女のテントは他のテントと同じだった。僕は膝をついて中へと入った。
齢経たヨークシャーテリアのコボルトは、もう鼻も利かないのだろう。
僕に気づくことなく目を閉じている。
ステータスで彼女の様子を確認する。
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ベルダ 【職業:巫女】
種族:コボルト
性別:♀
年齢:65
レベル: 18
HP : 05/90
MP : 80
こうげき:01
ぼうぎょ:01
ちから : 01/ 40
すばやさ : 01/190
きようさ : 01/130
かしこさ : 80/210
せいしん : 50/180
こううん : 100/100
かっこよさ: 40/280
スキル:託宣 lv3
BAD:老衰(ステータスの値を減少
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老衰か…。
65歳にしては早い気もするけれど、それが種族の差なのかも知れないし、もしくは苦労の連続で肉体が限界なのかも知れない。
「ベルダ」
僕はソッと呼びかけた。
寝てはいなかったんだろう、お婆巫女ベルダの瞼がゆっくりと持ち上がる。
「御使い…しゃま…」
「そうだよ」
「我りゃの…ぶりぇいを……」
「いいんだ、謝ることなんてないんだよ。僕は怒ってなんかないから。あれはね、女神様に呼ばれて帰っただけなんだよ」
「しょうでしゅたきゃ。よきゃった」
ベルダがホゥと息を吐く。微かに死のにおいがする、吐息。
僕はお婆の頭を撫でた。
カットされずに伸びに伸びた毛は泥と埃に汚れて、ダマができてしまっている。
そんなお婆の頭を僕は優しく撫でた。
「良い気持ちですじゃ…」
テントの中は寒い。薄い布の向こうは雪なのだ。しかもお婆巫女ベルダは毛皮を下に敷いているだけだ。
「ベルダ、ちょっとゴメンな」
僕は断りを入れてから、アイテムボックスの中に放り込んでいた座布団をお婆巫女の寝ている下に出現させた。それから同じように毛布をお婆巫女の上に出して掛けてやる。
「どうだい?」
「極楽ですじゃ」
ベルダがニッコリと微笑む。
「はやく元気にならないとな。みんなが心配してるぞ」
「はい」
「美味い物もいっぱい持って来てやるからな」
「はい」
「だから…今は寝てな」
「はい」
それから僕はベルダが眠るまで頭を撫でてやった。
テントの外に出ると、コボルト達が揃っていた。
みんなが膝をついて頭を垂れている。謝罪のためじゃなく、僕に礼儀を尽くしているのだろう。
「そういうのはいいから、頭を上げておくれ」
それから僕はみんなにアイテムボックスから取り出した上着を与えた。
あまりにも寒そうだったのだ。本当はズボンや靴も与えられたらよかったのだけど、ズボンは丈の合うのがなかったし、靴はそもそも足の形が違うので無理だった。
それでも
「ぬくぬくだ!」
「夢みたいだ!」
「天上の着物だぞ!」
と大喜びしてくれた。
「「 ありがとうございます! 」」
なんて感謝されてしまったけど……ごめんね、それって捨てる予定の物だったんだよね。
書き溜めがなくなりましたので、これからは不定期投稿となりそうです。
時刻は変わらず、平日は17時。土日は14時にしていきたいと思います。
よろしくお付き合いください。




