19:おたくな美形店員と出会い、そんで絶対殺すマンになっちゃうオッサン
僕が妖怪認定されて学校の七不思議にはいったなんてことを知る由もなく。
遂に街へと到着してしまった。
「人がいる…」
当たり前だけど、人がいる。歩いている。何十人と視界に入る。
僕は咄嗟に顔を伏せた。吐き気と眩暈がする。
さっきまでの爽快な気分はもう跡形もない。
ココに至って、僕はとんでもないことに気がついてしまった。
「何処にゲームを売ってる店があるんだ?」
スマフォでもあれば、直ぐに検索できるんだけど。あいにく、僕はそんな文明の利器を所持してない。
帰っちゃおうかな…。なんてことを考える。買えませんでした、といえばミカは許してくれる…気がしないでもない。
それでも。ここまで来て引き返すのは40代として情けなくないか? それに、ミカは僕を許すとしても、確実に暇つぶしで宇宙人…とまではいかないだろうけど、とんでもなことを仕出かすだろう。
立ち尽くして悩む。試される大地の未来の平和と、僕自身の心の平穏を天秤にかける。
検索できたらなぁ、悩むことすらなくゲームを買いにいくのになぁ、なんて自分を納得させて帰る方向に気持ちが傾きつつあったところで、ハッと思い出してしまった。
スキルのマップのことを。
もしや、検索機能とかあるのでは?
そう思って試したところ……あった。
…あってしまった。
スキルのマップを展開させて『ゲーム・ソフトを売っている場所』と考えてみたら、北海道のゲーム屋どころかフリーマーケットの場所までもが表示された。
なんて、痒いところにまで手が届く機能。
こうしてソフトを売っている場所が判明したからには、逃げることはできない。
僕は思い切って一歩を踏み出した。
いちばん近場でソフトを売っているのは駅前のゲーム屋『野々原ゲーム』らしい。
顔を伏せて、とにかく自分のつま先だけを見て歩く。
それでも他人にぶつかったりしないのは、マップの親切機能で人物がドットとして表示されているからだ。ちなみに男女は青と赤で識別されている。ほんとうに良く出来ている。
40代男性。
服装は年齢・外見に相応しからぬ若作り。
始終、俯いていて。
大丈夫だ、大丈夫だ、僕は大丈夫だ。などとブツブツ呟いて。
そんなに暑くもないのに、青い顔に大量の汗をかいて、タオルで拭きとっている。
そんな不審なのが平日の昼前に歩いているのだ。
我がことながら、警官に職質されることなく『野々原ゲーム』に辿り着けたときは奇跡だとすら思えた。
で、その野々原ゲームなのだけれど。
なんとも広々とした店だった。田舎だから店舗の家賃が安いという理由にしても広すぎる。5階建てビルの1、2、3、4階と占有しているのだ。
自動ドアを開けて、店内へ。
ドガチャカドガチャカと結構な音量でBGMが流れている。ゲームのBGMなのかも知れない。
店内は、とても広かった。天井も高いし、体育館…とまではいかなくとも学校の教室2つ分は優にあるだろう。そんな広々空間に、ゲーム・ソフトの陳列した棚がズラリと並んでいる有り様は圧巻だ。
きっと、新旧のゲーム・ソフトが並んでいるのだろう。
正直、僕はあまりゲームについて詳しくない。
ミカには名作がどうのといったけれど、あれは口から出まかせだ。僕が知っているのは京都メーカーがだしたファミリーなのとスーパーにファミリーなの、それと白黒な携帯ゲームしか知らない。
けれど、それだとミカは満足しないだろう。なんせ、今は最新型の携帯ゲーム機で遊んでいるのだ。いまさらドット表現のゲームなんて古すぎる。
世のかなにはレトロゲームを愛好する士もいるらしいけれど、そういった人は、やっぱり思い出補正のはいっている人だろうし。
どうしよう? これは、さすがにマップの検索機能も適用されない。
「ッらっしゃい」
入り口で途方に暮れていると、声をかけられた。棚の裏側からヒョッコリ顔を覗かせた店員は、クラフトエプロンをつけた…いわゆるレゲエ風な様子をした20代前半とおぼしい男性だった。
僕は目をまん丸にしていたと思う。
いきなり声をかけられて驚いたというのもあるけれど、ドレッド・ヘアというのを間近かに見て『ヘビ花火の燃えカスみたいだ』なんて失礼なことを思っていたのもあるけれど、なによりも店員が余りにも美形だったからだ。
イケメンなんて言葉がある。
それすら生ぬるい。
並のアイドルや俳優よりも美形なんじゃなかろうか?
下手をしたら、神に迫るものがある。
「なンかお探しっスか?」
美形店員がフレンドリーに近づいて来る。
「い、いやその…ゲーム・ソフトを」
言ってから、馬鹿なことを口にしたと思った。
ゲーム屋に足を運んでいるのに、ゲーム・ソフト以外の何を探すというのか?
彼は、ソフトの名称とか、そういったことを訊いてきたのだろう。
恥ずかしさに穴があったら入りたい気持ちになる。
けれども、美形店員が気にした様子がなかった。
「ウチの店は初めてッスよね? うちは何でも揃ってるッスよ? 1階はプレイシテ4とニンテン・スィング、それにニンテン・タッチ3D。他にもマイナーッスけどマイクロ社の箱1と携帯ゲーのVINTAだって揃えてるッス。2階は、ちょい古なプレイシテ3とマイクロ社の箱〇、携帯ゲーのプレイシテ・ポータブルとニンテン・タッチ。あと、ちょい狭いッスけどニンテンのWeeとWeeUもココッス。そんで3階が、初代プレイシテと2。マイクロ者の箱ッスね。あとはセゴのタイタンと早すぎた名機として名高いドリームもあるッスよ? もっちニンテン・キューブとネオヅオもあるッス。そしてッスね、4階がレトロものになってるんッスよ。ファミとスーファミ、エンジンとメガ。ニンテンの古い携帯ゲームも各種あるッス。他にもセゴの携帯ゲーム機ゲーム・ネジ、バンザイの携帯ゲーム機ワンダー・ツル、珍しいとこだとペペンとか4DOとかセゴ・マーク3、ゲーム・ウォッスも取り揃えてるッスよ?」
呪文かな? さっぱりわからない。
かろうじて分かったのはファミとスーファミ、それにプレイシテという単語だけだ。
けど、プレイシテって4まで出てるんだ…。僕は2まで出てるのは知ってたけど、実際に遊んだのは初代のプレイシテだけだ。
ハッキリ分かった。
もう手に負えない。
だから、僕はポケットから1万円札を2枚だけ取り出して、美形店員に差し出した。
これは、稲塚からの謝礼の一部だ。
洗脳を解いた謝礼? 違う違う、洗脳についての謝礼は受け取ってない。稲塚からは「借りですな」と言われている。たぶんだけど、頼めば億単位でお金をくれるんじゃないかと思う。極道の言葉なのだ、重みが違う。
なら、このお金は何か?
前にも言ったけど、僕は稲塚とその孫に夕食をご馳走する時がある。その代金だ。
うん、高額だよね? 素人料理への対価とは思えないよね? けど実は10万円ほど貰ってしまっているんです。
だって、手もとに自由になるお金が少しでも欲しかったのだ。
もっとも、そのうちの半分は食費やら光熱費やらとして瑞樹さんに渡す予定だから、使えるのは5万円のみだ。
40代男性。所持金5万円。
そして今、僕は全財産の約半分を差し出した。まさしく断腸の思いです。
「これで、適当に面白いのを見繕ってください」
と、つっかえつっかえ頼む。
「と言われてもッスね…」
そら、そうだよね。困るよね。
言ってから、無理な申し出をしたと思ったのだけれど
「い~っぱいあって、困るぐらいあるッスよ!」美形店員は満面の笑みで言った。
「所持してる機体は何ッスか? プレイシテ4だったら、ドリャクエにファイナルの新作もあるッスよ。個人的にはFO4とダーク魂3が良いッスね。他にも竜が如く、スッパロボ、ビャイオ、ネットがあるならシューティングも良いッスよ? 今ならモン狩が熱いッスね。俺もプレイしてるんッスけど」
捲し立てるような勢いで美形店員は喋っている。
もはや僕の意見なんて聞く気がなさそうだ。
彼は、そう……マニア。またはオタクという人種なのだろう。
ペラペラと彼はオススメのソフトを説明している。
もはや彼は僕に向かって喋ってない。なんというか……お客様を見ることなく、ただ己の知識を垂れ流している感じだ。
そういえば、と思う。ざっと見渡して、店内にお客の姿がないのだ。
美形店員はこんな調子で接客しているのだろう。だから、お客が寄り付かなくなった?
なんだか、この残念美形に対してはあんまり緊張しない。ガマの油みたいに汗はでるけど、手足が無闇に震えるようなことがない。
おそらく、彼が僕という個人を認めてないからだろう。彼は、彼だけである意味で完結しているのだ。
残念美形の説明が遂にはプレイシテ3になったところで、僕は、欲しいゲーム・ソフトの傾向を本人に訊けばいいことを思いだした。
テンパっていて忘れていたけれど、僕はミカと直接に連絡が取れるじゃないか。
「ちょっと」失礼をば。
と断りを入れて美形店員に背を向ける。
思う存分に喋ったからか、なんか美形店員は満足げな表情だ。
僕は如何にもスマフォで連絡を取っていますよという擬態をしながら
「もしもーし?」
と呼びかけた。
「はいはーい?」直ぐに返事が返ってくる。
「無事に着けたみたいね。あとでヨシヨーシしたげるからねん」
それは遠慮願いたい。ヨシヨシが面映ゆいというのもあるけれど、髪に触られると……その…40代の悩みなのだ。
「なんかさ、色々とゲームの種類があるんだけど? どーーゆーのが欲しいんだい?」
「コウヘイのご予算は如何ほど?」
「2万円から…出せて3万円」
「3万か…」
ナチュラルにミカのなかで費用が3万円になってしまった。
というかミカ…いつの間に日本円の価値を理解したんだろう?
「ならねぇ…ん~と……。箱〇本体と」
アレとコレとソレとホレ。という具合に、次から次へとソフトのタイトルがミカの口から出てくる。
「ちょ、ちょっと待って」
僕は電話をしている振りをしながら、ミカの欲しいと言ったタイトルを美形店員に伝えた。
「ふんふん、なるほどなるほど。メージャーからマイナーな渋いタイトルまで。ナイスなチョイスっスね」
チラリと見たら、美形店員の口角が嬉し気に持ち上がっていた。マニアでも納得の選択だったらしい。
「けど、それだと2万だと足りないッスね」
ならこれを。とは口に出すことなく、僕はポケットからもう1枚諭吉様を取り出して、残念美形に差し出した。
「これならいけるッスよ。ンじゃ、ソフト用意してくるんで」
残念美形が奥に引っ込んで行く。
倉庫からゲームを取りにでも行ったんじゃないだろうか。
棚に並んでいるのは、どうやら外箱というかケースだけのようなのだ。万引き防止なのだろう。
「それにしても、よく箱〇とかソフトのこと知ってたね?」
しかも中古の相場までも、残念美形との遣り取りを鑑みるに、ピッタリだったようだし。
「そりゃー今、調べたからネ。稲塚からもらったこのゲーム機ね、ネットにもつながるんヨ?」
ん? と疑問に思う。
「蛯名さんの家って、Wi-Fi飛んでないよね? というか、今、調べたにしては情報量が多過ぎやしませんか?」
チッチッチッ、と向こうでミカが舌を鳴らすのが聞こえた。
「コウヘイ? ワタシはね、超常の存在なンよ? そんなん余裕なのだ」
他人が聞いたのなら鼻で笑ってしまうような、しかし間違いなく正論。
大したもんだ。凄すぎて、そうとしか思えない。
カラクリを詳しく調べて解明したのなら、技術的な革新が起きるだろう。
それからしばらくして、僕は遂に仕事を成し遂げた。箱〇とかいうゲーム機と何十本というソフトを受け取ったのだ。あと、メンバーカードとかいうのも貰ってしまった。
「っりがとうざした」
美形店員に背を向けたところで、さっさと荷物はアイテムボックスに収納してしまう。
これで帰りも身体能力向上の魔法を使って走って帰ることができる。
自動ドアを開けて、店の外に。
時刻が昼時だからか、来る時よりも駅前には人が増えている。
スキルのマップを再展開させて、足元だけを見て歩く。
気分は修験者だ。
黙々と歩く。
すると「きゃーーー」悲鳴が聴こえた。
それでも僕は顔を上げなかった。足早に歩く。
はやく家に帰りたかったのだ。
精神的に限界だった。一刻もはやく、誰もいない場所で、1人になりたかった。
気のせいか、悲鳴を上げる人数が多くなってる気がする。
どんどんと近づいてきている気がする。
それに。
マップにある青赤のドット表示が、慌てふためいたように乱れていた。まるでシャーレの培養菌のなかに抗生剤を落としたみたいに。忙しなく点滅する青いドットを中心にして、他のドットが離れていく。
そうして、その点滅するドットは僕へと真っ直ぐに近づいて来ていた。
ノロノロと顔を上げる。
目の前に。ほんとうに目の前に、男がいた。
焦点を失った目。
げっそりと面窶れした顔。
口の端からはヨダレを垂らして。
痙攣するみたいに頭が左右に揺れている。
異常者。
だけど、僕はそいつに見覚えがあった。
ああ…! と思い出す。
何時か、僕が股間を潰した犯罪者だ。
余りにも変貌していて分からなかった。男は10も20も年齢を食ったように見えたのだ。
男が、握っていた拳銃…USSRマカロフ、だったか? ソイツを僕の腹に突きつける。
それでも僕は、立ち尽くしていた。
この男が本当の脅威ではないと、御使いとしての本能が訴えていた。
排除すべきは、他に居る。
マップには点滅するドットが2つあった。
そう、2つだ。
ひとつは、目の前の拳銃男。
そして、もうひとつは建物の陰に居る。
バン! と爆竹を鳴らすような音がした。
腹に殴られたような衝撃があって、僕は路上に倒れた。
それが良かった。
僕は見つけた。
USSRマカロフの本当の持ち主を。
男を操っている、本当の敵を。
排除すべき存在を。
スマフォや携帯を僕のほうに向けてカシャカシャと撮影する群衆の隙間から、発見した。
たぶん。僕を殺れたか確認のために顔を覗かせたのだろう。
あの魔術師。オオシゲだった。
笑っている。笑顔で、倒れた僕を見ている。
あいつは殺さなければならない。
自然と思えた。
そうしないと、確実にミカに手をだす。
手をだしたところで、ミカをどうにか出来るはずもないけれど。そもそもミカに手出しをしようとすること、思い立つこと、それ自体が冒涜なのだ。
バン! 2発目の銃弾が僕を穿つ。
痛みに息をつめながら、僕は『敵』を殺すために魔法を発動させた。
「電子レンジ」
『敵』が慄いたように僕を見る。
どうにも体内の魔力が抜けているような感覚がある。おそらく、弾丸に細工がしてあったのではないだろうか。
だが、そんな小細工は意味がない。
なんせ僕のMPはムゲンなのだ。海水をコップで汲み上げるほどの効果もない。
『敵』の顔が真っ赤になる。茹だったように赤くなる。
バン! と拳銃の発砲音よりも大きな音をさせて弾けた。
きゃああああ! 悲鳴があがる。
その悲鳴に、危機意識なく撮影していた連中でも驚いたのだろう、カシャカシャという煩わしい音が止まる。
ふふ、と僕は笑ってしまった。
呑気な連中だ。危険は自分にだけは及ばないと思っているような連中。
だけど、そんな根拠のない安心はもう直ぐなくなる。
何故なら、ミカが居るから。
良い、悪い、に関わらず。
緊張を孕んだ日々になるだろう。
その端緒が、今の、この出来事なのだ。
僕ができるのは、ミカの気まぐれで地球や国家が破壊されるのを防ぐだけ。
それが精いっぱいだ。
遠くからパトカーのサイレンの音がする。
もはやヒールは間に合わない。
MPはあっても、体力がもたなかった。
魔法を唱えようにも、喉がもう動かない。
バン! 3発目が僕の心臓を破壊した。
薄れてゆく意識の中、僕が見たのは。
遅れ馳せて来た警官に撃ち殺される男の姿だった。
晴れて? コウヘイが死んだので、ようやく異世界へ戻ります。
というか、19話の前半のおたく店員って必要? そう思われるかもしれません。
予定があるのです。
このおたく店員さんには、コウヘイの親友枠? みたいになって、将来的には魔道具の作成とかをしてもらいたいのです。
まぁ、だいぶん先のお話になりますけど。
ネタバレ、ってやつです。
それと。番外で魔術師殿ことオオシゲのお話を本日投稿しておきます。
17話から19話にかけてノホホンとしていたので、軽くバイオレンスなのを…。




