18:ゲームを買いだしに行くことに、そんで身体能力向上の魔法を成功させたオッサン・・・は香の学校で七不思議になる
いつものように主夫として洗濯物を干していた僕に、ミカが珍しく話しかけてきた。
「ねぇねぇ、コウヘイ。ゲームのソフト買ってきてヨ」と。
ピーピコピコピコ、ゲームをしながら顔も上げずに、である。
「ソフトなら稲塚にいっぱい貰ったろ?」
京都にある有名メーカーがだした最新型の携帯ゲーム機と、もろもろのソフトを10個ぐらいお布施としてもらっているはずだ。
ゲーム機だけでも3万円超はするはずで、ソフトも含めたら10万円を越えているだろう。
それでも、洗脳を解除された稲塚にとっては安いもののはず。それに神に対する心象をよくしておくのは悪いことじゃない。
もっとも、神本人は何も感じてないみたいだけど…。
山のように積まれた10本のソフト。暇がある学生だろうと、半年は遊べるだろう。
なのに
「今やってるのをクリアしたら、コンプだよ」
廃神は言ってのけた。たった20日ほどで全部終わらせてしまうとは。
「あのね、ミカ。ゲームを好きなのは分かるけど、ちょっと嵌まり過ぎじゃないか?」
「う~ん……そう、かも?」
「いやいや、絶対にそうだって」
ここぞとばかりに僕は力説した。実際、ミカはゲームをし過ぎだ。他の人は触らぬ神に祟りなしとばかりに注意しないし、僕も料理やゴミ集めに夢中になって、ミカを放っておいたことに罪悪感が湧いていたところだった。
「世界はこんなに広いし綺麗なんだよ、たまには散歩したりさ。なんだったらお弁当をもってピクニックにでも行こう」
「コウヘイはさ、ワタシがゲームするのが嫌なん?」
「嫌、て言うかさ。現実のほうが面白いだろ?」
「ん~」とミカはココでようやく顔を上げて、顎に指を添えて首を傾げた。
「そっかなぁ? でも、現実世界だと宇宙人が侵略にきたりサ、世界中で核戦争したりサ、そういうのってないじゃン?」
「いやいや、あったら困るから、大変なことになるから!」
「あ! それ知ってる! 突っ込みでしょ、突っ込み!」
ミカは嬉し気に指摘する。
なんだろう。凄い恥ずかしい。
「要するに? コウヘイはワタシがゲームをするのが嫌。ワタシはゲームみたいな刺激が欲しい。ッてことはぁ?」
パン! とミカが閃いたといわんばかりに両手を合わせた。
「現実世界をゲームみたいにしちゃえばいいんだ!」
なんですか、その発想は!
「そっか、そっか! そのほうが面白いかも! 宇宙人みたいなの創って侵略させちゃおっかなぁ? あ、でも今のワタシの支配権だとそこまで沢山つくれないッか…。なら、どっしよっかな~」
ワクワクとミカが不穏なことを口走っている。
これは藪から蛇どころか、ヤマタノオロチ……果てはヨルムンガンドを呼び出してしまったかも知れない!
世界が破滅する! 冗談抜きで!
「た、タンマ! ゲームソフトを買ってくるから、そーいうのはナシで!」
「え~!」
《 神は不満そうだ 》
妄想なのか、コマンドめいた表示が見える。
やばい! 何とか興味を持たせないと!
「世の中には、まだまだ面白いゲームが一杯あるから!」
「マジで!」
《 神は興味を持ったようだ 》
いいぞいいぞ!
まさしくココが世界の運命の分かれ目。
「マジマジ」
なんて大人気ない言葉遣いでノリよく煽る。
「マジか! じゃあ、コウヘイ、買ってきて! 今すぐゴー!」
「任せとけ!」
と答えた時だった。
ファイナルなRPGがドット表現されていた頃のレベルアップのBGMが聴こえてきた。
《 神はミッションを成功せた! 》
コマンドの表示する文字にホッとする。
「は・や・く! は・や・く! コウヘイ、買ってきて!」
ミカが歌うように節をつけて催促して
《 い~ぱい買ってきてね、ハート 》
というコマンドが見えたことで、これがミカの見せていたモノだと気付いた。
ニンマリとミカが微笑む。
「コウヘイは、もうちょーと感情に訴える魔法への耐性をつけたほうがいいよン」
やられた! してみるとコマンド表示にみえていたのはミカの魔法だったわけか…。
「あ~んな分ッかりやすい魔法に引っかかるなんてさ、使う分には天才なのにね。けど、その落差がかぁわいいんだゾ!」
ミカが僕の頭を撫でようとして背伸びをする。
ナデナデは恥ずかしいので勘弁してください…。
てな具合で、ミカの魔法にしてやられた感はあるものの、僕は世界の平和を守るために、ゲーム・ソフトを求めて街へと繰り出すことになってしまった。
対人恐怖症の僕が…街へ。
蛯名家から最寄りの町までは車で20分ほどかかる。
香が通っている学校はその町にあって、小中が一緒くたになった校舎で全校生徒数は15人らしい…。
まさしく過疎である。
そんな町にある店といえば個人商店が1つあるだけと聞いている。
もちろん、ゲームを売ってるはずもない。あるとしたら屋外にメタルスラッグの筐体ぐらいだろう。
だから、ゲーム・ソフトを買い求めるのならば、町からさらに車で20分ほど行った街にまで足を延ばさないとならない。
車が時速50キロだとして、街まではおおよそ33キロほどの道のりだろうか?
歩きで1時間に5キロメートルを歩けると仮定するのなら、7時間はかかる計算になる。
片道で7時間。帰りも入れたら14時間。
無理じゃないか?
瑞樹さんや稲塚に連絡して車を回してもらうか…。
しかし、だ。
僕は電話越しであろうとまともに喋れない。
ライン? メール? この家にパソコンやスマートフォンはない!
さて、どうする?
また、ペガみたいな乗り物代わりになる生物を創りだすか?
けど、それは何だかペガに失礼な気がする。ペガは僕を乗せるのを泣く泣く諦めて、出稼ぎをしているのだ。そんなペガを差し置いて、新しい足代わりを生みだすというのは、ペガに対する裏切りな気がする。
だったら、どーする?
「は・や・く! は・や・く!」
というミカの催促を右から左に聞き流しながら、僕は決断した。
今こそ、身体能力向上の魔法を使おうと。
身体能力向上。そのままの意味だ。筋力をUPさせることで、力も強くなって足も速くなる。
まさしく夢のような魔法。
けれども、夢は夢。身体能力向上の魔法には大きな落とし穴があった。
かつて、僕は1回だけ身体能力向上の魔法を自分にかけたことがあるのだ。
魔術師殿ことオオシゲ達にボッコボコにされたあとに、これではいけないと思い立って、喧嘩に負けないよう身体能力向上の魔法を使ったのだ。
結果は……地獄だった。
某休みがちな作家の描いた漫画に登場した中期の悪役みたいに体中の筋肉が膨れ上がった僕は、歩いただけでアキレス腱が切れるわ、痛みに蹲った拍子に膝が割れて、背骨が折れた。
あの時はヒールで急場を凌いだけれど、身体能力向上の魔法の効果が消えるまで…1時間のあいだ無間地獄かと思うような苦しみを味わった。
もしも事前に1時間という制限時間を設けていなかったら、悶死していただろう。
つまり、だ。強化した筋力に、骨や腱といった他の組織が追っつかなかったのだ。
だから、今度は筋肉だけじゃなく、骨も腱も、心臓や肺だって強化する必要がある。たぶん、血管も。
イメージする。イメージする。
難しいけど、イメージする。
「身体能力向上」
唱えた僕の体は、前回みたいに肥大化はしてない。
強化の度合いは20パーセントほど。
いけるかな?
僕は恐る恐る1歩を踏み出した。
…痛くない。
「成功だ…」
まさしく感無量である。
パチパチパチ! と前回の身体能力向上の失敗中に僕が血まみれの満身創痍で苦しんでいる様子を大笑いしながら見守って? いたミカが拍手をしてくれる。
「じゃ、行ってくるよ」
「行ってらっさーい」
僕は駆けた。体が軽い。
走る速度はクロスバイクほどだろうか? 時速にして20キロほど。
これなら昼過ぎには街に着くはずだ。
というか!
「走るって気持ちいいい!」
僕は両腕を広げて、風を受けながら走った。
こんなに爽快な気分は、記憶がないから定かじゃないけど、何十年ぶりといった感じだった。
ペガには悪いが、空中はちょっとばかり怖いのだ。
,,,,,,,,,,その日。その時。
蛯名香,,,,,,,,,,,,,,
あたしは体育の授業で学校の周りを長距離走していた。
他にも同級生が2人と、下の学年の1年生が1人、一緒に走っている。
3人とも女子だ。小学生のほうには男子が7人いるけれど、中学生のほうにはいない。
あたし達は仲良しだった。
なんせ小学生の時分から同じ教室で過ごしているのだ。
喧嘩をしたことはあっても、数日もしたら仲直りをするのが常だった。
だった。
そう、過去形だ。
前に借金取りに学校の前で待ち伏せをされてから、距離を置くようになった。
友達から避けられたわけじゃない。
あの娘たちは、そんなに薄情じゃないから。
逃げたのはあたしだ。
友達…親友たちから折につけて向けられる同情めいた視線がたまらなく厭わしかったのだ。
「あたしに関わらないで!」
最後に喧嘩別れした時のことが思い出されて、後悔してしまう。
もう借金はなくなった。…んだと思う。
難しいことは分からないけど、あのミカとかいうゲームばかりしている神様と、おどおどして頼りなさげなのに頼りになるコウヘイさんが、どうにかしてくれたと母さんと智ちゃんから聞かされている。
だから仲直りしても問題なくなったんだけど…。
ごめんなさい、そんな簡単な…前は何の気負いもなく言えた言葉が口から出なかった。
3人は前のほうでお喋りしながら、ゆっくりと走っている。
と、そんな3人が突然に立ち止まって、地平線の向こうまで広がっている向日葵畑のほうに注目していた。
あたしも足を止めて、3人が見ているほうに目をやる。
背の高い向日葵畑のなかにある道を、遠く向こうから何かが遣って来ていた。
ちょうどあたし達は坂の上のほうに居るから、それが見えた。
最初は野犬が得物を追いかけて駆けているのかと思った。
それほど、それは速く移動しているように見えたのだ。
けれど、近づくうちに違うと分かった。
「コウヘイ…さん?」
やほーい! という聞き間違えなくコウヘイさんの声が聞こえた。ピョコンとジャンプしては空中を何十メートルと跳んでいる。
すんごい楽しそうだ。
子供みたいにはしゃいでいる。
ピョコンピョコン、飛び跳ねて、コウヘイさんはあたし達の前を横切って、街の方向へと消えていった。
「なにやってるんだか…」
呆れながらも、あたしは笑ってしまった。
見たこともなくはしゃいでいるコウヘイさんが面白くて仕方がなかったのだ。
神様とコウヘイさん。
あの2人? の傍に居たら、絶対に楽しいことが起こるに違いない。
「今の見た?」
興奮した3人が戻ってきて、あたしに声をかけてきた。
「見た見た!」
あたしはドキドキしながら、3人のテンションに合わせてうなずいた。
「あれって、人間だったよね?」
「おっさん、だったよ」
「妖怪とか?」
妖怪! 神様の御使いのはずなのに、酷い言われようだ。
あたしは「ぷッ」と吹きだしてしまった。
「ちょっとぉ。なに笑ってんのよ?」
「別に、たださ…ただ」
ごめんね! と、あたしは3人に頭を下げた。
「香」
呼ばれて、頭を上げる。
すると、親友たちが抱き着いてきた。
「やっと、仲直りできた…」
「寂しかったんだからね!」
「こっちこそ、ごめん」
ふえーん。誰からともなく泣き出して、あたしたちはしばらく抱き合って泣いていた。
それから、あたしは借金の心配がなくなったのを3人に伝えた。
3人は、これにも泣いて喜んでくれた。
コウヘイさんと神様のことは……内緒にしておいた。
教えたら、きっと3人は会いたいと言うに違いない。
けど、そうすると神様はともかくとして対人恐怖症のコウヘイさんはガクガクと震えちゃうと思うのだ。
それは可哀想だった。
もっとも、とあたしは思う。
そんな遠いうちじゃなく、神様もコウヘイさんも存在は広まってしまうと思う。
だって、あんなにも無防備なんだもの。
こうして、あたしは親友と仲直りをした。
で、教室に戻って驚いたことには、コウヘイさんの姿を小学生たちも教室から見ていたことだった。
この日から、学校の七不思議として『向日葵畑で疾走するおっさん』が加わることになる。
秘密を知っているのは、あたしだけだ。
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