17:専業主夫として生活を満喫しつつ、そんでアイテムボックスにゴミを収集するオッサン
「ここに住めばいいじゃん?」
そう香は言った。
「村社会って言葉知ってる? ハッキリ言うけどね、村って余所者を嫌うから、いきなり訪ねたって住まわせてなんてくれないよ。だからって町まで行ったところで、そもそもコウヘイさんって」
お金。と香は親指と人差し指で輪っかをつくる。
「ないんでしょ?」
「は、はい。ありません…」
震える声で返事する。我がことながら情けないけど、これだけ答えるので精いっぱいだ。相手が14歳の女の子だろうと、怖いものは怖い!
「こぉら!」
と、香の母親……瑞樹さんが娘の後頭部をパシーン! と引っぱたく。
「ぃたぁ…」と香は頭をおさえるけど、瑞樹さんは気にした素振りもない。
「すみません、この馬鹿娘が口幅ったいことを言いまして。ですが、香の言う通りで、村はもちろん、町だって余所者には冷たいですよ? ですから、どうぞ遠慮なんてなさらずに、どうぞ家に住んでくださいな。部屋なら掃いて捨てるほどありますし」
おほほほほ、と自虐を笑い飛ばす瑞樹さんは、まさしく肝っ玉母さんといった感じの人だ。
実際、アルバム写真でみた瑞樹さんは体格も……ふくよかで、まさしく肝っ玉母さんといった見た目だった。
それが、どうだろう。
今の瑞樹さんは、外見だけなら儚げな雰囲気すらある。なんせ長期間入院して、生死をさまよっていたほどなのだ。しかも外見は19歳の智花がいるとは思えないほどに若々しい。
下手すると、3姉妹にすら見えるからなぁ。
「で…も。そんなの、申し訳ないというか」
「ええ? 今更そんなこと言う? だって母さんが退院するまでココに住んでたくせにさぁ?」
恐縮しきりです。実は、もう1週間も蛯名家に居候しているのだ。
しかも食費も何も出してません。せめてしているのは草むしりとペガの世話ぐらいだ。
そのペガだって、今さっき、瑞樹さんと入れ替わるように厩舎に連れて行かれてしまった。
「こぉら!」
と本日2度目。瑞樹さんが娘の頭をスパーン! とはたく。
「それはむしろ私たちが感謝することでしょうに。家に香しか居ないだなんて、母さん心配だったんだからね。その点でもコウヘイさんには感謝してます」
瑞樹さんが頭を下げる。
「い、いや、そにょ…。気にしないで…くだしゃい」
智花が騎手として街へ戻ることとなって、この広い蛯名家に香は1人だったのだ。
そこで僕は防犯という名目で蛯名家に間借りしていたという経緯がある。
「本当に何から何まで」
瑞樹さんは頭を下げたままだ。
きっと借金のことを気にしてるんだろうけど。
このことはもう話し合ってる。
僕の好きでしたことなのだから、お願いだから、もう感謝とかしないでください、と。
そう話し合ってはいても、それでも納得はできてないのだろう。
そして……そして………。
正直に言おう。
僕は瑞樹さんが頭を下げるたびに、たまに申し訳なげにするたびに。
暗い喜びというか、安堵をおぼえていた。
ハッキリ言えば、僕は瑞樹という母親に苦手意識があった。
女手一つで、姉妹をまっとうに育て上げた母親。
そんな彼女が眩しかったのだ。
だから、そんな立派な女性が、僕みたいな得体の知れない男にいちいち恐縮する。
それが、どうしようもなく、心地よかった。
うん。ドブ川の汚濁にも劣ると我がことながら思う。
けど、それが僕なのだ…。
瑞樹さんはしばらく頭を下げてから、パッ! と勢いよく上げた。
「そういうわけなので、是非、家に住んでくださいな!」
「といっても、家が売れるまでの間だけだけどね」
香が茶々を入れる。ちょっとばかり無理をした笑顔で…。
蛯名家はもう牧場を廃業している。こんなに広い敷地と家をもっている理由がないのだ。
「ぼ、僕は、その……ありがたいんですけど。ミカが何と言うか…」
そう思って金髪10歳児の神を見遣れば。
彼女は蛯名家のリビングで腹這いに寝っ転がって、ゲームをしていた。
あの古いゲーム機じゃない。最新型の携帯ゲーム機だ。
これはイネヅカ改め稲塚がミカに買い与えたものだった。
ピーピコピコピコ。
ミカは廃神だ。
神だけに眠る必要がないのか、24時間連続で画面と睨めっこをしている。
それこそゲーム機を手放すのは、食事時ぐらいなもので、その食事だって「ワタシ、大気中の魔力を取り込むだけでも生きてけるし、経口摂取とか無駄なことをする必要ないんだけど?」と言っていたのを、僕が無理強いして食卓に着かせているといった具合なのだ。
うん? お風呂や歯磨きや、トイレはどうしたって?
……ミカは神様なのだ。汚れないし出さない。性格さえ除けば、理想のアイドルかもしれない。
「ミカ、どうする?」
と訊いても、携帯ゲーム機にかじりついているミカから返事はない。
パタパタと長い脚を動かしているだけだ。
…というか。香のお古のスカートを借りているから、パンツが見えてるぞ。
基本的にミカはおしゃれに興味がない。着の身着のままだったのだけど、それで香に怒られたのは僕だった。
「服が1着とか信じらんないンですけど!」
と責められたあげくに、香は自分と姉のお古の服をミカに着せるようになったのだ。ちなみに下着は流石にお古じゃないらしい。
あと興味ないかもだけど、僕の着ている服は元従業員が残していったものを拝借している。だから結構、若作りな服装になってしまっている。
僕はミカの乱れたスカートの裾を直してやってから、もう1度訊いた。
「瑞樹さんと香ちゃんが、ココに住んでもいいって。僕は了解したいんだけど、ミカはどう?」
「いいんじゃない?」
ミカは今、RPGのレベル上げの真っ最中だ。なにやらこだわりがあるのか、ミカはRPGで操作しているキャラクターのレベルを最大まで上げたがるのだ。
きっと僕の言ったことなて右から左に素通りだろう。
それでも言質はとった。
僕は蛯名家の2人を振り向いた。もちろん、恐いから視線は逸らしてるけど。
「そういうことなんで。…お願いします」
・
・
・
・
というようなワケで、僕とミカは本格的に蛯名家に居候することになった。
住居は母屋と呼ばれている、瑞樹さんと香ちゃんが暮らしている家の1階。
僕としては、かつて従業員が住んでいた寮があるので、そっちでもよかったんだけど
「あっちは散らかってますから」
ということで、母屋住まいとなった。
正直に言えば。ミカ以外の他人と顔を会わせて暮らすのはキツイんだけど。そんな我儘が言えるはずもない。
せめてゲームに夢中になっているミカが「ハーレム!」とか騒がないのが救いだった。
さて。
僕の1日といえば、朝食づくりから始まる。
居候なのだから、これぐらいはしないといけない。
簡単な料理。目玉焼きやらスクランブルエッグやら、フレンチトーストやら、おひたし、手作りのジャム、焼き魚、みそ汁、コーンスープ、ポタージュスープ、地元産のチーズとトマトを使った手作りのピザ・トースト、生地からこねて焼き上げたロールパン……。
「コウヘイさん、だんだん料理が凝ったものになってるんだけど?」
「喜んで食べてくれるのが嬉しくて」
という言葉が言えたらいいのだけど、満足に口が回らないので、ただコクリと頷くアラフォーおっさんの僕である。
そうなのだ。手料理を食べてくれるのが、僕は嬉しくてしょうがなかった。
香は好き嫌いがないのか、何でも美味しいと食べてくれる。
牧場を取り仕切っていたくせして低血圧で朝が苦手という瑞樹さんも、寝ぼけた顔で嬉しそうに食べてくれる。
ミカも……。
「コウヘイ? 玉子焼きは甘めがいいってワタシ言ったよね? それとご飯。固すぎるんですけど? あと、このジュース既製品じゃないのよ。言ったでしょ? ワタシは朝絞ったフレッシュなジュースが飲みたいって! 今日はいいけど、明日も手を抜くようだったら酷いんだからね! んで、ジュースお代わりね」
なんだかんだ文句を言いながらも完食してくれる。
は~~~~~幸せだぁ。
断言できる! 僕は今、充実してる!
そうして食事が終われば、瑞樹さんと香は町へと軽トラで出発だ。
香は学校。瑞樹さんは極道親分の稲塚の屋敷で働いている。
聞いた話によると、稲塚には14歳になる香と同い年の孫がいて、病気療養のためにお爺さまの屋敷で静養しているのだとか。その孫の世話を任されているのが、瑞樹さんというわけだ。
なんでも瑞樹さんは牧場の跡取りだった旦那さんと結婚する前は看護士さんだったそうで
「北海道にバイクでツーリングに来て、パパと知り合ったんだよね~」
なんて話を香から聞かされている。
つまり、信頼でき、かつ病弱な孫の世話を任せられる人材を探していた稲塚。
早急に仕事を探していた瑞樹さん。
共に渡りに船だったということだ
古びた軽トラの荷台にはママチャリが1台。これは香が帰るときに使う足だ。
「「 行ってきま――す! 」」
と出て行った家主を見送った僕が食卓を振り向けば「ん!」とミカが椅子に座ったまま万歳の要領で両手をあげている。
僕はそんなミカの両脇をもって、リビングにあるミカお気に入りのソファまで運ぶ。
「自分で動こうとは思わないんですかねぇ?」
「ち~とも」
なんて会話をしてから洗い物をすませて、と。次いで洗濯物をかたづける。もちろん、下着類は別だぞ。
と…………グィーン、グィーンと回転する洗濯槽をぼんやり見ていて、僕はハタと思った。
あれ? これってヒモじゃないか?
思ってしまった…。
い、いや違うから!
主夫! そう、主夫だから!
そ、それに? まだ他にも仕事してるし!
僕は自分自身のおっさんとしての自尊心に言い訳しながら、洗濯物を干した後で、牧場にある厩舎に足を向けた。
かつて何頭もの馬がつながれていたであろう厩舎に生き物はいない。ただただガランとしている。前はもっと乱雑に散らかっていた。僕が片付けたのだ。
厩舎の片隅にうずたかく積まれていた藁束。壁に立てかけられていたフォーク(フォークというのは、そのまま食器のフォークを大きくした農具。藁なんかを掬い上げるのに使うんだよ)。転がっていたバケツや、馬のブラシ。そういった代物は、今や僕のアイテムボックスの中だ。
「ここは粗方、終わったな」
僕が次に向かったのは、従業員が住み込んでいた寮だ。
「う~ん、廃墟」
人が住まなくなって3年ほどだというけど、たった数年なのに見事な廃墟になっている。
窓ガラスは強風で運ばれた枝で割れているし、そこから動物が入り込んだのか、中も泥だらけだ。
さすがに田舎なので、人が忍び込んだり、ホームレスが居ついたりはしてないみたいだけど。
僕は瑞樹さんから預かった鍵を使って玄関からなかへと入った。
傘立て、それに傘。三和土に転がっている、たくさんの靴。スリッパ。絨毯。目につく物から片っ端にアイテムボックスに収納していく。
そのたびに空中にフォルダ・アイコンが増えていく。
助かったのは、自動的にフォルダ名が決まって、整理もされることだ。
寮のリビングに捨てられていた漫画雑誌をアイテムボックスに放り込めば『蛯名牧場』の中の『寮』アイコンの、更に中に『漫画雑誌』と出来上がってくれるのだ。
これらは、正真正銘のゴミだ。
それでも粗大ゴミに出したり業者を呼んだりしたのなら、馬鹿にならないお金を取られることになる。
言っては悪いけど、今の蛯名家にそんな余裕はない。
ということで、瑞樹さんに許可をもらって、僕がちまちまとゴミ収集をしているのだ。
寮の1階は他に大浴場と洗濯場、それに布団部屋と保健室みたいな場所があった。
大浴場では、脱衣カゴからタオルから、鏡から、果てはチビた石鹸すらも収納。
洗濯場では、4台の2槽式洗濯機と1台の乾燥機、それに洗剤を収納。
布団部屋では、もちろん布団を。
保健室では、何故か残っていた医療品をナイナイする。
そうこうしていると
「コウヘイさーーん!」
と香が呼ばわっているのが聞こえた。
香が帰宅しているということは、もう15時ぐらいにはなっているんだろう。
ミカは昼食を摂らないし、のんびりしていると、ついつい時間が経ってしまう。
「おやつの時間か」
トウモロコシでも茹でるか。まさしく産地直送のモロコシは、頬が落ちるほどに甘いのだ。
「おいしい!」
香はトウモロコシにかぶりついて言った。
一方でミカはといえば、僕がコーンカッターでこそいだトウモロコシの粒粒をお皿からスプーンで掬って食べている。
お嬢様っぽい。
ただし、だ。行儀は非常に悪い。なんといっても、ゲームをやりながら食べているのだから。念力みたいなものなのだろう、ゲーム機を空中に浮かせて、手で触れることなく操作までしている。
「ミカはどうだい?」
「手抜き」
「…申し訳ない」
もっとも、さほど文句がないということは味に関していえば問題ないということでもある。
不味かったり気に入らなかったりすると、ハッキリと言うからな、ミカは。
僕はトウモロコシを食べずにお茶だけだ。
何故か? このあいだトウモロコシを食べて分かったのだけど、歯と歯の間に食べかすが挟まってしまうのだ。
年齢のせいで、すきっ歯になってるんだと思う…。
だからといって、ミカみたいにスプーンでと思うほどトウモロコシを食べたいとも思わないし。
だから、お茶だけだ。
「ただ茹でてるだけなのに、なんでこんなに美味しいかな?」
香は首をひねっている。
素材が新鮮だからじゃないですかね?
そう思っていると
「智ちゃんや母さんが茹でるよりも、断然、美味しいんだよなぁ」
なんて嬉しいことを言ってくれた。
「香ちゃんは部活動してないのかい?」
持ち上げられて気分が良くなっていたのだろう。普段は絶対に僕から喋りかけないけど、ついこんなことを吃りながら訊いた。
前から不思議だったのだ。
こんなおっさんと不愛想な神しかいない家に、学校が終わるなり直帰するなんて、どうしてだろう? と。
「訊いちゃう?」と香は困ったように笑ってから
「ほら、さ。ああいう人達がまとわりついてたから、部活どころじゃなくなってさ」
ああいう人達、てのは借金取りの事だろう。おそらく、学校まで脅しに行っていたのに違いない。
子供に対する脅しめいた行動は禁止されているはずだけど、なんといっても親分である稲塚が操られていたし、魔術師殿もやりたい放題にしていたみたいだからなぁ。
香としては、それはもう部活どころじゃないだろう。
むしろ、クラス……学校でも腫物扱いなんじゃないだろうか?
だから学校が終わると、寄り道することなく家に帰って来ていたのか…。
「ご、めん」
「気にしなくていいよ」
あはは、と香は瑞樹さんに似た笑い方で笑い飛ばす。
「ん!」
とミカが両腕を万歳させた。
食べ終わったから、ソファまで運べという合図だ。
「香ちゃんの前で恥ずかしくないんですかねぇ?」
「ち~とも」
なんて朝と同じようなことを会話しながら、ソファへと寝かせる。
「コウヘイさん、コウヘイさん」
呼ばれて振り向けば、香が誰かさんと同じように万歳をしていた。
いやいや、無理だから! という意味を込めて両手をブンブンと振る。
香は細身だ。持ち上げることだって運ぶことだってできるだろう。けど、そもそもの話、触れることができない。
「ちぇ~」
下唇を突き出した香は、今度はテーブルのうえに数学の教科書を広げ始めた。
「では、お願いします。せんせ」
おどけた調子で香が言う。
……試練のはじまりだ。
僕は、食事の準備をするまでの2時間ほど。香の家庭教師をしているのだ。
切っ掛けは、出来心で香が宿題で詰まっているのを手伝ってからだった。
手伝うといっても、教えたわけじゃない。香がトイレにいっている間に、ちょちょいと詰まっている問題を回答するヒントをノートに書いただけだった。
なんせ中学生の勉強だ。記憶はなくとも知識はあったみたいで、まぁ、分かってしまった。
そのヒントが香の琴線に触れたらしい。
彼女のその時の言葉をそのまま書いてしまえば。
「なに?! コウヘイさんってばプーのくせして、あッたま良かったんだ!」
とのことで、瑞樹さんに謝られて懇願されたうえにも
「あたしと話して、対人恐怖症を少しずつ治していこうよ」
と香に提案されて今に至っている。
とはいえ、言ってしまえば恐怖症は克服できそうにない。なんせ、香とは対話してないのだ。
「せんせ、これ」
と香が詰まった問題の書かれたノートを僕の前にすべらす。
それに目を通した僕が回答へのヒントと関連する問題を書いて返すぐらいなのだから。
それでも異常なまでに緊張する。人間と1対1であるという状況に、ひっきりなしに脂汗がでる。僕の腰には常時ハンドタオルが吊り下げられている状態だといえば、どれほど汗をかくか分かっていただけるだろう。
これも居候としてお世話になっているからには仕事の一環だ。
そう思って辛抱するのだ。
それから食事の準備をする。今日は寮の徘徊で時間をとってしまったので、簡単なものだ。
季節の野菜をふんだんに使ったホワイト・シチューにしよう。だとすると、白米よりもパンのほうが良いな。
もちろん、パンは手作りだし、シチューもルーは使わずに小麦粉とバターからつくっていくぞ。
香や瑞樹さんは、こんな僕に
「料理が好きなんですね」とか「前はコックさんだったんじゃないの?」なんて言うけど、それは違う気がするのだ。
コックというには、最初のうちは目を覆うほどに手際が悪かった。なんせ玉子を割るたびにカラが入ってしまうような有り様だったのだから。コックなら目をつむっていたも玉子くらい割れるだろう。加えて、料理をするのが好きだったわけでもない。仕方ないからやっているうちに、面白くなったというのが正解だ。
なんというか。料理をするたびにコツのようなものが分かってくるのだ。それが面白くて仕方ない。
そうして料理が出来上がる時分に、瑞樹さんが帰宅してくる。
たまに……3日に1ペンぐらいの割合で、稲塚も一緒に軽トラに乗って来て訪なう日がある。
「瑞樹さんと、孫のことで話したくてな」
なんて言い訳を稲塚はするけど、あれは惚れてる。間違いない。
ひとつ屋根の下で暮らしている僕に、牽制めいた視線を投げてくるときがあるし。
そんなことをしないでも、可能性はないのだけど…。
瑞樹さんが僕を意識していないのは、風呂上がりに下着姿でウロウロしていることで分かる。そもそも瑞樹さんは自分が痩せて若返って魅力的になったという自覚が薄いのもあるけれど、僕を人間として認めてない節がある。
…いや、言い方が不味いな。
僕…コウヘイを神の御使いとして認めていると言ったほうが正確だろう。
そんなだから僕の善性を全面的に信頼して、女性が2人しかいない空間に僕みたいな得体の知れないのを住まわせてくれているのだ。
言い換えれば、神様の奇跡をその身に受けた彼女だからこそ、その神と、御使いたるコウヘイを疑う余地もなく信頼しているのだろう。
そして僕はといえば。
ハッキリ言って、瑞樹さんが苦手だ。
智花と香という2人の娘を女手ひとつで育て上げた上にも、互いに信頼し合っている。そんな彼女に、なんでかどうしてか引け目を感じてしまうのだ。
さて、僕のことは置いておこう。
稲塚の年齢は56歳。老いらくの恋、というにはちょっとばかり早いか。
で、そんな稲塚は神へご機嫌伺いをしてから、夕餉のテーブルを僕たちと一緒になって囲む。
「コウヘイさんの料理は美味いな。普段はあんまり食べない孫も、コウヘイさんの作った料理だけは進んで食べてくれる」
なんてことを30分ほどお喋りをしてから、孫へのお土産に僕の料理をタッパーに詰めて、呼び寄せた部下の運転する車で屋敷へと帰宅する。
とまぁ。
こんな具合に毎日を送ること、数日。
いつものように主夫として洗濯物を干していた僕に、ミカが珍しく話しかけてきた。
「ねぇねぇ、コウヘイ。ゲームのソフト買ってきてヨ」と。




