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16/50

16:借りたものは返す、これは常識。そんで生まれて24時間も経ってないペガに頼るオッサン

ひーこら、ひーこら、喘ぎながら12人の男を家のなかに連れ込んだ。


だって叩いても起きやしないんだ。

外に放置していてもよかったけど、ココは試される大地。しかも山からは吹きおろしがある。初夏とはいえ夜に地面に寝転がっていたら風邪をひいてしまうだろう。


特に親分は56歳。年齢も年齢だ。


という理由で、僕は自分にヒールをかけながら、大きな仕事を成し遂げたのだ。


「僕はやり遂げたぞ!」


蛯名家のリビングには大の男が12人も転がっている。足の踏み場もないとはこのことだ。


そしてミカは相も変わらず、我関せずでピーピコピコピコ遊んでる。


腰をトントンと叩きながら、ヒール。

僕は永遠に腰痛から解放されたわけだ。


ヒールは便利だ。痛みもとれれば、疲れもなくなる。


とはいえ眠気ばかりは晴れないわけで。


「ふわぁーー」


僕は盛大なあくびをして、ソファに寝っ転がった。


ピーピコピコピコ。


ミカの遊ぶ携帯ゲームの昔っぽい電子音を子守歌に、僕は目を閉じたのだった。

「どういうこと!」


悲鳴に近い絶叫で、僕は目を覚ました。


智花だった。

リビングの出入り口で仁王立ちをしている。俗にいう激怒というやつだ。


大声で、ぼちぼちと男たちも目を覚ます。


「ココは何処だ?」「知らない天井だ」なんて言っているのを尻目に、僕は智花に手招きされて廊下へと連れ出された。


「説明を求めます!」


「ひゃ、ひゃい」


ライオン・ハートの効果の消えた僕は、情けなくなるほどにまともに喋れなくなる。


「というか、何で家に」


というようなことをアワアワしながら訊くと、下着類を取りに戻った、とのこと。


あれほど危ないから近づくなと言ったのに。

まぁ、僕とミカがいるから安心してしまっているんだろう。


なんといっても、智花は僕のカッコイイところしか目撃してないし。


「説明を求めます!」


智花が腰に手をあてがって再度言う。


僕は頑張った。頑張って、どうにかこうにか説明した。


「え? あの人たち、コウヘイさんの友達じゃないの!? てっきり、酒盛りでもしてたのかと…」


誤解がとけたところで。ガチャリ、とドアが開けられて廊下へとイネヅカ・マサノリ親分が顔をのぞかせた。


「ちょっと、いいか?」


「は、はい!」


智花がピンと背筋を伸ばして返事する。


そりゃあね、相手は極道の親分だもの。緊張するよね。僕なんて、声さえ出ない有り様だし。


「おかしなことを訊くが、ココは何処かね? どうにも記憶があやふやでね」


「ココは蛯名ファームにある、私の家です」


「蛯名? そういえば君は、蛯名さんのとこの娘さんに……だが、こんなに大きかったかな?」


「あの、ですね。これから信じられないようなお話をしますけど、とりあえず聞いていただけますか?」


イネヅカは眉を顰めはしたものの、それでも否やとは言わなかった。


この状況が説明できる材料が一つでも欲しかったのだろう。なんせ、話しぶりからすると、ここ数年の記憶が曖昧なようなのだから。


さて。すっかり対人恐怖症を発揮している僕に代わって、智花はこれまでのことを語って聞かせた。


なかなかに上手な話しぶりだ。


一方でイネヅカは静かに驚いて動揺しているようだった。


折々、智花の話を止めて記憶を探っているみたいに考え事をしていた。


そうして、肝心かなめ。智花は、神たるミカと御使いたる僕とに言及をした。


「神、だぁ?」


イネヅカの表情が不審一色に染まる。


わかります、その気持ちは痛いほどに分かります。昨日の僕もそうでした。


と、そういえば。ミカは何処に行ったんだ?


そう思いだした時だった。


リビングから驚きの胴間声が聞こえてきた。


何だなんだ? とリビングを覗き見ると。


リビングの大きな窓の向こうの庭で、ミカが遊んでいた。

ゲームをして遊んでいた。


ただし。


携帯ゲームじゃない。いやいや、遊んでいるその物は間違いなくレトロな携帯ゲーム機なのだ。しかしながら、大きさが問題だった。


でかい、のだ。


画面のサイズだけでも100インチはあるだろう。具体的にいうと縦が1.2メートルほど、横幅が2.4メートルぐらいはある。


そんな馬鹿でかい、もはや携帯できない携帯ゲーム機でミカは遊んでいるのだ。


どうやってボタン操作をしているのかは知らないが、しっかりと画面の自機は動いている。因みに、昨日遊んでいたSTGではなくて、今度はシミュレーションRPGをプレイしているみたいだ。


ピコピコ音がしなかったので、其処に居ることに気がつかなかった。

それもそのはずで、ミカはヘッドホンを装着しているのだ。


見目可愛らしい金髪10歳児が、超巨大なレトロ携帯ゲームで遊んでいる。


これだけなら、ギリギリで常識の範疇だったかもしれない。

酔狂な人間が、大金をはたいて巨大携帯ゲーム機をつくったと考えたのなら…。


でも、ミカは宙に浮いていた。

いいや、ミカだけじゃない。巨大なゲーム機も宙に浮いていた。


浮いているだけじゃなく、ミカの気分に合わせてなんだろう、自由自在に滑るように動いているのだ。


目を疑うのも当然だった。


「神とその御使いか」


イネヅカは険しい顔をしながら眉間を揉んでいたけれど


「納得するしかなさそうだな」


そう言ったのだった。


「なんにせよ、コウヘイさんだったか? あんたには助けられたみたいだ。感謝する」


「ひぇい」


裏返った声で返事する僕に、智花が眉をハの字に下げる。しょうがないなぁ、といった感じだ。


やっぱり僕にはハーレムとか無理そうです。


「おめーら!」イネヅカがリビングにいる部下に声を放った。

「よっく聞け! 俺等はどうやら大迫おおさこの野郎に一服盛られていいように操られてたみてーだ! これから町に戻って報復の準備をする」


大迫、てのは魔導士殿ことオオシゲの偽名だとして、だ。


報復か…。極道は面子を大事にするから、そう考えるのが当然だよな。もっとも、そこのところは魔術師殿だって弁えているだろうから、とっとと姿をくらませているだろうけど。


イネヅカ組? の連中は殺る気まんまんで気勢をあげている。


僕はといえば、そんな様子にガクブルだ。


そんな彼等は、足となる車がなくなってしまったことで、智花の乗ってきた軽トラに乗り込んで町へと帰ることになった。

もちろん12人なんて大所帯は乗せられないから、6人ほどだ。彼等は町へと行って、新しい足となる車を仕入れてとんぼ返りしてくる手はずになっている。


途中で警察に捕まらないでくださいね!


「行くぞ、おめーら!」


軽トラの荷台に極道が乗り込んでいる様子は、往年のヤクザ映画のカチコミシーンみたいだった。


ところで。


話しは変わるけど、蛯名家は大金をイネヅカ組に借りている。


僕は力尽くでこれを解消させてしまう積もりだったけれど、結局のところイネヅカ達は操られていただけだった。


これでは力任せの解決案は廃棄せざるをえないわけで。


「いやいや、借金なんて帳消しだ。コウヘイさんには世話になったし、蛯名さんにも迷惑をかけたみたいだからな」


と挙動不審な僕にイネヅカは言ってくれるが、それは違うと思うのだ。


借りたものは返す。これが正しいと思うのだ。


そういうわけで、僕はひとつ提案をすることにした。


「ペガ!」


と僕が生み出したペガサスを呼ぶ。


「ヒヒーーン!」


いなないて、翼をたたんだペガが牧場のほうから駆けてきた。


その美しい姿に、蛯名家の玄関前に集まっていたイネヅカと智花を含めた連中が感嘆の声をもらす。


何度も言うけど、ペガは綺麗だ。

姿形だけでも生気に溢れた力強さがあるけど、それが駆けると、増して魅力が際立つ。


「ブュルヒーン」


ペガが僕に鼻先をこすりつけて甘えてくる。


僕はその鼻面を撫でてやりながら、ペガに訊いた。


「ペガ。君にとっては不本意かも知れないけど、有象無象を相手に競走をしてくれないか?」


「ブヒュルルン?」


「そう、レースをしてもらいたいんだ。サラブレッドといわれる生き物を相手にね」


「ビュルヒーン?」


「期間か…そうだね、ペガが嫌になるまででいいよ。無理強いはしない」


「ビュヒヒン」


OKか、ありがたい。


話しが付いたところで、僕はイネヅカ達を振り向いた。


「コウヘイさん…馬の言葉が分かるの?」


「ペ、ペギャの言うことだけにゃら…なんとにゃく」


ああ、噛み噛みだ…。


「あの、ですね…」


僕はみんなの顔を見ないように視線を逸らしながら、脂汗を掻き描き、ペガを競馬で使ってみないかと提案した。


そう。借金返済のあてとは、競馬でペガが勝った賞金だ。

実際のところ、ペガサスは速い。走ったところは今見ただけだったけど、それでも分かる。どんなサラブレッドよりも駆けたら早いだろう。なんせ生物としての格が違うのだ。姿形は酷似していても、中身が全くといっていいほどに別物だ。


そんなペガがレースをしたのなら、他の馬の追随を許さないことは確実。

1着をとりまくりだ。


チート? それよりも性質たちが悪いかもしれない。


「確かに…走りそうな体してるな」


どうやらイネヅカは乗り気のようだ。


「この馬、血統書はあんのかい?」


「な、ない、です…馬じゃないので」


ペガが翼をバサリと広げる。


男たちが息を呑んだのが分かった。智花も2度目だったけど、やっぱり驚いている。


「クク」笑い声をもらしたのはイネヅカだ。

「ククク、アハハハアハハハ! 面白れぇ、最高に面白れぇ! このペガサスを思う存分に走らせてやろうじゃねーか! 北海道の片田舎から流星の如きあらわれた馬が、競馬会を震撼させる! 最高だ! 血統書はどうとでも俺がしてみせる。絶対に走らせてみせる」


「なら! なら、騎手は私でお願いできますか!」


智花の発言で僕は気付いた。


そういえばペガは、僕とミカ以外を背中に乗せたことがない。というか…。誇り高い生き物だ。僕とミカ以外は乗せないような気がする。


そうなるとレースどころじゃないわけで…。


「ペガ? この女の子を背中に乗せて走ってくれるかい?」


僕はお伺いを立てた。


ペガが智花の前に進み出て、ジッと見る。


見定めてる。


「ブュヒュルル」


顔を上げたペガが僕に言う。


「仕方ないから、智花だけ乗せてやるって言ってます。たぶん、他の人間は乗せてくれないと思います」


僕は噛まないように早口でそれだけを言った。


それを聞いたイネヅカが智花の肩に手を置く。


「嬢ちゃん、これから猛練習をしてもらうぞ」


「望むところです!」


それからの話し合いは、智花とイネヅカとに任せた。というか、僕がいるとまともに話が進まないのだ。


申し訳ない…。


結果だけを言うと。

イネヅカは大急ぎでペガの競馬としての登録をすませて、10日以内には受け入れる厩舎きゅうしゃを整える。

智花はペガの専属騎手として能力の向上につとめる。


ということになったらしい。


これで借金はどうにか返済の目途がついたわけだ。


ホッとしていると、ペガが僕の後ろ襟を噛んで引っ張った。


「ブヒュヒュ」


別れの日が来るまで、思う存分に僕をのせたい。そうペガが言っている。


「ペガがそう言うなら」


僕はイネヅカ達に手伝ってもらいながら、ペガによじ登った。


僕を首にしがみつかせたまま、嬉しそうにペガが走る。走って、空を駆ける。


「おおおおお!」


イネヅカや智花たちの驚く声が下から聞こえる。


「ブヒュヒュン」


僕はきつく閉じていた目を、おそるおそる開けた。


空が当たり前だけど近い。雲がゆっくりとながれている。風が心地よかった。


「本当だ。ペガの言う通り、世界は綺麗だな」


「ブッヒュフ」


僕とペガは2人っきりの空のデートを楽しんだのだった。


本日は、外伝的なペガの話を同時に投稿しております。

短いですが、よろしくお願いいたします。

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