15:現実は漫画より奇なり、そんで色んなことから目を背けるオッサン
「魔術だと!」
という驚いたような小さな声が耳に届いた。
その呟きを発したのは若頭だ。
鑑定、と心のなかで唱える。
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オオシゲ ミキヤス 【職業:中位魔術師】
【職業:極道(若頭】
種族:ヒューマン
性別:♂
年齢:35
レベル: 8
HP : 25
MP : 60
こうげき:21
ぼうぎょ:13
ちから : 18
すばやさ : 15
きようさ : 50
かしこさ : 120
せいしん : 150
こううん : 10
かっこよさ: 140
スキル:拳銃 Lv 2
マジュツ:精神操作 Lv 5
アイテム:ナイフ
拳銃(USSRマカロフ)
BAD :動揺(正常な判断が出来なくなる場合がある
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なーるほどね…。
僕のステータスの値、オール10ってのが最低最悪だというのは理解できた。レベルがあがっても数値は軒並み1しか上がらないし…。
じゃない! どーいうことですか!
ミカさん! ミカさーーん!
『うッさいな! 聴こえてるから!』
なら、これ! 観えてるんだろ!
『観えてるわよ』
え、なにその淡泊な反応? だってミカはこっちの世界に魔法はないとか言ってたじゃないか!
『魔法じゃないじゃン? 魔術じゃン?』
いやいやいやいや、それって言葉遊びじゃないか?
『そんなことないよ? 魔術ってのは、魔法の下位的なものだもん。魔術が進歩に進歩を重ねて、ようやく魔法になるンだよ?』
それでも、魔法っぽいのがあるってことでしょうが?!
『ね~。実際、ワタシもちょこびっと驚いたわ。つーてもさ、ワタシだって人類の全部を総ざらいして調べたわけじゃないしさ、こういう希少種的なのがいてもおかしくないッてゆーか? 人類だって5万年ぐらいは知的に生きてるッぽいし? 魔力を持ってるのが出てきてない方が変じゃね? ッて感じ?』
ミカはひと昔前のギャルっぽく言う。
分かった。本音を言えば分かりたくないけど、こうして魔力もちが目の前に存在するんだ。目を逸らしていてもしょうがない。
『けど、そうなると反作用でモンスター的な? そういうのも存在するはずなんだけど』
あ~っ! あ~っ! 聴こえない! すんごい面倒くさそうだから聴こえない! バトル漫画みたいな生活はしたくありません!
改めて、僕は目の前のことに集中することにした。
鑑定でヤクザ連中を観たところ、オオシゲ以外には魔術師はいないようだ。
というか。
とんでもないことが分かった。
ヤクザ連中の半数近く。親分である『イネヅカ』を含めた12人が『催眠・洗脳』にかかっているのだ。
因みに、こんな感じだ。
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イネヅカ マサノリ 【職業:極道(親分】
種族:人間
性別:♂
年齢:56
状態:催眠 ~深度7
洗脳 ~深度5
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どうだろう?
ここで、僕は若頭であるオオシゲの魔術のことを思い出した。
奴の魔術は、精神操作。
親分のことを操り人形にしてるのか?
そういえば、智花が言っていた。
数年前。借金をしたときのイネヅカが仕切る極道は、まっとうな極道だったと。
まっとうな極道というと違和感がるかも知れないけど、こういった田舎には極道というか、やんちゃの受け皿のような組織が必要悪としてないとやっていけないのだ。
と智花は教えてくれた。
しかも、だ。イネヅカの極道は、銀行に代わってお金を貸してくれる、この地方にとって最後の救いみたいな感じだったとか。
まぁ、ね。日本が不況なって久しい。好景気? 戦後最長の好況? そんなのは株やらに手をだせる一部のお金持ちだけの話。下々には、とんとお零れがないのが現状だ。そうなると、銀行だって下々には…特にこんな田舎者にはお金を貸しちゃくれない。だからこそ、生活に逼迫した人はイネヅカのような人物を頼ることになったんだろう。
頼られるイネヅカだって、無体な真似はしなかった。借金の回収だって、取るものは取るけれど、債務者が最低限の生活を営めるように配慮していたらしい。
そりゃーそうだ。夜逃げなんてされたら、借金だけしか残らないんだから。少なくとも、逃げたいと思わせるような生活をさせないようにしながら、借金を返させる。それが正しいと僕も思う。
で、だ。
そんなイネヅカが変わったのは、蛯名家が借金をして半年ほど経ってからだったとか。
察するに、その頃にオオシゲが催眠と洗脳を施したんじゃないだろうか?
そして、以前からイネヅカに従っていたヤクザ者にも同じように魔術で反抗心を奪って、だんだんと自分の自由になる手下を送り込んだ。
その手下というのは、だいたいが凶状持ちだ。
さっき僕を殴りつけたりナイフで刺してきたようなのや、昼間の蛯名姉妹をかどわかそうとしたような連中だ。
どうして分かるのか、て? だって、連中には『催眠・洗脳』を施されたとステータスに表示されないから。
あれ? と僕はここで疑問に気付いた。
ミカさーーーん! と呼びかける。
『あによ! 今、良いとこなんだから邪魔しんといて!』
それは悪いことした。けど、訊きたいことがあって。
僕が前に智花にヒールしようとしたときに、ミカは魔力因子がないから効果がないと言ったよな?
『言いましたけど何か?』
けどですね。実際のところ、彼等は魔術に掛かってるんですが?
『ふーん、なら触媒でも使ったんじゃないの?』
触媒というと?
『魔力を含んだ何らかを体内に摂取させて、相手の体に魔力があるうちに魔術を使ったんでしょ? ってこと。ワタシ忙しいんだから、もう切るね』
プツリとミカの声が途切れる。
これは完全に彼我のつながりを断ったな。話しかけても、少なくとも僕の声はミカに届かないだろう。
しかし、これで僕の推理が正しいという確信は深まった。
ここで僕は考える。
魔術…つまり魔力を媒体にして精神に働きかけたのなら、同じく魔法…魔力で正常に戻せるのではないか?
「やってみるか」
イメージ……イメージ?
どんなイメージをしたらいいんだ?
怪我とか外傷なら治療するイメージができるけど、なんせ内面だ。
う~~ん、と考えた僕は、単純に相手のステータスに記載されている『催眠と洗脳』が消えるようイメージすることにした。
ま、失敗前提ということで。
僕は手の平を連中に向けた。
何が起きるのかと、すっかりビビっていたヤクザ者が後退さる。
えーー、と。ドラ〇エには混乱を治す魔法はなかったし。
ファイナルのほうには、あったような気がするけど思い出せない…。
「消えて、治れ!」
適当だ。
けど、成功だ!
魔術でおかしくなっていた12人が途端にくず折れて昏倒したのだから。
ステータスで確認すると、しっかりと『催眠と洗脳』が消えている。
昏倒したのはショックが強かったのだろう。
これで残るは、正真正銘のクズだけだ。
と思ったんだけど。そのクズどもは我先にと車に乗って、逃げて行ってしまった。
これで残るのは若頭、改めるところの魔術師殿だけだ。
「な、何をした!」
ようやく、といった具合に魔術師殿が口を開いて問うてくる。
「わかってるはずだろ?」
なんせ魔術にかかっている人間だけが倒れたのだ。
「貴様!政府の祓魔師か!」
え~~~~~! 政府って日本政府のことだよね! まさか陰で魔術師が暗闘してたりすんの? 漫画見たいじゃないか!
と、そんな動揺を押し隠しながら、僕はニヤリと笑ってみせた。
「オオシゲ・ミキヤス」
名前を呼んでやる。
それだけで、若頭は顔を蒼白にした。
「何故、真名を…!」
真名とか、いかにも中2っぽいですね。知られたら存在を支配されちゃうとか、そんな感じですか?
「見逃してやる、この土地から手を引け」
くッ! とか魔術師殿が悔しがる。
凄いな、ドラマみたいだ。
「わかった。もうココには関わらない」
「素直だな」
「真名を知られたからな…」
ほほぉ、やっぱりか。
「ついでに、さっき逃げて行った連中も何処となりと連れて行けよ」
「…わかった」
「ああ、それと。事務所にあるだろう借用書とかには手をだすなよな」
「それだけか」
「他にはないな」
「俺如きは隷属させるに及ばないってことか」
魔術師殿は苦々し気な顔をすると、ゆいいつ残っていたSUVに乗り込んだ。
え? いやいや、ちょっと待って!
僕は引き止めようとしたのだけど
ブロロン! と魔術師殿は逃げるようにSUVを駆って行ってしまった。
おいおいおいおいおいおおい!
車残ってないぞ! この倒れた連中、どうするんだよ!
僕は死屍累々といった有り様で横たわる12人の男たちを見回して、内心で頭を抱えたのだった。




