14:圧倒的な暴力をみせてやるぜ!そんで逆にフルボッコにされるオッサン
ココが気になる。
ココを直したほうが良いよ。
ココが好き。
そんな感想をお待ちしてます。
母親の病気が治った。そのことを確認するために、智花と香の姉妹は軽トラに乗って街へと向かった。
その際、病院からなるたけ出ないように言い含めておく。
何時、借金取りが姉妹を拉致しようとするか分からないからだ。病院なら人も多いし、安全とまではいえないが、少なくとも安心はできるだろう。まして田舎の病院というのは、人の命をあずかっているだけに権威がある。下手に乗り込んで荒らそうものなら、地元でつま弾きになる。それはヤクザだろうと同じことだ。
そして、ミカはといえば。
今も蛯名家のリビングにいる。
ず~~~~~と。
本当に、ず~~~~~~~と。
ミカは蛯名家で発見した携帯ゲームに夢中になっているのだ。
それは古いゲーム機だった。10年以上前。……僕が死んでから5年経っているんだったか。なら、15年以上前に発売された、僕の記憶でさえ2世代は前のレトロ枠に片足を突っ込んだような携帯ゲーム機だ。
智花と香が言っていたように、蛯名家は手元不如意だったんだろう。
大切に使っていた節がうかがえるゲーム機だった。
それを家探ししていたミカが発見して、ず~~~~~~~~~~~と遊んでいるのだ。
さて。時刻は20時になろうとしている。
周囲に民家も街灯もないから、窓の外は真っ暗だ。星はビーズをテーブルにぶちまけたみたいにでているし、お月様も顔を出してはいるけど、やはり暗いものは暗い。田舎の夜だ。
智花と香からは、しばらく前に電話があった。
集中治療室に入っていて、明日をも知れないと診断されていた彼女たちの母親は、元気になったらしい。
それこそ、体力があり余って、姉妹のまえで反復横跳びを披露したと呆れた調子ながらも笑って教えてくれた。。
「というか! 母さん、微妙に若返ってるんですけど!」
なんでも見た目が10歳ほど若返っているらしい。
ゲームをしながらミカ曰く。『そりゃーね。悪いとこをぜーーーんぶ治したんだもん。若返るでしょそりゃ』とのこと。
病院は大騒ぎになっていて、借金取りが忍び寄る余地もないみたいだ。
むしろ、母親の検査のせいで入院が1週間ほど長引くらしい。
僕はピコピコと最大音量でゲームを楽しんでいるミカを横目に、窓から外を監視していた。
ちらり、と遠くのほうで光がした。
「来たかな…?」
光が増えて、道なりにコッチへ迫ってくる。
「ライオン・ハート」
唱えて、僕は家の外へと出た。
しばらくすると、光の正体。車がジャリジャリと砂利を踏みつけて家の前で停まった。
車が5台。1台は昼間に追い払ったワンボックス。あとの3台も似たような車だったけど、残りの1台が黒塗りの大型SUVだった。
車から堅気じゃない人相の男たちが続々と降りてくる。
ひのふの、ざっと20人。最後にSUVから運転手がでてきて後部座席のドアをあけると、親分らしい50がらみの男が姿をあらわした。
連中の人相と眼差しを見てヤクザだなぁ、としみじみ思う。
同時に『ライオン・ハート』を唱えていてよかった、とも。
もっとも、僕は『ライオン・ハート』を安易に唱えるつもりはない。どうやら、あの呪文には中毒性がある感じがするのだ。高揚する感覚は、お酒に似ているだろう。毎日のように唱えていると、依存しかねない。特に僕は対人恐怖症だ。乱用したら、本当の僕を見失ってしまうだろう。
男たちが、家を背にした僕を取り巻く。
「こいつか?」
男たちの1人が、見覚えのある昼間にのしたチンピラの1人に確認をしている。
「はい、あいつです。間違いありません」
「あんた…自分が何をしたか分かってるんだろうな?」
連中のなかの若頭といった感じのが凄んでくる。
「わかっている積もりだ。昼間は遣り過ぎた、すまなかった」
「っメェ! 済まないですむと思ってんのか!」
いかにも武闘派といったのが野次る。
「思ってない。とはいえ、僕は文無しだ、医者代すら払えない」
「なら、内臓売れや!」
「冗談だろ? そもそもの話、半ば以上はそっちが悪いんだ。むしろ、こっちが慰謝料をもらいたいぐらいなもんだ」
そりゃー、借りたお金は返すのが筋だとは思うけど。遣り方がえげつなかったもの。姉妹の人権を無視して売り払おうとか、しかもミカに手をだそうとするし。
その時のことを思い返して、ちょっとばかり腹が立つ。
「やろぉ!」
ヤクザ連中の殺気が膨れ上がる。
それでも容易に手をだしてこないのは、僕が3人をあっという間に伸したと聞いているからだろう。
「もう、無駄に言い合う必要なんてないだろ」
僕は有名なカンフー映画の俳優みたいに、連中を手招きした。
「さぁ。やろうぜ」
とてもじゃないけど、ライオン・ハートが掛かってなければ口にできないセリフだ。
ヤクザ連中をぶちのめす。
それが僕の考えたシンプル・プランだ。
笑わば笑え。手もとに1円すらない中年が、ヤクザの借金をどうにかしようと考えれば『ぶちのめす』これしかないだろう。ぶちのめして、借金の証文を事務所へ押し入って破り捨てる。しかるのちに、悪事をあばいて、警察へ。
これでTHE・ENDだ。
脳筋? 確かにそうだ。けど、暴力を背景に脅してくる相手には、圧倒的な暴力でもって有無を言わさなくさせる。これが正しいのだ。
……とライオン・ハートの暗示のかかった僕は考えたのです。考えてしまったのです。
これだから、ライオン・ハートは余り使いたくないんだ。
ヤクザ連中のなかから、喧嘩っ早そうなのが3人、殴りかかってきた。
ふん、余裕で避けて……あれ? 昼間はゆっくりに見えたのに、なんで?
僕は…普通に、連中に殴られた。
「おいおい、弱いぞこいつ」
殴られる、蹴られる、容赦なく暴力を振るわれる。
あれだけ挑発したのだから、当然の結果だ。
ボキリ、と音がした。
骨が折れたらしい。やばいやばいやばい!
治さないと、どうにかしないと、殺される。
咄嗟に僕は「ヒール」と唱えた。
まさしく起死回生。窮地に陥った主人公が覚醒するみたいに、僕の回復魔法は成功してくれた。
傷が癒える。
でも、暴力は続いているわけで。
ヒール、ヒール、ヒール! 僕は悲鳴の代わりにヒールと口のなかで唱え続けた。
10分ほども経っただろうか。
ゼーハーゼーハー、息を荒げて、僕を殴る蹴るしていた連中はヘタバッテいた。
これも一応は、勝ちか?
とはいえ、何で昼間のように圧倒的な力が発揮されなかったんだろう。
『だって、ワタシを守るためじゃないし?』
頭の中にミカの呆れたような声が届く。
え?
と思う暇もなかった。
「何をやってんだお前ら!」
ズンズンと新しく4人ほどが進み出てくる。
第2ラウンドの開始だ。
それから僕は延々とリンチを受けた。30分以上も代わる代わる暴行を受けただろうか。
ここにきて、さすがに連中もおかしいと思ったようだ。
「な、何なんだ…こいつ」
化け物を見るような目で僕を見て、遠巻きにするようになった。
「いい加減、死ねや!」
恐怖したのだろう。ナイフを手にした男が、僕の胸に跳び込んできた。
腹に…肉に金属が入り込んでくる冷たい感触。
グイ、と男がナイフを捻る。
前に聞いたことがある。人を殺そうと思えば、ナイフを刺しただけじゃ駄目だって。刺した後に捻りをいれて、内臓をズタズタにしておく必要があるんだって。
ああ、コイツ。人を殺したことがあるな…。
血走った眼が、僕を睨み上げている。
けど、残念。僕は頭を潰されない限り『ヒール』を唱えて死ぬことがない。
僕はナイフを握った相手の手を、その上から握った。
ニッと笑う。笑ってやる。
ナイフ男の顔色が蒼白になる。
そりゃー怖いよね。
相手の拳を握ったまま、ナイフを体から引き抜き、僕はナイフ男の体を突き飛ばした。
たたらを踏んで、ナイフ男は尻餅をつく。
つーか……! やばいやばいやばい! 死ぬほどお腹が痛いんですけど!
「ヒール」
小声で唱えた時だった。
「魔術だと!」
という驚いたような小さな声が耳に届いた。




