11:2人の女の子が男たちに襲われている。そんで覚醒みたいな中2能力を発揮しちゃうオッサン
「ヒヒーーン」
ペガが控えめないななきを上げた。
僕が創りだした生き物だからなのか、何とはなしに言いたいことが伝わる。
あそこを見て、と言っている気がする。
僕は固くつむっていた目を、おそるおそる開けて『あそこ』を見た。
「揉め事かなぁ」
ミカにも伝わっているのか『あそこ』に注目している。
100メートルほど先の牧場で人が争っていた。
5人の男が、2人の女性をワンボックス・カーに押し込もうとしているのだ。
「テンプレじゃん?」
口調で、ミカがニンマリと笑っているのが分かった。
「ペガ、助けるわよ!」
「ヒヒーーン!」
ペガもノリノリみたいだ。
グングンと高度が下がる。
地面が急速に近づいて来る。
わああああああああああ!
限界だった。恐怖が限界突破して、僕は悲鳴をあげた。
「おれ、とっと乗れや」
男が私の手首をつかまえて引っぱる。
特異な仕事のおかげで普通の子よりも筋肉はあるとはいえ、大の男2人に敵うほどじゃない。
しかも相手は如何にも荒事になれた連中なのだ。
どんなに抵抗しても、私はズルズルと車に押し込められようとしていた。
「智ちゃん!」
他の男に羽交い絞めにされた妹が助けを求める。
「妹はまだ中学生なのよ!」
「そういうのを喜ぶのもいるから、安心しな」
ニタリと男が笑う。
「借金は返さねぇとな」
「ま、あんた等ぐらい若くて美人なら、5、6年で返せるだろうさ」
「そういうのは私だけでいいでしょ!」
「そういうわけにはいかねぇんだよ」
「へへ、あんたの妹の初物はもう予約が入ってるからな」
「ゲスが!」
「なんとでもいいな、そんな口が利けるのも今日ぐらいだろうしな」
悔しさに唇を噛む。
わああああああああ! そんな時だった。
悲鳴が聞こえた。
妹のものじゃない。男のものだ。
でも…。
聴こえる方向がおかしかった。
何故か、空から聞こえるのだ。
私は……男たちも含めて、その場に居たみんなが悲鳴の聞こえる空を見上げて……絶句した。
だって…。
だって!
空から馬が落ちてくるんだもの!
「わああああああああ!」
ぶつかるぶつかるぶつかる! 地面に激突する!
経験はないはずだけど、これってバンジージャンプみたいな感じだ。
地面が迫って……でも、ペガは墜落したりはしなかった。ふんわりと寸前でたんぽぽの綿毛のように止まったのだ。
でも、勢いはあるわけで。
僕はボトリとペガの背中から転げ落ちた。
「いてぇ~」
腰をさすりながらノソノソと起き上がる。
そこで、僕はその場に集まっていた男女から注目されていることに気がついた。
体中から力が抜ける。
『そんなだから、あんたは』
幻聴。僕をなじるのは誰だか知らない、なのに聞き覚えのある女の声。
『よぉ、親友』
気安い男の声に、動悸が酷くなる。
『あの子はね、あんたの』
聞きたくない!
息苦しくて、体中から冷たい汗がふきでる。
「ちょっとコウヘイ、百面相してないで、悪者をやっつけなさいよ!」
ミカが発破をかけてくる。
それを聞いて奮起したのは、でも僕じゃなかった。
「悪者ってのは俺らのことか?」
それまで呆然としていた如何にもヤクザヤクザした男の1人が肩を怒らせて迫って来たのだ。
恐い、恐い!
ヤクザとかそういうことじゃなしに、僕は『人間』が恐かった。
足が震えて動くことさえできない。
そんな僕を
「邪魔だ」
大柄な男は乱暴に振い除けた。
情けなくも、それだけで腰が抜けてしまう。
「おう、お嬢ちゃん。口の利き方には気をつけなよ」
「ブルルッル!」
すごむ男に、翼を仕舞ったペガが威嚇の声をあげる。
「あんだ、この馬?」
男がペガを睨む。
今のペガは翼を隠しているから、どう見ても馬にしか見えない。
ただし、ただの馬じゃない。
非常に美しい馬だ。毛並みは言うに及ばず、筋肉のつきかた、体格の押し出し、加えてバランスというか立ち姿そのものが目を見張るほどに綺麗なのだ。しかも、馬ではないからオーラというか凄みがある。
男が舌なめずりをしたのが見えた。
「ほ~、よく見りゃ良い馬じゃねーか。それにお嬢ちゃんも」
興味を引かれたのか、2人の男が遣って来る。
「いい馬じゃね?」
薄笑いを口元に頷きあう。
「それに、あれ見ろよ」
「ロシア系か?」
「そういえば、ああいうのが好みの変態もいたよな」
「ああ、いたな」
男の1人。僕を振り払った奴が、僕の脇に立った。
「よぉ、おっさん。あんたにぶつかられて、腕が折れちまったみたいだ。慰謝料として、この馬をもらうぜ。それと、金髪のお嬢ちゃんは預かっとくからな。返してほしけりゃ、そうだな…迷惑料として100万だ。街で『大迫』ていえば事務者の場所は誰でも知ってるからよ。それと警察は無駄だぜ」
言って、男が……手を伸ばす。
ミカに。
僕を生みだした神に。
有象無象が。馬の骨が。神に触れようとする!
「おい」
何処からか底冷えするような声音が聞こえた。
「ミカに触んじゃない」
僕だった。僕の声だった。
信じられないほどの怒り。
そんなものが僕の内面で吹き荒れていた。
「ああん?」
男が蹲っている僕を見下ろす。
「なんか言ったか、おっさん?」
「触るな、と言った」
言いざま、僕は男の無防備な股間に拳を見舞った。
何かが潰れた感触がする。
男が声も上げずにへたり込んだ。その尻のしたに小水が広がる。
僕はそんな男に
「鑑定」
一瞥をくれて、ゆっくりと立ち上がった。
--------------------
オオバヤシ サトル 【職業:ヤクザ】
種族:人間
性別:♂
年齢:28
犯罪者(窃盗・性犯罪・傷害・強盗)
状態:薬物中毒・陰嚢破裂
--------------------
…クズい。
それにしても情報量が少ないのは?
疑問に思っていると、頭にミカの声が届いた。
『コッチの生き物には魔力器官がないから、基本的なことしかステータスに表示されないんだよね~』
魔力器官? という聞きなれない単語については、ミカとパスが繋がっているからなのか瞬時に理解が及んだ。
魔力器官とは、そのままの意味で、魔力を肉体に内包しておくための臓器らしい。これがあるから、ムコウの生物は魔法を使えるし、およそコッチの世界では考えられない生物として異常なポテンシャルを発揮する。
「野郎!」
ヤクザ者のうちの2人が殴りかかってくる。
まるっきり水の中を動いているみたいに2人は遅い。
頭の中でミカが命令する。
「御使いとして存分に意を示しンさい!」
了解!
--------------------
オオシタ ミツル 【職業:無頼漢】
種族:人間
性別:♂
年齢:25
犯罪者(窃盗・性犯罪・傷害)
状態:性病(弱)
--------------------
--------------------
サカモギ レンジ 【職業:ヤクザ】
種族:人間
性別:♂
年齢:21
犯罪者(詐欺・性犯罪・傷害)
状態:糖尿
--------------------
殴りかかってくる男。
そんな2人のあいだを、僕はヌルリと歩いて避けて背後に回った。
振り返り、僕の姿を探している2人の首根っこを背後から掴んで、締め上げる。
「ぎぇ」
「ぐぇ」
カエルの潰れたみたいな声をもらす2人の首をつかんだまま、力任せに振り回して、ぐったりしたところで、2人の頭部をゴチンと鉢合わせしてやる。
いいや、ゴチンじゃない。ゴツン……ガツンだな。
火花が飛ぶような勢いだ。
実際、それで2人は意識を失ってしまっている。
残るのは女の子をつかまえている連中が1人ずつだ。
--------------------
スズキ ヒロタカ 【職業:チンピラ】
種族:人間
性別:♂
年齢:17
犯罪者(窃盗・傷害)
状態:健康
--------------------
--------------------
マキセ リオウ 【職業:チンピラ】
種族:人間
性別:♂
年齢:18
犯罪者(窃盗・恐喝)
状態:健康
--------------------
未成年。使い走りというところだろう。
「おい!」と僕は連中に呼びかけた。
「スズキ・ヒロタカ。マキセ・リオウ」
本名を呼ばれたチンピラが驚きの表情を浮かべる。
「その娘たちを放して、転がってる連中を回収しろ。さっさとココからいなくなれ」
「は、はい!」
キラキラネームのリオウ君が反射的にだろう返事をする。
あんがい、この子は更生できるかもしれない。
チンピラの2人は僕を気にしながらも、倒れた3人を車に回収すると、そのまま何処となりと走って行ってしまった。
車の姿が見えなくなる。




