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10:お家を探しに行こう、とミカが言った。そんで、なにやらペガサスを生みだしてしまうオッサン

ぐえええええ!


僕は今、身悶えして生まれ代わる苦しみを味わっていた。


何で死んだ!?


思い出す。


僕は昨晩、コボルト達とゴジバの焼き肉を味わったはずだ。

アイテムボックスから巨大な肉の塊となった羊猪を取り出すと、コボルト達は一瞬呆けたように声を失ってから、爆発したみたいに興奮して吠えまくった。


それからゴジバを切り分けて火で焼いた。


こけ塩をふりかけただけの肉は、でも美味しかった。


チッチなんかは泣きながら「おいひいれふ」なんて口いっぱいに頬張っていたほどだ。


他にも虫だってあるし、食後の甘いデザートキノコだってある。


コボルト達は誰もがみんな嬉しそうに笑っていた。


そして疲れていた僕は途中で退席して、テントに入ったはずなんだけど…。


そこから記憶がない。


何でだ?

こうして元の世界に生まれ変わろうとしているからには、死んだはず。


何か食材に毒があったか?


ヒヤリ、とする。鑑定を盲信していたけど、万が一にも間違いがあったとしたら。


今頃、コボルト達は全滅しているかもしれないのだ!


けれど、そんな不安は


「ああ、そこンとこは安心していいよン。コウヘイが死んだのは、毒蛇に噛まれたせいだから。ちなみに、毒蛇はワタシが招き寄せてテントに放り込んで置いたんだけどね」


ウシシシシ、と悪戯が成功した子供みたいに笑うミカに全否定された。


「なんで…そんなことを」


ようやく元の世界に生まれ変わった僕は、内臓が掻き回されているような気持の悪さを我慢しながら、ミカを睨みつけた。


「そんな怖い顔しないでよ。だって、寂しくなっちゃったンだもん」


許してちょ~、とミカがちっとも悪びれずにのたまう。


僕は盛大に溜め息をついた。


怒りたい気持ちはある。けど、相手は神様なのだ。大自然と同じで、気まぐれなのだ。


…そうとでも思わないとやっていられない。


それに、寂しかったと言われて同情してもいた。


約2日間も1人ぼっちにしてしまっていたのだ。


と思ったのだけど。


あれ?


ここで僕は内心で首を傾げた。


僕が死んだのは夜のはずだ。

なのに、黄泉帰ったコッチの世界は昼間だった。

太陽が頭のうえにある。


「もしかして、時差があるのか?」


「うん、あるよ!」


僕の思わずといった独り言にミカが元気よく答える。


彼女はベッドに座り込んだ僕の膝の上に小さなお尻を落ち着けると、僕を振り向きながら言った。


「向こうの世界の1日はねぇ、コッチの世界で…う~んと1時間ぐらいかな?」


「時差、というか。時間の流れそのものが違うのか」


「そ~いうこと」


ということは、だ。僕はコッチの世界で2時間ほど行方をくらませていたことになるのか。


僕は、僕を振り向いているミカと視線を合わせた。


「寂しかったって言ったよな?」


「言ったよ~」


あっけらかんとミカは答える。


これは責めたところで無駄だろう。


「…コボルト達は大丈夫だろうか?」


思わずといった感じで呟いてしまう。


途中で放り出してきたことになるけど、とりあえず食べるものには事欠かなくなったはずだ。狩りだって出来るようになったはずだし。


そう自分を納得させていると、ジ~、とミカが僕を見詰めていることに気がついた。


ゾッとした。

漫画の表現として、病んだ人間の瞳が黒塗りになってハイライトが消されていたりするけれど。まさに今のミカの目がそれだった。


「ワタシよりも、あいつ等のほうが気になるんだ…?」


ミカの口から不穏な調子の言葉が漏れる。


あ、ヤバイ! 感じ取ってしまった。このままだとコボルトが危険だ、と。


「な、何を言ってるんだ、ミカのほうが気になるに決まってるだろ?」


「ほんとうに?」


ミカが見詰めてくる。


僕の背中は冷や汗でびっしょりだ。


「ほんとだって」


ジー、とミカが僕の目を覗き込む。


風が止んでいた。あれほど聞こえていた鳥や虫の声も絶えている。


そうして。


ふ、と風が頬を撫でた。バタバタと森や山から鳥が飛び立って、虫の声が戻った。


ミカがニッと笑った。


「じゃあ、家を探しに行こッか?」


脈絡がないけど、神ってのはそんなもんなんだろう。


機嫌が良くなっただけでも良しとしないと。


「というか、家?」


「だって住むところは必要しょ?」


「まぁ、衣食住て言うぐらいだからなぁ」


「つーことで出ッぱーつ!」


ミカは立ち上がると、ベッドから飛び降りた。


僕もベッドから下りる。


でも待てよ。


僕はスキルの『マップ』を機能させた。


ココは北海道の山奥だ。最も近場の町…というよりも村まで何10キロと離れている。加えて道なんてない。

車。それもオフロード・カーでもないと村まで容易に辿り着けないだろう。


にこにこ笑顔のミカを見れば、やっぱり子供だ。10歳相当の女の子だ。とてもじゃないけど、村まで歩いていけそうにない。


「村まで遠いんだけど…ミカは待っててくれ」


つかな? と問うよりも早く


「やだ!」


だって。


そりゃーね。2時間で呼び戻すぐらいだし。


「けど、村まで歩くとなると日が暮れても着けそうにないんだよ」


「歩かなければいいじゃん?」


「いいじゃん、て。ココには足になる乗り物がないんだよ」


「なら、つくれば?」


「いやいや、つくるって」


鼻で笑おうと思ったんだけど


「ポイントあるじゃン? それで創ればいいんだよ、乗り物代わりの生き物を」


ミカの発言で僕は息を呑んだ。


「生き物を創る?」


「ん。ポイントあげたでしょ? 1000ポイント。それで適当な生き物を創れるから。1000もあれば、ワイバーンぐらいのモノが創れるよ? あ、その前に」


とミカはベッドを振り向くと


「えい!」


それなりに大きなベッドを蹴りつけた。

細い脚の何処に力があるのか、ベッドがアニメみたいに遥かな遠くまで吹き飛んでしまう。


そしてミカはその場でしゃがみ込むと、僕に華奢な背中をむけて「うんせ、うんせ」と何かを始めた。


何をしてるのか?


背中越しにミカの手元を覗き込む。


すると、金髪の少女は地面に…丘のてっぺんに苗木を植えていた。

何処から取り出した、なんて疑問はない。相手は神なのだから。


小さな苗木だった。それこそ僕の親指ほどの大きさしかない。


その植えた苗木に、ギョと驚いたことには、ミカは自分の指先を躊躇なく噛み切って血を垂らした。


「これでOK!」


ミカが立ち上がる。その時には指先も治癒している。


正直……訊きたくない。

けど、訊かないといけないだろう。立場的に。


「何を植えたんだい?」


「世界樹」ニッコリとミカは答える。

「ココはワタシの陣地だからネ、そのあかしに植えとくンだ」


「はぁ」


よく分からん。とはいえ、ミカのことだし世界樹というネーミングからして、ただの苗木じゃないだろう。


「ン~で? 何をつくるか考えたの?」


「創り方が分からないんだけど?」


「あ~、初めてだもんね。まずはサ、頭に欲しい生き物を思い浮かべてよ」


言われて、僕は足代わりになる生き物を思い浮かべた。

馬……だろうな。


とはいえ、それだけじゃ面白みがない。


「それから、ステータスでポイントを割り振るの」


言われたとおりにステータス画面を表示させて『ポイント:1000』の部分に注目する。するとポイントの数字が900にまで目減りした。


と確認した時だ。


目の前に、馬がいた。

純白の馬だ。ハッキリと明確に美しい。姿形が綺麗というよりも、筋肉のつきかたが、ただ美しい馬だった。


しかも、だ。


「へぇ~」


とミカが感嘆する。


「これって、ペガサスって奴だよね」


そうなのだ。僕はペガサスを創りだしていた。


純白の美しい馬には、人の腕ほどの長さの翼が生えているのだ。


バサリ、とペガサスが翼をひと振りする。


まるで挨拶をしているようだ。


そう思って観れば、ペガサスは賢そうな目をしていた。


「名前つけてあげないと」


「ああ、そっか」


ミカに言われて、僕は頭を捻った。


「…ペガ」


聞いたミカがジト目になる。


「コウヘイ…いくら何でもそれは…」


けど、ペガサスは優しかった。

いえいえ、それで好いんですよ。と言わんばかりに僕に鼻面を押し付けてくれた。


「ペガでいいのかい?」


問えば、コクリと天馬はうなずいてくれる。


そう。ペガサスは僕の言葉を理解しているようだった。


「ペガは随分と素直な性格ね」


「僕に似たんだろうさ」


「それはあるかもね~」


言うと、ミカは身軽にペガに跳び乗った。


ペガの背は高い。というか、ペガが特別に高いというわけではなしに、馬の背は意外と高いのだ。

僕はヒラリと乗れる自信がない。


だから…ミカに手を差し伸べられてよじ登ったとしても仕方ない。


よっこらせ、とペガに登る。


というか。くらあぶみもないから、ずり落ちてしまいそうだ。


あわあわしていると。


「行ッくよ!」


僕の前に座っているミカが声を張り上げた。


ペガが翼を広げて、駆けだす。


「わあああああ!」


僕は情けなくも落ちないようにミカの腰に縋りついた。


ペガが地を駆けるたびに振動が僕を振り落とそうとする。


けど、そんな振動が不意になくなった。


どうしてか? ペガが止まったからじゃない。その証拠に、僕の髪と頬を風がなぶっている。


振動が無くなったのは。


ペガが空を駆けていたからだった。


地面が遠い。遥かな眼下にある。ペガがひと脚進むたびにグングンと高度が上がっている。


僕はもう叫び声すらだせずに、必死にミカにしがみつくので精一杯だった。

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