Copán
脚本『クズだらけの世界』
葛 好一 ニート。毎日家でネットをしているが、いつか大物ユーチューバーになれると思っている。
千佳 好一の姉。正社員。タダ飯食らいの好一が不満。
母 気が弱く、毎日遅くまで働いている。
とある田舎町の一軒家。葛好一(24)は、いつものように薄暗い自室でオンラインゲームをしていた。
窓の外には美しい田園風景が広がっているが、対照的に好一の部屋には無数のゴミが散乱している。
好一はパソコンの画面に釘付けになり、一心不乱にマウスを操作する。耳にかけたヘッドセットにちょくちょく話しかけ、ネトゲ仲間たちと連携をとっていた。やがて、パソコンからファンファーレが響き渡る。
好一 よし……!よしッ!倒したぞ!
好一、達成感に満ちた笑顔で仰向けに倒れこむ。舞い上がるホコリ。画面には倒れたドラゴンと、雪崩のように更新されるチャット欄が表示されていた。
好一 ハッハー!やったなみんな!
フレンドA〝ありがとうございますコーイチさん!こいつなかなか倒せなくて困ってたんすよ!〟
フレンドB〝おごってもらったレアアイテムは今度返しますから……〟
好一 いやいや、あんなものでよければあげるよ。そのうちまた課金するからさ
フレンドA〝コーイチさん、大企業に内定もらってますもんね。いいなー余裕あって……〟
フレンドB〝しかも東大卒だし、モデルの彼女いるし、コーイチさんすげえっす!〟
好一 いやいやぁ……同級生にはいずれ海外いくやつや、ベンツ乗ってるやつまでいるからね。そいつらに比べたら霞むって俺なんか
フレンドB〝どうせそのベンツ親に買ってもらったんすよ!自分で学費まで稼いでるコーイチさんの方が偉いっす!〟
好一 そう?……フフフ、そうかなぁ
コンコンと、部屋のドアがノックされる。
母の消え入るような声がする。
母 ヨシカズ〜、ご飯よ〜……
好一 おっ、やっべェ彼女きたわ〜!ごめん一旦抜ける
好一、食い気味にマイクに囁き、勢いよくパソコンを閉じる。
同時に下手のドアが開き、母が入ってくる。
母 ヨシカズ、聞こえてる?ご飯……
好一 うっせーな!勝手に部屋入んなよ!あとご飯は呼ばなくてもいいっていつも言ってんだろ⁉︎
母 うぅ……ごめんね
好一 チッ……明日から気をつけろよな
好一、ヘッドセットを置く。
母 それにしても……ち、ちょっと部屋片付けた方がいいんじゃない?
好一 ……あ?(威圧)
母 (気圧されつつ)だって、こんなんじゃいつまでたっても彼女もできないし……
好一 ハァ……(露骨なため息)
母 それに就活だってできな……
好一 ハァ〜〜〜〜〜〜ッ
母 な、なに?
好一 わかってねぇなぁ。俺に就活なんて必要ないんだって。そのうち金持ちになるんだから時間の無駄だろ……(最後の方モニョモニョとひとりごちる)
母 金持ちって、一体何で稼ぐの?
好一 こないだ説明したろ
母 ユーチューバーだっけ?でもあれで稼げてる人ってすごく少ないんでしょ?本当に儲かるの?第一あなたずっとゲームやってるだけ……
好一 う、うるせぇなァ!ちゃんと見えないところで動画作ってんの!ゲームはその休憩時間っていうか、必要なことで……あぁもう、シロートが口出すな!
母 う、うぅ……ごめんね。お母さんよくわかんないから……
母、下手のドアを開け、思い出したように振り返る。
母 それと、今月のお小遣いここに置いておくね。前みたいに全部ゲームに使っちゃだめよ
好一 あーもうわかってるって。ほら、シッシッ
母、退場
しばらく沈黙したのち、家に車が停まる音がする。
好一、パソコンを開き、不満そうな顔で床に落ちていた動画撮影用のカメラを拾って机に置く。
好一 クソッ……俺だって頑張ってんだ
と言いつつ動画を撮ろうとするが、ついついゲーム画面を開いてしまう。響き渡るスタート画面のファンファーレ、やたらと甘いアニメ声で読み上げられるタイトル(『PSO -パーソナルシューティングオンライン-』)。
舞台が暗転してパソコンの光だけになり、やがてそれも消える。
明転。またしても一心不乱にマウスを動かす好一。しかし、画面に「GAME OVER」の文字が映り、不穏なBGMが流れる。好一、「あークソッ!」と椅子にもたれかかる
フレンドA 〝すいませんコーイチさん。装備まで奢ってもらったのに……〟
フレンドB 〝俺たちが不甲斐ないばっかりに……申し訳ないっす!〟
好一 いやいや、君たちはよくやったよホント。ただ、このクエストはちょっと早かったかな?君たちには。ははは
フレンドB 〝……(無言の鼻息)〟
フレンドA 〝あ、そうだコーイチさん!コーイチさんの動画みましたよ!面白かったです〟
好一、「え……!」と目を丸くして立ち上がる。我が耳を疑うように一度ヘッドセットを外して耳をほじる。
好一 マジ?ホント?面白かった⁉︎
フレンドA 〝はい〟
好一 ありがと!嬉しいわ〜っ。まぁまだ投稿始めたばっかりだから、高評価ついてないんだけどね。はははっ
フレンドB 〝コーイチさん、俺もみましたっす!〟
フレンドA 〝ホント面白かったです。続きも期待してます!〟
好一 どの部分が面白かった?
フレンドA、B 〝え……〟
謎の間。目を輝かせる好一。
フレンドB 〝えっと……最初の動画っす!〟
フレンドA 〝や、やっぱり一作目だけあって熱量が違いましたね。わかる人にはちゃんとわかりますよ〟
好一 一作目のどこがよかった?
フレンドB 〝……最初の部分っす!〟
フレンドA 〝冒頭で投稿者のこれまでの人生を二十分にかけて語るところなんて、文学的で最高でしたね。あれは凡才にはできない編集ですよ〟
好一 (ニヤけながら)……マジ?あーでもあれボロクソに叩かれたんだよね〜コメント欄で。「誰もお前の人生なんて興味ねーよ」って
フレンドA 〝そいつ教養ないんすよ。褒めすぎかもしれないですけど、天才だと思いましたねー僕は。ウン〟
好一 マジ?マジマジ?じゃ今夜、新しいの投稿するからさ、明日感想ちょうだい!冒頭の語りもちょっと長めにするからさ!楽しみにしててよ
フレンドA 〝わ、わかりましたァ……〟
フレンドB 〝……(無言の鼻息)〟
好一、パソコンをそっと閉じ、ヘッドセットを置く。「天才かー、そっかー……」とつぶやき、仰向けに倒れる。
好一 天才かー!やっぱなー!やっぱ天才かーッ!はははははははは‼︎
高笑いながら床をのたうちまわる好一。
いつのまにやら下手のドアが開き、姉が顔を出している。
姉 キモ……
好一あははは……あ……
好一、真顔になる。何もなかったかのように机に座り直し、ぶきっちょな顔になる。
姉、しばらく無言で好一を蔑視する。
好一 ……何しに帰ってきたんだよ、ネーチャン
姉 仕事上がりに帰ってくるのは当たり前でしょ。ドカドカと何騒いでるのかと思ったら……ま〜たゲームかよ……
好一 ほっとけ。ほら、シッシッ
姉、無言で取り出した一枚の紙を好一に見せつける。
好一 そりゃ……今月分のネットの更新書?……なんだ、届けに来てくれたならそうと……
好一、立ち上がって紙を受け取りに行く。が、
姉、目の前で豪快に紙を破る。
細かくちぎられ舞い散る更新書。
好一 ……は?
姉 これでもうネトゲ三昧のニート生活は無理ね。そろそろ目覚ます時じゃない?
好一 はァ⁉︎何すんだ!それがなきゃネットできなくなんだぞ!一階の共用パソコンだって繋がらなくなるぞ!いいのかよ⁉︎
姉 私はスマホで十分だもん。それに、これはお母さんとお父さんが話し合って決めたことだしね。あんたをネットから引き剥がすために
好一 あぁ、クソッ……!
好一、涙目になりつつ床に散った更新書を掻き集める。
姉 ハァ……ヨシカズ、あんたお母さんがどれだけ働いてるか知ってる?あんたが働かないばっかりに昼のパートの他に夜勤のコンビニまでやってるのよ?お母さん過労で死んだらどうするの?それに、今はなんとかなってるけど、あんた一人になったらどうやって生活する気よ。いっとくけど私はあんたの面倒みる気ないからね
好一 ……だから働けってか
姉 そう。あんたもいい加減ゲームなんかやってる場合じゃないって気付いてるでしょ?周り見てみなよ。昔の友達みんな頑張ってるじゃん
好一 ……さい
姉 よく遊んでた瞬助くんは大企業に内定もらってるし、祐紀くんはモデルの彼女いるじゃない?
好一……るさい
姉 裕大くんは東大卒だし……卓実くんに至っては海外でベンツ乗り回してるんでしょ?……そうそう!今日帰りにばったり会ったんだけど、幼馴染の里奈ちゃんっていたじゃない?今度結婚するって……
好一 うるさあぁああぁあぁぁぁい!俺だって頑張ってんだよ!就職がそんなに大事か⁉︎結婚がそんなに大事か⁉︎社会に組み込まれるのがそんなに大事か⁉︎俺には夢があるんだよ!成功する確率こそ低いのはわかってっけど、それでもハナから諦めて就活するより、今の生活のがマシなんだよ精神衛生的に!見えるんだよ……諦めたら一生後悔する未来が!
姉 ……
好一 俺にはユーチューブしかないんだよ……俺が会社でやっていけるわけねーだろ。社会不適合者の俺が……
姉 うん。……まぁ、ネットやめさせるだけならパソコン取り上げればいいだけの話なんだけど、私も鬼じゃないわ。ネトゲ友達と別れの挨拶くらいしたいでしょ?
好一 無視かよ
姉 あと三日はネットが繋がってるからね。友達にバイバイしたその後はちゃんとハローワーク行きなさいよ
姉、下手にはける(この時「あー面倒くさ……」と姉の声が聞こえる)。
好一、打ちのめされたように這いつくばり、すすり泣く。
好一 ちくしょう……勝手なことを……!第一、俺の動画はゲーム実況が売りなんだぞ。メインコンテンツなしでどうしろってんだ……
好一、ふらふらと机に座り、ヘッドセットとカメラを手に取る。
好一 (頭を掻きむしりつつ)あーもう、とにかく最後に動画、撮れるだけ撮っとくか……ぜってーハロワなんか行かねーからな!(ドアの方を向き、わざとらしい大声)
好一、パソコンを開き、暗転。
しばらくして、暗闇の中でカチャカチャという音や、カメラのズーム音がする。明転し、机上のカメラを調整している好一が見える。そして再び暗転。
好一 よし……準備完了。今日であいつらとも会えなくなるし、こっそり録画してやろ。あいつらびっくりするぞ〜俺の動画に自分が出てきたら……(心の声)
明転。好一、ヘッドセットを着ける。
好一 悪いね二人とも。待った?
フレンドA〝いえいえ〟
フレンドB〝コーイチさん、昨日の動画も良かったっすね!〟
好一 へへ……そう?
フレンドA〝どうしたんですか?元気ないですね〟
フレンドB〝早いとこ今日のクエスト行きましょうよ!……それと、今日の自分にはちょっとキツそうなんで、またアイテムいくつか貰っても……〟
好一 あぁ、それはいいんだけど……ちょっと大事な話があってね
しばらく間を空けて
好一 実は……今日で俺、ネット切られちゃうんだよね
フレンドA、B〝え……?〟
好一 あぁ、いや、会社に内定もらってるって言ったろ?それで引っ越すことになったからさ、しばらくネットの環境が整わないんだよね。そのうち再開したいとは思ってるんだけど、ちょっと難しそうで……
フレンドB〝……つまり、今日が会えるの最後ってことっすか?〟
好一 ああ……ウン(鼻をすすりながら)。ごめんな、こんなこと急に。もうちょっと早めに言ってりゃよかったんだけど……ズズッ
フレンドA、B〝……〟
好一 いや、正直言うと俺、大学でそんなに友達いなくてさ、二人に会えるのすげー楽しみだったんだよね。だから急にこんなことになっちゃって……俺……もう……
フレンドA〝うん、知ってましたよ〟
好一 ……え?
フレンドA〝コーイチさんに友達いないってこと、知ってましたよ〟
好一、固まる。
好一 え?
フレンドA〝ていうか言ってることの大半が嘘ってことも丸わかりでしたよ〟
フレンドB〝バレバレだったしな〟
好一 ……
フレンドA〝よくあんな、息をするように嘘がつけるなと、逆に感心しましたよ〟
好一 いや、え?だって……君たち……
フレンドB 〝友好的にしてたのは演技にきまってんじゃん。あんた課金アイテム奢ってくれるし〟
フレンドA 〝ていうか大企業に内定もらっててモデルの彼女いて学費まで稼ぐ超有能東大生が毎日昼間からネトゲやってるわけないじゃん〟
好一、パソコンの前から後ずさる。口を開け、(多少オーバーでもいいので)あわあわと震え、パソコンを指差す。
フレンドA〝じゃ、そういうことなんで〟
暗転。
しばらくして真上からのサーチライト(青)が好一を照らす。好一 、床に這い、悔しそうに顔を歪ませている。
好一 グ……グ……ッ!グァ……ッ!
好一、床を何度も殴り、ジタバタと転げまわる。
好一 グアアァァアァァこのクズ共があぁああぁあぁぁぁッ!人を利用しやがって!息をするように嘘をつくだァ⁉︎貴様らのほうがよっぽどの悪党じゃねぇか!ふざけんなよ!ふざけ……ゲホッゲホッ
サーチライトの色、変わる(緑)。
天の声(A)コーイチさん、大企業に内定もらってますもんね
天の声(B)すげえっす!
天の声(母)こんなんじゃいつまでたっても……
天の声(姉)友達みんな頑張って……
天の声(B)演技にきまってんじゃん
天の声(A)シネッ
サーチライトの色、変わる(赤)。
好一、「……カカカカ……」と喉をすり減らすように高笑う。
好一 ゆ、ゆるさん
サーチライト、机上のカメラを照らす。
好一、ふらふらと机に向かい、そのカメラを手に取る。
好一 でも一番のクズは……俺かァ
暗転。
ナレーション その後、好一の投稿した、フレンドたちの裏切りを収めた動画が、面白がられて10万再生を超えるのは、もう少し後の話。
Fin




