告白は、勤務時間の外で
正式な説明を求めた手紙に、神殿から返事が来た。
『帰還後には一時的な混乱を伴う場合がありますが、その後の生活を妨げるものではありません』
三度読んだ。
返す気のない借金について、似た文章を書かされたことがある。
アレンに見せると、彼は言った。
「失われる記憶について答えていない」
「そこに、大変よく気づかれました」
私たちは怒っていた。
けれど、その下の恐怖まで取り出すと、歩けなくなりそうだった。
その日は峠道が崩れ、出発が翌朝へ延びた。
ダグは街道の確認へ。
リゼは記録を写しに出かけた。
昼から夕方まで、仕事がなかった。
「出かけませんか」
アレンが顔を上げる。
「どこへ」
「決めずに」
「護衛は」
「あなたでは不足ですか」
彼は少し考え、剣を腰へつけた。
礼装ではなく、灰色の上着だった。
私も神殿の外套を脱ぎ、町で買ったショールを羽織った。
市場を歩いた。
買う予定のない鍋を見て、高価な靴に驚き、パンの匂いにつられて立ち止まった。
アレンは壊れた戸を見つけると、足を止めた。
「気になるんですか」
「蝶番がずれている」
「勤務時間外です」
「大工の勤務時間でもない」
「将来の予習ですか」
彼は笑った。
店主へ一声かけ、道具を借りて戸を直す。
お礼に、少し欠けた木箱をもらった。
「何に使うんです」
「君の紙が湿らないようにできる」
私は木箱を見た。
買ってもらうより、困った。
嬉しさの扱い方が、まだ分からなかった。
川のほとりに空き店舗があった。
小さな窓と、傾いた軒。
貸家の札が風で揺れていた。
「こういうところで、仕事をしたいです」
気づくと口にしていた。
「代筆を?」
「本も置いて。書けない人の代わりに書いて、読めない人には読んであげて。暇な日は、自分のために書きます」
「いいな」
アレンが建物を見る。
「戸は直した方がいい。床も少し」
「職業病が早いですね」
「見積もりだけなら無料だ」
「商売まで始めている」
彼は私を見た。
「俺が直してもいいか」
「仕事として?」
「それでもいい」
それでも。
胸が痛くなった。
私は欄干に手を置いた。
木は日に温められていた。
「アレン」
「何だ」
「あなたが好きです」
川の音が、はっきり聞こえた。
彼は黙っていた。
私は続けた。
「世界を救うために、好きになったことにはしたくありません。誰かが近づけようとしていたとしても、あなたが私にしてくれたことまで、全部、その人たちのものにはしたくない」
声が少し震えた。
「怖いです。忘れたくありません。でも、好きではないふりをしている時間も、もう嫌です」
アレンが一歩近づいた。
そこで止まる。
「俺も、君が好きだ」
飾りのない言い方だった。
「守る相手に、俺の居場所まで作ってもらっていいのか、ずっと考えていた」
「いいに決まっています」
「そう言うと思った」
困ったように笑う。
「君は、俺が黙ったときも、勝手に返事を作らなかった。待ってくれた。俺は、それが嬉しかった」
私はうなずいた。
泣く予定ではなかった。
リゼがいなくて、本当によかった。
アレンが頬に触れていいか尋ねた。
うなずく。
掌は温かかった。
「キスをしても?」
「どちらの腕が恋人らしいかとは、聞かないんですね」
「聞く項目が分からない」
笑ってしまった。
最初は鼻がぶつかった。
二度目は、ちゃんとできた。
短い口づけだった。
「契約書は、どうする」
離れたあと、彼が聞いた。
「追加条項は撤回しました」
「第一条も?」
世界を救ったら、婚約を破棄する。
もう、別れたいわけではなかった。
それでも捨てたくなかった。
「王様に決められた婚約は、一度終わらせたいです」
私は彼を見た。
「その先に約束するなら、私たちで決めたい」
アレンは、はっきり笑った。
「ああ。そうしよう」
帰り道、彼が手を取った。
公の場ではなかった。
演技でもなかった。
私は、握り返した。




