私の好きな人を、人数に入れて
朝の粥は、少し塩辛かった。
炊事係が謝った。
ダグが、歩けば汗をかくから丁度よいと言った。
アレンは最後まで食べた。
私も食べた。
それから城へ向かった。
近づくにつれて、空の色がおかしくなった。
雲の向こうに星のようなものが見える。
けれど、それらはこちらを見ている気がした。
門に見えたものが開く。
大きな口の中で、骨が擦れるような音がした。
黒い獣たちが溢れ出した。
兵たちが隊列を組む。
リゼが陣紙を開く。
私は結界を細く伸ばした。
守る壁ではなく、剣を通す道にする。
アレンが走った。
白い軌跡が、黒い群れを裂く。
「ここは持たせます! 前へ!」
ダグの声を背に、走った。
床は、ときどき柔らかくなった。
壁には、人の顔に似た凹凸がある。
母の声がした。
振り返りかける。
「ノエル」
アレンと目が合った。
私は息を吐いた。
「今の声は違います」
「一人で確かめに行くな」
「あなたもです」
やがて、細い橋へ出た。
下は底の見えない暗がり。
向こう側で、白いものが脈打っていた。
アレンが踏み出した瞬間、中央が崩れた。
私は彼の腕をつかんだ。
足場が傾く。
一瞬、彼の手に力が入った。
私だけを、向こうの足場へ投げようとする動きだった。
「駄目です!」
アレンが、はっと私を見る。
「二人で行くんでしょう!」
彼は動きを変えた。
壁へ剣を打ち込み、私ごと引き寄せる。
肩に、嫌な音がした。
背後から縄が飛んだ。
ダグだった。
後ろに兵たちが並んでいる。
「勇者殿! こちらにも働かせていただきたい!」
縄を掴み、引き上げられた。
膝が震えた。
アレンの右腕が少し下がっている。
「肩は」
「動く」
私が見つめると、言い直した。
「痛い。でも、動く」
兵士が手早く布で支えた。
動かせるが、同じ力で振れると思わない方がいい、と告げる。
アレンは、最後まで説明を聞いた。
「では、痛い分も計算に入れます」
私は結界の形を変えた。
右側を厚くする。
剣の通る方向を絞り、余計に振り回さなくて済むようにする。
後ろでは、板が渡されていた。
昨日教わった結び目で、兵たちが縄を固定している。
「戻るとき、ここを通ります」
ダグが言った。
「そのときは、勇者殿も聖女様も、遠慮なく荷物になってくだされ」
「荷物には数えない約束です」
私が言うと、彼はうなずいた。
「では、大切な怪我人を二名」
アレンが、短く笑った。
板の上を渡る。
内側の扉の前で、彼が振り返った。
「帰る道を頼む」
ダグが胸の前へ剣を立てた。
「承りました」
リゼは泣いていなかった。
ペンの代わりに、陣紙を握っていた。
「結末は、帰ってから確認します」
私はうなずいた。
扉に触れる。
向こうから、優しい声がした。
『もう、頑張らなくていい』
私はアレンの手を握った。
彼も握り返した。
怖がりながら、二人で中へ入った。




