エンディング~冬の訪れ~
「私、ここに残るわ」
奏から放たれた言葉は、あまりにも予想外だった。
「奏……」
若菜は、それ以上の言葉を続けられなかった。
「私、王都に行ってみようと思うの」
「王都……ですか」
「うん。王都の音楽隊で、この世界の音楽を学びたいの」
アイシャの問いに、奏は静かに答えた。
また、少しの沈黙が訪れる。
「音楽祭の前に、ミラーさんから音楽隊に来ないかって言われてたの。
でも、その時は答えられなかった」
「奏……そう。すごく悩んだと思うわ。私は、応援する」
それから、少し慌ただしい時間が過ぎていった。
帰るための準備が始まった。
「そうか。まだ確実ではないのかもしれんが……おめでとう。帰るべきところへ帰れるようじゃの」
「ありがとうございます、村長さん」
若菜は、村長のもとへ報告に訪れていた。
三日月亭でも――
「そうかい。家族のところへ戻れるんだね。よかったね、若菜ちゃん」
「はい。おかみさん、ありがとうございます」
ほかの部員たちも、それぞれ世話になった村人たちのもとを訪れ、帰還のことを伝えていった。
夕方。
一通り挨拶を終え、若菜が広場へ差しかかったところで、夏樹の姿を見つけた。
「日向くん」
「先輩」
足を止めた二人の間に、少しだけ沈黙が落ちた。
「俺も、帰りますから」
「びっくりした」
「え?」
「『俺も』なんて言うから」
そう言って、若菜は笑った。
一瞬遅れて、夏樹も笑った。
帰る準備の間にも、部活は続けられていた。
その時間が心地よかった。
まだ確かではない帰還の話。
この世界に残ると決めた奏。
様々な感情が、部員たちの胸の内にあった。
それでも合奏が始まれば、音の中ではいつも通りでいられた。
「最後に何か、全員で一曲仕上げませんか?」
ミラーが問いかけた。
その一言をきっかけに、緊急の選曲会議が始まった。
いくつかの候補が挙がり、話し合いの末、最後に演奏する曲が決まった。
『アルメニアン・ダンス Part 1』
だった。
今までの本番とは、どこか違っていた。
そんな思いを胸に、それぞれが練習を重ねていった。
合奏の日は、転移の儀式を一週間後に控えた日に決まった。
吹き抜ける風は、もう冷たい。
季節は静かに、冬の訪れを告げていた。




