第四楽章~謁見~
音楽祭の翌日。
夏樹たちは、ミラーから国王との謁見があることを知らされた。
代表として城へ向かうことになったのは、若菜、大地、奏、夏樹、ライム、トールの六人だった。
「アイシャ、今回はついてくるなよ」
「大丈夫ですよ、夏樹先輩。王様はちょっと緊張しますから」
「おまえでも緊張するんだな」
「どういう意味ですか!」
いつものやり取りに、若菜が小さく笑う。
「それじゃ、行ってくるわね」
「はい! いってらっしゃい!」
六人はミラーとともに、王城へと向かった。
謁見の間へ通されると、国王が穏やかな表情で一行を迎えた。
「よく来てくれた。そなたたちの演奏、実に素晴らしかった」
「ありがとうございます」
若菜たちが頭を下げる。
「よければ、これまでのことを聞かせてもらえないだろうか」
国王はそう言って、優しく若菜たちに問いかけた。
若菜は、これまでの出来事を一つずつ話していった。
突然、この世界へ転移したこと。
森でライムと出会ったこと。
ルタ村の人々に受け入れてもらったこと。
トールと出会い、楽器を作ったこと。
収穫祭で演奏したこと。
そして、ミラーと出会い、この王都の音楽祭へやってきたこと。
国王は時折頷きながら、最後まで静かに耳を傾けていた。
「なるほど。そなたたちも、すっかりこの国に馴染んだというわけだな」
「はい。皆さんには、本当によくしていただいています」
「そうか」
国王は満足そうに頷いた。
そして、何かを思い出したように表情を変える。
「ところで、転移者についてなのだが……以前、古い書物で目にしたことを思い出してな」
若菜が顔を上げた。
「誰か、魔術師長を呼んでくれ」
しばらくして、白髪を蓄えた老齢の魔術師が謁見の間へ姿を現した。
「お呼びでしょうか、陛下」
「うむ。転移者について記された文献に、心当たりはあるか?」
「はい。先の大戦時の記録として、いくつか残されております」
「どのような内容だ?」
「少々お待ちください。確認してまいります」
魔術師長が一度、謁見の間をあとにする。
その背中を見送りながら、若菜が思わず身を乗り出した。
「国王様……何か、帰れる手がかりがあるのでしょうか」
「分からぬ。わし自身、何が書かれていたのかまでは覚えておらんのだ。だが、何か記録が残っているかもしれん」
しばらくして、魔術師長が一冊の古びた書物を手に戻ってきた。
「陛下。大戦時の記録とは別に、転移の儀について記された文献がございました」
「おお。して、どのような内容だ?」
魔術師長が、古びたページを慎重にめくる。
「転移者についての記録が残されております。そして――」
一度、言葉を切った。
「異なる世界より訪れた者の中に、元の世界へ戻った者がいたと記されております。その際に行われた儀についても、記録が残されています」
誰も、すぐには声を出さなかった。
「……俺たち、帰れるんですか?」
沈黙を破ったのは、夏樹だった。
「まだ分かりません」
魔術師長が静かに答える。
「記録が残っているというだけです。同じ儀が今も行えるのか、そもそも皆様に適用できるものなのか。それを調べる必要がございます」
「そうか……」
夏樹は、それ以上何も言わなかった。
「詳しく調べさせるとしよう」
国王の言葉に、若菜たちは頷いた。
宿へ戻ると、若菜たちは城でのやり取りを全員に伝えた。
「えーーっ! 帰る方法が見つかったかもしれないんですか!」
アイシャがひときわ大きな声を上げる。
部屋のあちこちから声が上がった。
喜ぶ者。
驚く者。
何も言わず、考え込む者。
それまで一つだった空気が、わずかに揺れた。
「まだ分からないわ」
若菜が、ざわめきを静めるように言った。
「本当に帰れるのかも、まだ分からない。今は――待ちましょう」
誰も、すぐには返事をしなかった。




