第四楽章~知られざる旅~
アルベトニア王国の首都、ヘスペリディア。
ルタ村から馬車で半日ほどの場所に位置していた。
秋の終わりに開催される王国音楽祭には、ルタ村からも観光や商売を兼ねて、多くの村人たちが参加することになっていた。
音楽祭を数日後に控えた、最後の休日。
部室棟では、楽器や荷物の準備がいよいよ佳境を迎えていた。
必要な打楽器の選定や、荷馬車での搬入経路。
部員たちの移動に使用する馬車の手配など――。
おおよその段取りは、ミラーが村長とともに進めてくれていたため、若菜と大地は当日の具体的な流れを部員たちへ伝えていく。
「アルメニア王国……パパパーン!」
突然、アイシャが両手を広げた。
「アルベトニア王国よ。ベタなボケしないの」
「えへへ」
若菜のツッコミに、アイシャがいたずらっぽく笑った。
張りつめていた空気が少しだけ和らぎ、部員たちから笑いがこぼれた。
そして、移動日当日。
村の広場には、朝早くから何台もの馬車が並んでいた。
「すごーい! 馬車がたくさん!」
アイシャが目を輝かせる。
「お子様だなー」
夏樹が呆れたように言う。
「そんな夏樹先輩だって、さっきからずっとそわそわしてますよ?」
「まあな」
否定することもなく、夏樹は並んだ馬車を見回した。
初めて訪れる王都を前に、みんな少しずつ浮き足立っていた。
「村長さん、手配ありがとうございました」
若菜が頭を下げる。
「気にすることはない。わしらも後から向かうからの。先に行って、王都をゆっくり楽しんでくるといい」
「ありがとうございます」
若菜に続き、部員たちも村長や見送りに来ていた村人たちへ頭を下げた。
やがて荷物の積み込みも終わり、部員たちはそれぞれ馬車へ乗り込んでいく。
馬車がゆっくりと動き出すと、見慣れたルタ村の景色が少しずつ遠ざかっていった。
「ライムは王都に行ったことあるのか?」
向かいに座っていたライムへ、夏樹が尋ねた。
「一回だけ」
「どんな感じ?」
ライムは少し考える。
「うーん……広くて、人が多い」
「それだけ?」
「あと、大きな教会がある」
「あ、教会あるんですね!」
アイシャがすぐに食いついた。
「行ってみたいです!」
「うん。すごくきれいだから、みんなで行ってみよう」
「やったー!」
アイシャが嬉しそうに両手を上げる。
その横で夏樹は、馬車の窓から外を眺めた。
まだ見ぬ王都。
そして、その先に待つ王国音楽祭。
馬車の揺れに合わせるように、胸の奥も少しずつ高鳴っていった。




