第三楽章 閑話 ~トランペット吹きの休日~
若菜は朝から視聴覚室の掃除をしていた。
日中はそれぞれ仕事があるため、掃除は休みの日に手分けして行っていた。
その後は自由に過ごすこともあれば、個人練習に充てることもあった。
ミラーが来られる日には、合奏を行うこともある。
この日は、部活も休みだった。
ライムと出会った水辺から汲んできた水や、屋上に溜めた雨水を使い、
掃除を進めていく。
窓から吹き込む風に、秋の深まりを感じた。
床を掃除するために机を動かしていると、引き出しの中に一冊の本を見つけた。
『アーバン教則本 トランペット』
転移前に、誰かが練習していたものだろうか。
掃除を終えると、若菜はアーバンを譜面台に広げ、トランペットを構えた。
規則正しいリズムが部室棟に響く。
気がつけば、一時間ほど経っていた。
たっぷりと基礎練習を終えた若菜は、村に行くか、このまま部室棟で過ごすか迷っていた。
結局、部室棟に残ることにした。
軽く昼食を済ませ、楽器と教則本を持って屋上に出た。
穏やかな風が吹いていた。譜面台に広げたページが、クリップに留められたまま、
かすかに揺れている。
時折休憩を挟みながら、練習を続けた。
夕方になり、ようやく楽器を下ろした。
「まるで、トランペット吹きの休日ね」
若菜はそうつぶやくと、屋上のドアを静かに閉めた。




