第三楽章~王都からの使者~
祭りの翌日、若菜と大地、夏樹、アイシャの四人は村長の家に呼ばれていた。
なんでも、王都からの使者が三日月亭で待っているとのことだった。
四人は少し緊張しながら、村長とともに三日月亭へ向かった。
「お待たせしました」
「いえ、わざわざお呼び立てして申し訳ございません。王都より、状況の確認に参りました」
三日月亭では、騎士のような男と、ローブをまとった女性が待っていた。
「お話は私が伺わせていただきますね。申し遅れました。私は王国音楽隊のクレメンティ・ミラーと申します」
「私は、結城若菜です」
若菜を皮切りに、大地、夏樹、アイシャもそれぞれ自己紹介をした。
「今日こちらへ来たのは、王都にも転移者の話が入ってきたからです。その後、私たちの方でも事前に調査をさせていただきました。村長からも現在の状況を伺っています。今日までのことを、あなたたちからも聞かせてもらえますか?」
若菜は、転移してから今日までのことを説明した。
転移後にライムと出会い、ルタ村へやってきたこと。村長や村人たちの好意で、この村で働かせてもらっていること。そして、村で生活しながら帰る方法を探していること。
ミラーは時折うなずきながら、静かに話を聞いていた。
「わかりました。村長さんから伺っていたことと変わりありませんね」
そして、四人を見渡した。
「アルベトニア王国国王に代わり、皆さんの滞在を許可します」
そう言って、ミラーは微笑んだ。
その言葉を聞いて、四人の間に張りつめていた空気が少しだけ緩んだ。
「ところで――昨日の演奏、素晴らしかったわ」
先ほどまでとは少し違う、柔らかな声だった。
「私たちの楽団とは編成も音楽も違うけれど、とても良かったわ」
「ありがとうございます。私たちも、とても楽しく演奏させていただきました」
若菜が答えると、ミラーは少し身を乗り出した。
「よかったら、楽譜とか楽器とか、見せていただけないかしら?」
「ええ、大丈夫ですよ。よかったら練習を見に来られますか?」
「ほんと!? ありがとう。よろしくお願いします」
その日の夕方、ミラーは部室棟を訪れた。
「これが、あなたたちの楽器なのね」
ミラーは並んだ楽器を一つずつ、珍しそうに眺めていった。金属で作られた管楽器、細かな機構を持つ木管楽器。そして、見たこともない記号が並ぶ楽譜。
「この楽譜……昨日の曲?」
「はい。私たちは、これを見ながら演奏します」
若菜が譜面を差し出すと、ミラーはしばらく黙ってページをめくった。
「よく見ると規則性は似ているのね」
「そうなんですか?」
「ええ、音の高さを表しているのは変わらないわね。それにしても弦楽器はバスだけなのね」
「はい、コントラバスだけですね。王都は弦楽器もあるんですか?」
「そうね、弦楽器と管楽器が半分ずつくらいかしら。それにしても精巧な作りね。細かな演奏の理由がよくわかるわ」
ミラーからの楽器の特性に対する質問はしばらく続いた。
「あら、少し長居してしまったようね。また来てもいいかしら」
「ええ、もちろんです。ミラーさんはどんな楽器をされているんですか?」
「私は副指揮者を務めてるわ」
「ミラーさん、指揮者なんですね!いっそ先生になってほしいな…なんてね」
「こら、アイシャ。すいませんコイツ距離が近くて」
「先生か、ねえよかったら私にあなたたちの音楽を教えてくれるかしら」
「え、俺たちが人に教えるなんて」
「そうだ、じゃあ私が先生として指揮を振るわ。代わりにみんなで異世界の音楽を教えて」
「それじゃどっちも先生ですよー」
ミラーの提案にアイシャがツッコミを入れて視聴覚室は暖かな笑いが広がった。
「それじゃ改めてよろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いします」
全員で起立してミラーに一礼した。




