第三楽章~秋の風~
「せんぱーい、屋台がいっぱいありますよー!」
楽器の運搬を終え、祭りが始まるまでの自由時間を、みんな思い思いに楽しんでいた。
アイシャは夏樹の袖をつかむと、そのまま屋台の並ぶ通りへ引っ張っていく。
「先輩、一緒に食べましょう。親方からお小遣いもらってきたんですよ」
「大丈夫。俺も小遣いっていうか、昨日の給料を多めにもらったから」
「じゃあ、一緒に食べ歩きましょう!」
アイシャは並んだ屋台を見回し、嬉しそうに笑った。
「こっちの食べ物って、元いたところにちょっと似てるんですよね。テンション上がります」
「そうか。日本に来た時も、こんな感じだったのか」
「そうなんですよ。あの時は心細かったですけど……」
アイシャは一瞬だけ遠くを見るような顔をした。けれど、すぐにいつもの笑顔に戻る。
「今は、みんながいますからね」
「よく食べるな?」
大地が呆れたように言うと、隣で料理を頬張っていた若菜が顔を上げた。
「これから本番だもの。しっかり食べなきゃ。ね、奏」
「うん。そろそろ三日月亭の屋台の様子を見に行きましょう」
「三日月亭の屋台?どんなのだ?」
「ついてのお楽しみ!」
三人は顔を見合わせると、人混みの向こうに並ぶ屋台へと歩き出した。
「すまんな、小春。手伝ってもらって」
「そんな。私にはこのくらいしかできないので」
小春の手元では、細く割かれた木が一本ずつ編み込まれ、籠の形になっていく。
「そんなことないだろ。小春のおかげで店の籠が大人気じゃないか。現に今作ってる籠も、夜の儀で使うからな」
「そうなんですね」
小春は、自分の手の中にある籠を見つめた。
「よし、終わったな。じゃあ小春も、祭り楽しんでこい」
「はいっ!」
三日月亭の屋台は、若菜と奏が提案した焼きそば屋だった。店先には、香ばしい匂いが漂っている。
「あー、焼きそばだ!」
「ホントだ。先輩たちが教えたのか」
アイシャと夏樹が店の前に着くと、少し遅れてライムもやってきた。
「これって、異世界の食べ物?」
「そうだよ。お祭りの日によく食べるんだ」
アイシャはそう答えると、すぐに屋台へ顔を向けた。
「おかみさーん、焼きそばちょうだい!」
その勢いにつられるように、夏樹とライムも焼きそばを買った。
ライムはひと口食べると、少しだけ目を見開いた。
「……おいしい」
「だろ? それにしても、よくできてるな」
夏樹が感心したように言うと、屋台の奥から奏が顔を出した。
「うん。似たような調味料を探して、二人で考えたんだよ」
「みんなもここに来たのね」
声の方を見ると、若菜と大地も人混みの中から歩いてきた。
ひとしきり祭りを楽しんでいるうちに、日が傾き始めた。空がゆっくりと夕暮れの色に変わり、秋を感じさせる風が吹き抜けていく。
村の中央には、みんなが集まれる広場がある。今日の演奏は、そこで行われることになっていた。
楽器のセッティングを終え、それぞれがチューニングを始める。
久しぶりに袖を通した制服。久しぶりの本番前の空気。そして、少しずつ広場に集まってくる村人たち。
やがて、演奏の時間が来た。
若菜がゆっくりと立ち上がる。観客の方へ向き直り、一礼した。




