第二楽章~同じ空の下~
「皆、元気でやっているようじゃな」
若菜と大地は、村長の家を訪れていた。改めて、自分たちを受け入れてもらった礼を伝え、
現在の暮らしについて報告するためだった。
「はい。村のみなさんには、とてもよくしていただいています」
「トールとライムも、一緒に音楽をやっておるとはな」
「はい。おかげで、みんな楽しく過ごすことができています」
部室棟で練習するライムの姿を思い出し、若菜は微笑んだ。最初に森で出会った頃と比べると、
表情もずいぶん柔らかくなったように思う。
「そうじゃ。来月、村で収穫祭があるんじゃが――そこで演奏を披露してもらえんじゃろうか?」
「え、俺たちがですか?」
大地が聞き返した。
「どうかね?」
自分たちが、村の祭りで演奏する。
若菜は、その言葉を心の中でもう一度繰り返した。助けてもらうだけだった自分たちが、
村の行事へ招かれた。それが少しだけ、ここで暮らす者として認められたように思えた。
若菜と大地は顔を見合わせた。
「はい。喜んでやらせていただきます」
夕方。三日月亭には、ライムとトール、夏樹、アイシャ、小春、大地、若菜、奏がそろっていた。
「大地さん、祭りの演奏って、何をやるか考えてるんですか?」
「そうだな。『宝島』と『ダッタン人の踊り』なんてどうだ? 祭りっぽい感じもあるしな」
「いいんじゃない? 盛り上がると思うわ」
「祭りで音楽を演奏するの?」
ライムが不思議そうに尋ねた。
「うん。私たちのいたところでは、お祭りや行事に合わせて、みんなの前で演奏することがあったの」
「聴いてもらうために?」
「それもあるけど、一緒に楽しむため、かな」
若菜が答えると、ライムは少し考えてから頷いた。
「何だか、不思議ですね」
アイシャが呟いた。
「まあな。ここ、異世界だもんな」
「そうじゃなくて、私たちがこの世界のお祭りで演奏することですよ」
「……言われてみれば、そうね」
少し前まで、自分たちは帰る方法さえ分からず、部室棟で非常食を分け合っていた。それが今では、
村の祭りで何を演奏するかを話し合っている。
「ねえ、『ダッタン人の踊り』って、どんな曲なの?」
「最初はゆっくりした感じで始まるんだ。それから、祭りみたいな雰囲気で、だんだん激しくなっていく感じかな」
夏樹の説明を聞き、ライムはまだ見ぬ曲を想像するように目を閉じた。
「ほう。この間の『宝島』はよかったな。身体が勝手にリズムを取ってしまう」
トールは、演奏を思い出したのか、椅子に座ったまま身体を左右に揺らした。
「こんな感じだったか?」
その動きが妙にぎこちなく、アイシャが吹き出す。
「トールさん、全然違いますよ」
「そうか? だが、楽しかったぞ」
トールの大きな笑い声が、三日月亭に響いた。
「『ダッタン人の踊り』をやるなら、指揮が必要ね」
奏が考えながら言った。
「奏にお願いするしかないかな」
「そうね。私も、その方がいいと思う」
奏は少し迷ってから、夏樹へ顔を向けた。
「それなら、私のパートは日向君にお願いできるかしら。オーボエの代わりにユーフォニアムが
吹く旋律も合うと思うの」
「お、俺ですか……?」
夏樹の声がわずかに裏返った。
「嫌?」
「いや、嫌じゃないです。ただ、その……目立つところですよね」
不安そうな顔をしていたが、膝の上に置いた手には、少しだけ力が入っていた。
「分かりました。頑張ります」
「先輩、緊張して外さないでくださいよー」
「お前こそ、踊りのところでトチるなよ」
「うっ……ごめんなさい」
三日月亭に、再び笑い声が響いた。
翌日から、収穫祭へ向けた練習が始まった。
二十五人。一通りのパートはそろっていたが、『ダッタン人の踊り』を演奏するには、編成の厚みが
少し足りない。
奏が指揮台に立つ。
それぞれが楽器を構え、息を整えた。トールも、まだ慣れない手つきで自分の楽器を持っている。
その隣では、ライムが奏の振り下ろす腕をじっと見つめていた。
奏が息を吸い、指揮棒を上げる。
一拍の静寂。
そして、最初の音が響いた。
久しぶりに部活を再開した日の音とは違っていた。完全にそろっているわけではない。
それでも、誰かが入るのを迷うことも、異なる音を恐れることもなかった。
ライムの音も、トールの音も、最初からそこにいることが当たり前のように重なっていた。
この世界で出会った音が、いつの間にか自分たちの音になっている。
まだ足りないものは多い。それでも、目標を持って練習できる喜びを、部員たちは噛みしめていた。
同じ空の下で、収穫祭へ向けた音楽が動き始めた。




