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競技セブンスカイズ〜負ければ廃棄、勝ち続けて優勝を目指す〜  作者: 元毛玉
第二部 円環

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第四十四話 いつものプロテイン

 第五恒星系で次の試合を行い、辛うじて勝利を収める。

 続けざまに勝ちをあげ、二連勝をひっさげて第一恒星系へ戻ってきた。


 桜が咲く季節。

 ウェハーの娘(シルゥ)の入学を機に、チーム全員がトップリーグ宿舎へと引っ越した。

 男手が欲しかったので、クロワとチーザに手伝ってもらっている。


「ハーベストさん、こちらの段ボールは開けますか?」

「あ、それは僕がやりますから大丈夫です!」


 衣類が入った段ボールを開けられそうになり、慌てて止める。

 粗方の力仕事が終わり、ふぅっと息を吐いた。


「ここまで手伝ってもらえれば充分です。あとは僕一人でやります」

「ならハーちゃん。アポちゃんの引っ越しを手伝ってあげて」

「わかってますよ」


 アポロはチームの手伝いを拒んだので、一人で荷ほどきをしているはずだ。

 ナックからも気にかけるよう言われているし、様子だけは見にいきたい。


「今日はありがとうございました。お礼は改めて」

「フッ、この程度は問題ありません。試合で返して頂ければ、と」

「じゃあハーちゃんまた明日!」


 帰る二人と一緒に部屋を出て、僕はアポロの部屋へ向かう。

 フロアを移動し、豪華なカーペットの廊下を進む。

 部屋の前では、アポロがキャメルと口論する様子が見えた。


「お二人ともどうしたのですか?」

「呼んでもいないのに、隊長ヅラしないでください。おばさんも帰ってください」

「ハーベスト、この頑固者の説得を手伝って」


 言われるままに前に出て、アポロと正面から向きあう。


「僕たちはアポロさんとも仲良くやりたいと思っているんです」

「必要ありません。試合ではキッチリ仕事をしますので。お引き取りを」


 取りつく島もない。

 アポロがドアを閉じるとき、独特な意匠のライダースーツが壁にかけてあるのが目に入る。

 目を奪われている間にドアは完全に閉じてしまった。


「どうすればアポロさんは心を開いてくれるのでしょう?」


 僕の呟きに苦笑いを浮かべたキャメルが、そっと肩に手をのせてくれた。


「焦らないこと。ハーベストはよくやっているから」

「ありがとうございます、キャメルさん」


 お礼を言いつつも、気になっていた話題に戻す。


「あのぅ……彼女の部屋にかけてあったスーツの意匠、見ました?」


 声は届いたはずなのに、キャメルは無言で歩きだす。


「キャメルさん?」

「……フィナンと同じ。あたしに言えることはそこまでね」


 キャメルとはそれで別れ、部屋に戻る途中でソルティに出くわす。


「おう、引っ越し祝いを持ってきたぜ」

「まだ片付けが終わってなくてですね」

「俺はんなの気にしねーぞ。早くしろよな」


 やんわり断ろうとしても、無理やり押し入られた。

 勝手に部屋を物色されていく。

 荷ほどき途中のグラスを見つけては、持ってきた酒を手酌するソルティ。


「もうちょい気の利いたグラスはねーんかよ?」

「どうせ僕は子供趣味ですよ。それ飲んだら帰ってくださいね」

「あ? そう言われたら俄然泊まりたくなってきたな!」


 帰る気のないソルティの説得を諦め、会話につきあうことにした。

 話の流れでアポロのことにも触れる。


「あのクソ新人をいい加減どうにかしろよ!」


 荷ほどきも終わらないのに、ソルティの愚痴は延々と続いた。

 夜が更けてきた頃にやっと帰ってくれて、一息つく。


「ふぅ、ちょっと星でも観にいこうかな」


 アポロのことを含め、課題が山積みだ。

 考えすぎても息が詰まるし、気分転換で選手宿舎の屋上へ向かう。

 トップリーグの宿舎屋上は、広大な緑化庭園となっている。


「競技フィールドとほぼ同じ面積って聞くし、楽しみ」


 弾む足どりで廊下を抜け、エレベーターで最上階へ。

 天体ドームの螺旋階段をのぼり、屋上への扉を開いた。


「うわぁ! すごい!」


 眼前に迫ってくるほどの星空が広がっていた。

 見上げているとその闇に吸いこまれそう。

 屋上庭園に灯りがないのもあって、星をとても近く感じる。


「第一恒星系でこんな満天の星を見れるなんて……」


 思わず漏れた独り言。

 それに反応するかのように奥の方で影が揺らいだ。


「どなたです?」


 真っ暗な庭園の奥から人影が近づいてくる。


「星たちが奏でる音なき旋律。耳を澄ませば宇宙からは潮騒すら聞こえんばかり。星が今まさに満潮となり、新たな船乗りたちを呼んでいる」

「もう、驚かせないでくださいよ」


 日記帳(ハンズ)を片手に現れたのはナック。

 これだけ感動的な光景は、さぞかしハンズ君との対話が弾んだのだろう。


 ナックが親指で示すベンチへ向かい、二人して腰かけた。

 しばらく静寂の時間が流れる。

 不思議と肩の力が抜けた。


「ハーベスト。何か悩みか?」

「ええ。チームのこととか色々と悩みが多くて。でも空を見てたら消えました」

「そうか」


 暗くてナックの表情はよく見えない。けれど、笑ってくれている気がした。


「迷いが出るようなら、極限まで体を酷使して頭を空っぽにするといい」


 考えすぎるナックらしいアドバイス。

 思考加速の強化兵士だからこその意見だろう。


「僕もハンズ君みたいなパートナーを見つけた方がいいですか?」

「それも一つの手だ。……それよりもアポロを頼む」


 そう言ってナックは立ちあがり、先に庭園を後にする。

 空席になったベンチの温もりへ手を添え、そっと微笑む。


「ふふっ。僕の悩みなんてお見通しじゃないですか」


 屋上を吹く風が肌を心地よく通り過ぎていった。


 翌日。


 早朝のランニングを終え、今日はトレーニングルームへ足を運ぶ。

 ベンチプレスのコーナーでは、クロワがトレーニングをしていたので声をかけようと近づく。


「おはようございます!」

「……ハーベストさん、驚かせないでくださいよ」


 クロワは細身なのに、120㎏の重りを持ちあげていた。

 トレーニング終わりを待って、クロワの二の腕に触れてみる。

 弾力がありつつも、意外と柔らかい肌の感触が手の中に広がっていく。


「クロワさんって結構鍛えているんですね」

「きゅ、急に触らないでください!」


 顔を真っ赤にしたクロワが、距離を取ってしきりに眼鏡を直す。


「私はまだまだです」

「そんなことないですよ。とても素敵な肉体だと思います」


 僕が近づくとクロワが後ずさる。

 無遠慮に触ったのは失敗だったかもしれない。

 汗を拭き終えたクロワが、隣のベンチプレスの重りを軽くノックした。


「選手ならこれをあげられるようにならないと」

「え!? 倍はありますよ? そんなのナックさんじゃないと無理だと思います」

「……ウェハーさんもできますよ」

「あー、なるほど」


 妙に納得した。

 何事もないような顔でトレーニングしている光景が目に浮かぶ。


「今日、ウェハーさんは入学式の付き添いですよね?」

「ええ。夕方には我々も入学祝いを届けなければなりませんよ」


 娘のシルゥと一緒の時間を大切にするウェハーだ。今頃はべったりなのだろう。

 クロワもそれを想像したのか小さな笑みを浮かべた。

 でも、僕の背後を見て、すぐに少年のような表情に変わっていく。


 振り返らなくても分かる。

 クロワがその表情を見せる相手は一人しかいないから。

 背後のナックにたずねる。


「僕もベンチプレス挑戦してみようかな? 何キロが良いと思います?」

「まずはダンベルから始めろ。重さよりも、適切なトレーニングを意識すべきだ」


 相変わらずの正論に、苦笑いしながら振り向く。


「これからトレーニングですか?」

「俺は終えたところだ。お前たちも30分以内のプロテイン摂取を忘れるな」

「はい!」


 クロワが元気よく返事をし、ナックはクロワの頭へ軽く手をのせた。

 そのまま二人は自動販売機のコーナーへ。


 談笑する様子を遠目に眺める。

 うかつに近づくとプロテインを勧めてくるので油断は禁物だ。


「体は鍛えたいけど、あの味は苦手……」


 自分にあうダンベルを探そうとした瞬間、土のう袋を投げ落としたかのような音が鳴り響く。

 続くクロワの叫び声が、鼓膜を激しく揺らす。


「ナックさん!」


 ナックが床に倒れ伏している。

 僕は反射的にナックの元へ駆けだす。


「ナックさん! いったい何が!?」

「救急車を! 誰か応急処置できるやつはいるか!?」


 他の選手も異変に気づき、救急や警察への連絡を始めた。

 青い顔をしたクロワが、ハッとした様子で転がっていたドリンクボトルを拾う。


「これを飲んでいたら倒れました。今すぐ成分を調べます」


 備えつけの成分判定機器へドリンクボトルの中身をいれるクロワ。

 僕はその間も必死にナックの背中をさすりながら、声をかけ続けた。


 ナックの身体は焼けるように熱くなっていて、小さな痙攣もみられる。

 呼吸が弱くなっていくナックの姿に、体の芯からの寒気を感じた。


「ナックさん! しっかりしてください!」


 寒さに抗い、大声をあげ続ける。そこへ差しこむクロワの呟き。


「最悪だ。即効型の毒です」


 その単語が耳に纏わりついて離れてくれなかった。

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i1071624
― 新着の感想 ―
アポロがみんなと距離を取りたがる原因は……強化兵士であることなのかな…… なんだか庭園でのナックが一瞬別作品ですけどTKGを思い出してしまいましたww えっ!! ナックが飲んでいたプロテインに毒が…
 お邪魔しています。  引っ越し、荷ほどきと日常生活場面で、すこしほっこり読んでました。日常生活の場面がとてもよく浮かびました。何気ない会話も、平穏な日常でいいなあと思ったら…………え? 毒? 何が…
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