第四十三話 MVPと孤立
粘るスーパーノヴァには苦戦をしいられたけど、冒頭で得た点差をキープして勝利を収めた。
翌日には、再び大部屋を貸し切ってのデブリーフィング。
「では試合のふりかえりを行いますよ。ナックさんお願いします」
「心得た」
資料や分析ポイントは、ナックが分かりやすくまとめてくれている。
「序盤、中盤、終盤で各自の評価点と課題ポイントを確認しておけ。MVPはウェハーだな。次点でハーベストだ」
ウェハーは冒頭の誘い後の攻撃でも活躍し、最少失点の貢献でもチームに成果をもたらしてくれた。
敵視点の映像では、フィールドを広く使って動き回り、捉えきれない。
ウェハーの射撃は少なめだが、撃つそぶりだけで敵の動きを釣りだした。
一見、無害そうな位置取りにも見えるのに、敵が勝手にミスしていく。
クロワが悔しげに眼鏡を直す。
「評価は納得できます。ハーベストさんが私よりも上というのも含めて」
クロワは、落下矯正の連携攻撃では2回も赤の獲得に貢献した。
けれど、彼自身も赤に撃墜されている。
僕はクロワに向けてニッと笑う。
「フッフッフ。僕は自らダウンを選びましたからね」
「ハーベスト、撃墜されたのを、んな自慢するように言うんじゃねーよ!」
即座にソルティから茶々が飛ぶも、ナックがべた褒めした事実は変わらない。
評価されたのは、5機の猛攻を凌ぎ切ったことより自らダウンを選んだ判断だ。
モニターには地表スレスレの攻防。
低空戦を嫌って連携を悪くした敵を、キャメルが強襲する映像が流れる。
僕が高度を下げたのは撃墜を減らすためだけど、皆が高く評価してくれているし自信満々の顔だけしておこう。
称賛が一頻り続いた後、ナックが片眉をあげる。
「何か不満かアポロ?」
「なぜ自分が最低評価なのですか? 活躍できなかったのはFFのせいです」
アポロが般若のような形相でナックを睨む。
さらりと受け流すナックは、興味なさげに反対側の首筋を掻いた。
「寧ろあの動きで評価をもらえる感覚が理解できないな。指揮の無視、連携の阻害、援護の放棄、マイナス点にならなかっただけマシだと思うが?」
「納得しかねますので、自分は先に切りあげさせて頂きます」
呼び止めることも叶わず、アポロが部屋を出ていく。
彼女から感じる拒絶の空気は、単なるプライドの高さだけではない気がして、どのように接すれば良いのか分からない。
ソルティがわざとらしく大きな伸びをし、椅子に体を預け直した。
「ほっとけほっとけ! あのクソ新人には一人で頭を冷やす時間が必要だろーぜ」
「同感だ。あまり気にするなハーベスト」
「……わかりました」
その後は淡々と試合の確認をして終了。
会議の反応から、皆も少なからずアポロに思うところがあるようだ。
でも、アポロを擁護したくなる気持ちもある。
敵味方、観客さえも、ナックと比べて観てしまっている。
見劣りしてしまうのは避けられないし、彼女もそれは理解していると思う。
瞳には「存在を証明してやる」という野心が垣間見えた。
アポロのこともあり、部屋の中では息苦しさを感じてしまう。
なので気分転換を兼ね、ホテルから抜けだして観光スポットへ足を運んだ。
夕暮れどきの暖かな色合いが景色を包む。
ここに来ると、地元に戻ってきたと実感する。
木の香りが心地よく、春らしい風が肌を撫でた。
「んー、やっぱりリーダーって難しいや」
「おや、ライジングサン。こんなところで奇遇だね」
声に振り向くと、金髪のトサカヘアが目に入る。
「フィナンさんでしたよね? どうしてここに?」
「ここは私にとっても第二の故郷だからね。昨日の試合を観たけど……凄かった。あのナックさんが褒めるわけだよ」
褒められた嬉しさから体のこわばりが抜け、どうにか笑みを浮かべられた。
「フッフッフ。ナックさんが僕のことを一番よく見てくれてますから!」
「無理にカラ元気を作らなくてもいいよ。あれだけの選手に囲まれてリーダーをやるのはプレッシャーだろう?」
さすがは年長者。見抜かれている。
「私は強化兵士の中でも落ちこぼれの方でね。同期で一般兵のウェハーにもずいぶんと嫉妬したものさ」
「わかります。ウェハーさんは強化兵士なんじゃないかってくらい凄いんで」
「ハハハ! 違いない!」
共通の話題で少しずつわだかまりが解けていく。
思い切って聞きたかったことをたずねてみた。
「あの、2つだけ質問してもいいですか?」
「別に数を絞らなくても答えるけど、なんだい?」
笑顔で返してくれたことに安堵しつつ、僕は表情を引き締める。
「チームに戻ってくるつもりはないんですか?」
「……ソルティさんだけじゃなく、君にまで言われるとは思わなかったな」
ソルティが誘ったのは容易に想像できる。
仲間想いの彼女のことだ。きっと熱烈に口説いたのだろう。
じっと見つめて答えを待つと、所在なさげに頬を掻くフィナン。
「今、私がマドレーと名乗っていることからも分かるだろう? まだ戻れる状況にはないよ」
そうだった。
偽名を使っているということは、政府からまだ追われているということ。
僕は唇を引き結び、俯いてしまう。
「君のその様子から察するに、2つ目の質問もそれ関連かい?」
心臓が跳ね、深く息を吐く。
「そうです。アカ……いえ、プロミネンスの人のことについて聞きたくて」
フィナンはすぐに答えず、近くにあった木を背もたれにして腕を組んだ。
「何があっても驚かないと約束してくれるかい?」
言葉に引っかかりを覚えつつ、コクリと頷く。
フィナンが目と口を閉じた瞬間、頭の中に直接声が響いてきた。
『これは私の特殊能力でね。口外できないから直接でやりとりさせてもらうよ』
驚いた。
これほど便利な能力があったなら、選手を辞めても引っぱりだこだろう。
『凄いです。強化兵士の人は誰でも使えるんですか?』
『おや? 3つ目の質問かい? 答えはノーだね。私を含め3人しかいない。本題に戻そう。アカトは生きている。でも所在はアイビスしか知らない』
情報を得られたことで全身の筋肉が弛緩し、その場にへたりこむ。
生きていてくれたことに涙腺まで緩んでしまった。
「おいおい、いきなり泣かれたら私が何かしたみたいに見られるだろう? とにかく私は何もしていないし、何も知らない。いいね?」
差しだされたフィナンの手を取り、僕は力強く頷いた。
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あれからすぐに移動し、夜が深まる前にホテルへと戻る。
ベテラン組とチーザは、フィナンと一緒に食事へ向かったので、僕はホテルで留守番だった。
彼らは積もる話もあるだろうし、今の僕には入りこむ余地がない。
けれど、部屋でアポロと二人きりは気が滅入るので、クロワを誘ってラウンジバーへ向かった。
最上階にあるラウンジバー。
照明をかなり絞ってあり、夜景がより映えるようになっていて、流れるジャズも緩やかな時間を演出してくれている。
大人びた雰囲気の中で、未成年二人なのは少し緊張する。
控えめな白髭を携えたマスターが、メニューを差し出してくれた。
「何になさいますか? ノンアルコールカクテルも取り揃えておりますので、お気軽にお申しつけください」
「私はあまり甘くないものでオススメをください」
「僕は思いっきり甘くて美味しいのがいいです!」
一礼したマスターが準備を始める。
それを横目にクロワへ話題を振った。
「……生きているそうです。僕らの頑張りは無駄じゃなかったみたいですよ」
「当然かと。あの人がそれほど簡単に害されるとは思えませんし、私としてもそれでは拍子抜けですので」
クロワの雰囲気が和らいでいく。
「それにナックさんが悲しみます。私のヒーローが悲しむ姿はみたくありません」
眼鏡を直しながら答えるクロワは、照れているのか顔を赤らめている。
素直に無事を喜べばいいのに、クロワらしい。
「そちらよりもアポロさんの方が問題ですよ。リーダーとしてハーベストさんからも強めに言ってください」
「こんなときだけリーダーと言うのは卑怯ですね」
ムッとした僕がそっぽを向くタイミングにあわせ、マスターがカクテルを差し出してくれた。
「若い恋人たちへ贈る私からの心遣いです」
「恋人ではありません!」
「ハーベストさん、大声を出さないでください。このような店では浮いてしまいます」
クロワから窘められ、慌てて口を噤んで取り繕う。
カクテルグラスに注がれたライムグリーン色の飲み物をしばらく眺め、鼻先に寄せてみた。
バナナの香りがとても華やか。
少しドロリとしたそれを口へ傾けてみる。予想よりも軽い口当たりだった。
「おいしい。これ、バナナとメロンですか?」
「はい。お二人の髪色にあわせてみました」
オーダー通りの甘くて美味しいカクテルで、嫌なことが全部吹っ飛ぶ味だ。
隣のクロワも目を輝かせ、透明なブルーのカクテルを手にとって眺めている。
「次の試合はこのカクテルの色みたく、クリアな内容にしたいですね」
「フッフッフ。期待してますからね。最強のバックスさん」
お互いに不敵な笑みを浮かべ、軽やかな音を立ててグラスを重ねあった。
※詳しく知りたい人向けの情報です。読み飛ばしても本編に影響はありません。
───用語説明・補足解説:
作中に出てきたノンアルコールカクテルのイメージレシピです。
・水色のノンアルコールカクテル
バタフライピーティー(100ml)
トニックウォーター(130ml)
ブラックチェリー(一粒をグラスに沈める)
ブルーキュラソーシロップ(20ml)
レモンピール(グラスに挿して飾る)
ミント(1枚)
・ライムグリーン色のノンアルコールカクテル
メロンソーダ(100ml)
バナナスムージー(70ml 完熟の果肉のみを使用)
飲むヨーグルト(40ml)
メロンシロップ(20ml)
蜂蜜(20ml)
バナナエッセンス(少量)
※どちらも250mlのピルスナーグラスに注いでいます。





