第四十話 元エクリプスメンバー
母の墓前で祈りを捧げた帰り道。
ナックの要望を受け、オススメの散歩コースを紹介していた。
「フッフッフ。ここが一番オススメのスポット──きこりのぬけみちですよ」
「これは見事だな」
「さっすが田舎は大自然くらいしか見どころがねーな!」
木々の太い幹たちが大きなアーチを描き、樹木のトンネルが5㎞も続く。
とっておきの映えスポットだ。
微かな木漏れ日。
まだ肌寒さの残る風も木々に遮られ、守られている感覚すらある。
「確かにこれは凄い。チーザが見たなら、大はしゃぎだろう」
「俺は景色なんかより旨いもんがくいてーぜ。あいつらも呼んで、どっか肉くえるところで落ちあおうぜ!」
我がままな提案には苦笑い。
ナックと肩を竦めあい、皆を呼ぶことにした。
全員と合流。
竹素材の作りが印象的な大衆居酒屋へ。
独特の懐かしさに頬が緩む。
手を広げ、鼻高々に紹介する。
「ここが地元民に大人気のお店ですよ」
「屋根も竹なのは珍しい作りだな」
「なんだかチーズくせぇ~店じゃねーか?」
ナックが天井で回る羽根を見上げ、ソルティはわざとらしく鼻をつまむ。
常連客と思わしき数名から鋭い視線を向けられつつ、テーブルへ向かった。
席につくなり定番メニューを注文。
しばらくすると前菜やカトラリーが運ばれてくる。
「こりゃなんだ? なんに使うんだ?」
「チーズを削って肉にかけるんです。ほら、食べ放題のチーズが来ましたよ」
「あ! 先輩の好きなチーズもあるみたいですよ!」
ヘラのようなチーズスライサーと5種類のチーズが並び、チェダーチーズを見たナックの表情も綻ぶ。
僕はテーブルに拳を隠しつつガッツポーズ。
チーザも僕に向けて小さくサムズアップしてくれた。
鉄板皿や熱々の焼き石がジュウジュウといった音を奏でる。
湯気からはたっぷりチーズの香りを堪能でき、汗だくだけれど食は進む。
チーズやソースの味変をしながらの肉料理。
かなりの満腹感を得ていたところへ集団から声がかけられた。
「ハーベストじゃんか! セブンスカイズ観たぜ! 優勝おめでとう!」
「久しぶり! 開幕戦はキプロスでやるから観に来てよ」
「無理無理。チケットは半年分の稼ぎなんだぜ? ストリームで観るからさ」
「知りあいか?」
ナックに問われ、小さく頷く。
皆は無言で食事を再開したので、会話を譲ってくれたのだろう。
僕はフォークをテーブルへ置き、幼馴染たちに向き直った。
「そっちは元気してた? おばさんもまだ相変わらずかな?」
「元気も元気。母ちゃんは口を縫いつけたいと毎日思ってるよ。仕事はな、新しく来たマドレーって人が親切にしてくれて、良い稼ぎ先も紹介してくれるんだよ」
「あぁ、すっげー稼ぎがいいんだぜ! そりゃセブンスカイズの選手ほどじゃないけどさ。これでチビたちにも腹いっぱい食わせてやれるって皆、大助かりさ」
自慢げに語る幼馴染たちに一抹の不安を感じる。
「その人って大丈夫なの? 騙されてたりしない?」
「んなわけねーじゃん。顔に無数の傷があったり、背中に白い羽の入れ墨があったりしてぱっと見はこえ~男の人だけどさ」
「そうそう。めっちゃいい人だよ。サーフィンが上手くってさ。色々と教えてくれたし、優しいんだよ!」
「それよりもハーベストの方こそ例の死神さんと結婚できそうなのか? お嫁さんになりたいって言ってたじゃねーか」
最悪なカミングアウトに慌てて席を立ちあがり、うっかりな彼の口を塞いだ。
そろりとナックの顔をうかがうと、驚愕の表情をしている。
ナックが嫌いな異名を聞かせてしまった申し訳なさもあり、謝ろうとしたら手で制された。
幼馴染に詰め寄るナック。
「その男は金髪で、瞳はオレンジレッドか?」
「なんだよ知りあいか? そうだぜ!」
「マジかよ!? そこん坊主たち! 案内してくれ頼む!」
ソルティまでもが勢いよく立ちあがり、興奮も隠せていない。
クロワとアポロ以外は、信じられないものを見るような表情。
「皆さん、落ちついてください。他のお客様に迷惑になりますよ」
「自分は食事を終えましたし、先にホテルへ帰ります」
アポロが帰ってしまうのを誰も止められなかった。
我に返ったキャメルが、手早く帰り支度をする。
「女の一人歩きは危ないから、あたいがアポロを送っていく」
ナックがクロワへ目配せをし、クロワは眼鏡を直しつつ立ちあがった。
「フッ、それを言ったらキャメルさんもですよ。私がお二人をエスコートしましょう」
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なぜか二手に別れ、強引なソルティに押し切られる形で「新しく現れた人」に会いにいくことになった。
「ソルティさん、なんで案内させるんですか? その……禁句を口にした彼らにはキツく言っておくので」
「ん? いや、事情しらねーヤツをいきなり殴ることなんざしねーぞ? それにその詐欺師みてーなのがどんな男か気になんだろ?」
「僕は別に。皆さんはどうですか?」
ぐるりと皆を見回しても、なんとも言えない表情で口を閉ざしている。
やはり、禁句の「死神」を口にした幼馴染たちに憤りを感じているのだろうか。
そうしたモヤモヤを抱えたまま、工事現場へ辿りつく。
そこでは人型装甲機兵が土木作業をしていた。
「暴言王さんたち、作業が終わるまで待ってくれよな」
「1機空きがあるな。ハーベスト、腹ごなしにプロとしての手本を見せてやれ」
ナックが現場の端で佇む無人機を目ざとく見つけ、親指で指し示す。
手本を見せろと言われた手前、ここで辞退することなんてできない。
それに、幼馴染にもいいところを見せたかった。
「任せてください。僕がパパっと片付けちゃいますよ」
起動キーを借りてモービルギアへ乗りこむ。
どこか土の匂いのする操縦席。
操作パネルにもなじみのないつまみが並ぶ。
点検をしていると、嫌でも無数のセーフティロックが目についた。
「これ、軍事用だ」
土木用モービルギアかと思ったら、塗装して似せているだけだった。
どこから入手したのか、政府は知っているのか。
様々な疑問が浮かぶも、ひとまずは作業を終わらせるべく操縦桿を動かす。
「ハーベスト、すっげーじゃん!」
「さっすがセブンスカイズのトップリーグ選手だよな!」
「ハハハ! おら、ハーベスト! 期待されてんぞ? ちったぁサービスしてやれ!」
称賛の声に紛れ、ソルティの茶々まで聞こえるけど無視して作業を急ぐ。
作業する中で、やたら動きが洗練されている機体から目が離せない。
「操縦に無駄がないし、元選手とかかな?」
引退した選手が、土木作業や開拓工事でモービルギアを扱うのはよくあること。
けれど、やや挑発じみた動きで僕をからかうように作業しているのが気になる。
今も作業するのは、パーソナルスペースを潰した至近距離。
「そんな安い誘いにはかかりませんよ……おおっとー!?」
何度目かの木材の荷下ろしの際、いきなり殴りかかってきた。
すかさず僕は脚部のスタンスを広げ、低く屈むことで鉄拳を躱す。
土煙があがり、積んであった木材も音を立てて崩れていく。
その音に紛れてオープン回線が開かれた。
『エクセレント!』
「どなたです?」
目の前の機体のピットカバーが開き、金髪の男が笑みを見せる。
彼が先にコクピットを降り始めたので、僕も追うように地上へ降りる。
「君が噂のライジングサンか。ナックさんやソルティさんが教えこんだだけはあるな」
「えっと、お二人のお知りあいですか?」
急いで振り返ると、驚愕の表情をしたメンバーの顔が並んでいた。
「おいおい、嘘だろ? フィナン! お前、生きてたんか!」
「フィナン、今までどうしていたのだ? どうやって政府の手から逃れた?」
「生きてたんすね……本当に良かった。娘も大きくなったんですよ。是非、会ってやってくだせぇ」
ソルティ、ナック、ウェハーのベテラン組が相好を崩す。
三人の瞳には光るものが見えた。
会話の流れ的に元エクリプスメンバーの強化兵士かも知れない。
「もしかして、元メンバーの方ですか?」
双方の顔色をうかがい、落ちつかずキョロキョロとしてしまう。
「あぁ、フィナンはな……」
「ナックさん。今はマドレーと名前を変えています。戸籍もそっちになっているんですよ。全部、アイビスが用意してくれて」
経緯を言い終える前にソルティが満面の笑顔で肩を組んだ。
「いや、そんなこたぁどーでもいいんだよ! とにかく生きてたんならいいんだ! 俺は嬉しいぜ!」
面識のない古参メンバーの登場に、何かがチクリと胸を刺す。
ナックが優しげに話している様子を見て、知らずに握りしめた拳。
爪が掌に強く刺さり、痛みで顔が歪む。
あんな穏やかな笑顔を見せてくれたことはない。
少しは近づいたと思ったのに、まだこんなにも離れていたと痛感させられた。
「どうした? ハーベスト。フィナンは凄腕のチェイサーでな、ウェハーと共にエクリプスの両翼を……」
そう言葉をかけられた瞬間、僕の中で何かが弾けた。
体中が沸騰したかの如く熱くなり、我慢しきれずに大声でナックの言葉を遮る。
「エクリプスの両翼はウェハーさんとチーザさんです! 他の人に入る余地なんかありませんから!」
言い終えて見渡すと、言葉を失っている皆の視線が痛い。
誰からも責められないことで、僕だけが場違いな感覚を受けてしまう。
その雰囲気に耐え切れず、僕はその場から逃げるように走り去った。





