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競技セブンスカイズ〜負ければ廃棄、勝ち続けて優勝を目指す〜  作者: 元毛玉
第二部 円環

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第三十六話 誕生日と新しい約束

「ソルティ、モンド、ひとまず落ちつけ」


 ナックが二人を引き剥がす。

 ソルティはまだ興奮したままだが、死蝶は興味をなくしたのか襟を正した。


「モンド、何があった?」

「ライジングサンにでも聞いたらどうだ?」


 サングラスゴーグルで目の表情が分からないナックがこちらを向く。


「と、言うことらしいがハーベスト、知っていることを話せ」

「僕にも何が何だか分かりませんよ。ヨーグさんって人の話題になったら急に」

「なるほど。サマルカンド星域会戦のことか」


 ナックはそれだけを呟き、わずかに肩を落とした。

 サマルカンド星域会戦は、入隊前に勉強したから僕にも少しは分かる。


 僕が生まれる前の大規模な敗戦。

 政府発表では大勝利となっているが、公式記録にはない死者たちが多くを語る。


 星の数ほどの強化兵士たちの亡骸の上に、どうにか撤退を成功させたのが実態。

 殺意すら孕むソルティが、死蝶を鋭く睨む。


「ヨーグが死ぬことはなかったはずだ! お前が殺したも同然だろぉが!」

「あぁそうだ。ヨーグが自らの意志で血路を開いてくれた。涙を流して感謝すれば満足か?」

「てめぇぇぇえ!」


 僕の全力の制止では止まらず、ソルティが飛びかかろうとするも、ナックが両肩を押さえつけて止めた。


「ソルティ。心情は分かるが、報復は空で行え。モンド、お前もお前だ。ここで騒動を起こしたくはないだろう? 今の内に去れ」

「ふん。そんな過去の亡霊につきあうのは時間の無駄だ。ナックも早くそいつを見限ってイカロスに来い」


 不敵な足音を鳴らして去っていく死蝶。

 通路に反響するその音が、やけに寂しく聞こえた。



 ───────────────────



 翌朝。

 早朝のランニングをしながら、昨日のことを思い返す。


 あれから終日、ナックがつき添ってソルティを宥めていた。

 知らないことが多く、胸の中がモヤモヤする。


「次こそ思い切って聞いてみようっと」


 気分を変えたくて、海岸沿いの国道まで足を伸ばす。

 ナックいきつけの海辺にあるカフェ。

 ウッドデッキのテラス席にナックを見つけ、こっそりと近づいた。

 何やら書き物をしている背後から声をかける。


「おはようございます! 何をしているんですか?」

「ハーベストか。今朝、美しいサザンカを見かけたからハンズと対話をしていたところだ」

「今度のハンズくんもだいぶ埋まってますね」


 ナックは日記帳にも名前をつけていて、友人のように呼ぶ。

 思考加速の臨界領域(コンテンプレーション)の能力で暇を持て余したナックは、日記を用い、自分自身との対話で折りあいをつけていたそうだ。

 ナックが目を閉じる。


「街角に訪れ、垣根を彩る妖精たち。冬の息吹にも気高く立ち向かうその姿は、困難に立ち向かうひたむきさを輝かせる。あのように気高くありたいものだ」

「とっても綺麗だったんですね」


 今なら聞けそうに思え、意を決してたずねてみる。


「ところで、先日の死蝶さんとの揉めごとで話題になった『ヨーグ』って人のことを聞いてもいいですか?」


 ナックが日記帳を閉じ、こちらへ向き直った。


「俺が知っているのは13隊のことと、54隊のあの事件のことくらいだ」

「あの事件ってのが、サマルカンド星域会戦ですか?」

「そうだ。大規模な撤退戦になり、モンドが隊長を務める54隊はしんがりを務めていた。事実上は政府から切り捨てられた訳だな。だが、一部の仲間を切り捨ててモンドは生き延びた」


 ナックは視線を落とす。


「その切り捨てた中にヨーグという男がいた。ソルティとは、姉弟のような関係だったと聞いている」

「どんな方だったんですか?」

「俺も詳しくは知らん。ソルティにでも聞いたらどうだ?」


 なんて恐ろしい提案をするのだろうか。

 僕は両手を突きだして何度も横に振る。


「無理です! ソルティさんにこんな話題ふったら、僕が酷い目にあいますよ!」

「なら、ウェハーに聞け」

「ウェハーさんに?」


 ナックは手早くテーブルを片づけて席をたつ。


「ヨーグとウェハーは13隊で一緒だった。その繋がりで、ソルティがウェハーをエクリプスに引きこんだのだからな」

「え!? ナックさんとウェハーさんは終戦後に知りあったんですか?」

「言ってなかったか?」


 ナックは僕の肩に軽く手を置き、そのまま通り過ぎてしまう。

 慌てて振り返り、僕もナックの背を追いかけた。



 ───────────────────



 あれから数日が経った。

 演習終わりにガレージで円陣を組み、連絡事項を伝えていく。


 今日はウェハーの娘の誕生日会。

 どこかのタイミングで過去のことも聞けそうだと胸を弾ませる。


「今日の訓練は終わりです。各自メンテナンス後にウェハーさん宅に集合してください!」

「おー!」

「フッ、最高のケーキを手配しています。期待していてください」


 チーザとクロワの声に続き、ベテラン組も笑顔で頷いている。

 機嫌が直ったソルティの様子に胸を撫でおろす。

 だけど、まだ安心できない材料が残っていた。


「アポロさん、時間厳守ですよ? 分かっていますか?」


 これ見よがしに溜め息をつくアポロ。


「関係ない業務ですよね? しかも時間外労働です。自分が参加する理由が見当たりません」


 反論しようと口を開きかけたら、アポロには手で制される。


「そもそも。エキシビションで負けを喫したのに、このような催し物をやる意味が分かりません」


 僕が言葉に詰まると、代わりにナックが息を吐く。


「エキシビションマッチで勝って祝勝会といきたかったが……次の決起会という形ではどうだ? それに、誕生日は動かせないからな」

「アポちゃん! そんな空気読まないようじゃソルティさん以下になっちゃうよ! 強制参加だから!」


 チーザが勢いよくフォローしてくれているが、別のところに飛び火した。

 キャメルが金髪の暴れ馬を必死に宥めている。

 アポロは不愉快そうに眉を寄せた。


「いいかげん、その不快な呼び名をやめて頂けませんか? アホと言われているみたいで気分が悪いです」

「え? 可愛いでしょ、アポちゃんは! アポちゃんはアポちゃんだよ!」


 あのモードに入ったチーザには、論理的な言葉は通じない。

 エクリプスのメンバーは全員が通った道だ。

 しばらく問答が続いたが、いかにアポロでも論破することはできなかった。


「話が通じなさすぎますね。付きあってられません。自分はお先に失礼します」

「アポちゃん、逃げない!」

「待てチーザ、無理に誘っても逆効果だ。来年までに時間をかけて説得しろ」


 そそくさと辞するアポロには目もくれず、チーザは笑顔でナックに向き直る。


「そういうことなら先輩も一緒に説得する要員に任じてしんぜよー」

「分かった分かった。だから落ちつけ」


 チーザは「言質をとった」と言わんばかりに目を輝かせる。

 ソルティも、他のメンバーも穏やかな笑みを浮かべている。


 ナックが自ら未来の約束を作ったことが、そうさせていた。

 僕は両手を掲げ、強く2回手を叩く。


「はいはい皆さん。ゆっくりしている暇はありませんよ。今日は最高の誕生日パーティーにしてあげましょうね!」


 そうしてあれこれ準備をして、駐車場に再び集まった。

 チーザとキャメルの車に別れて乗りこみ、ウェハーの自宅へ。


 ウェハーは選手宿舎ではなく、娘の学校近くに一軒家を借りていた。

 上京してから初めてウェハー宅へ訪問するので、僕の心も踊る。


「キャメルさん、もっと急ぎましょうよ」

「そう? じゃあもっと飛ばす?」

「いーや安全運転にしろ。酒の前に酔っては敵わねー」


 大量のプレゼントを抱え、沈みゆく太陽との競争のドライブは続いた。

 完全に暗くなる前にどうにか目的地へと辿りつく。


 閑静な住宅街の外れ。

 二階建ての一軒家のところにウェハーの愛車が見えた。


 チーザの車が先に駐車をすませ、続いてキャメルも車を停める。

 ソルティが真っ先に出て、玄関口に現れたウェハーに手を振る。


「おう、ウェハー。今日は飲み明かそうぜ!」

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i1071624
― 新着の感想 ―
モンドとソルティの確執の原因は戦争の時の仲間の死……あれ、ウェハーも関わっていたんですね。 そういえばウェハーの娘って何気に初登場になるのかな?♪ クロワの最高のケーキどんなんだろう〜?(*^^*…
 お邪魔しています。  過去の出来事や経緯って、実は今の自分を作っている大切な要因なんですよね。今回、メンバーのそいう大切な部分が描かれいるのは、とってもいいとですね。空でのバトルが、とても深みを感…
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