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競技セブンスカイズ〜負ければ廃棄、勝ち続けて優勝を目指す〜  作者: 元毛玉
第二部 円環

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第三十四話 二人の初陣

 ソルティがアポロとの一騎打ちで敗れ、荒れた雰囲気のままイカロス戦の当日を迎えてしまう。


 今も控室はピリついた空気。

 サングラスゴーグルをつけたナックが、僕の肩を軽く叩いた。


「ハーベスト、リーダーとしての初陣だ。当面はチーザに指揮を任せつつ、リーダーとしての動きや心構えを身につけてゆけ」

「了解ですよ。任せてください」


 それだけを返し、僕はソルティへ向き直る。

 怒気を含む顔芸で、声なき暴言を繰り返しているソルティ。

 僕はことさら明るく振るまった。


「おやおやぁ? 律儀に黙れってアポロさんとの約束を守っているんですね。今日はソルティさんの働きを期待していますから、頼みますよ!」

「後ろにいる監督気取りのゴーグル野郎に、眩しいから外しやがれと言っとけ」

「そんなボソボソと僕に言わないで、本人に直接伝えてくださいね」


 ゴーグルが視力低下を隠すための物だとは気づいていないのだろう。

 付きあいすぎてボロが出るのを避けるため、アポロへと足を向ける。


「今日が初陣ですね。気負わなくて良いので、僕に任せてください」


 精神統一でもしているのだろうか。

 アポロは目を閉じたまま動かない。


「アポロさん、聞こえていますか?」

「一度勝ったくらいで上から目線なのはどうかと」

「そっくりそのまま返しますよ。ソルティさんとも仲良くしてくださいね」


 ソルティに勝ったアポロの増長が酷かったので、僕が一騎打ちをして勝った。

 ナックからの「自滅させてやれ」のアドバイスがなかったら、僕も危なかったかも知れない。


 同時に、彼女の欠点も浮き彫りになった。

 アポロは相手を圧倒して勝とうとする癖がある。


 自信の裏返しだろうけど、トップリーグの猛者が相手だとキツイと思う。

 アポロから離れて脇に寄る。


「もうちょっと、力を抜けばいいのに」


 声を落として零すと、壁を背もたれにしていたクロワが歩み寄ってきた。


「今、彼女に正論を言っても無駄でしょう。それに、誰しもがハーベストさんみたいに『なるべくラクして勝つ』をできる訳ではありませんよ」

「え? どうしてですか? 楽をした方が勝ちやすいじゃないですか?」


 クロワは「フッ」とだけいって答えてくれないし、答えてくれそうなチーザやキャメルへ視線を向けても、苦笑いで返されるだけだった。

 軽く首を傾げ、ナックの方に向き直る。


「僕、間違っていますか?」

「安心しろ。俺も楽をして勝つ派だ。そろそろ時間だから動け。俺はメカニックスタッフ席で観戦する。朗報を待っているぞ」

「はいっ!」


 そうして控室を出て、いつものハンガーへ。

 だけど、ナックとソルティのいつもの軽口がそこにはなく、物悲しさがある。


 乗りこんでピットカバーを閉じれば、僕と愛機(タート)だけの世界。

 慣れ親しんだ操縦席(シート)の匂い。


 緑色の機体にネオンラインの輝きが走る。

 駆動音がピッチをあげ、人型装甲機兵(モービルギア)のシート越しに伝わる鼓動(ビート)が全身を包む。


「さぁ、いくよタート」



 ───────────────────



「チームエクリプス、日食の時間です!」

『その手に野望を! 空の限界を超えろ! 飛べイカロス!』



《3、2、1……Break (試合)the sky(開始)!!》



 両チームのかけ声を合図に、14機が一斉に動きだす。

 縦に大きく広がりつつ、旋回軌道へ。

 開始直前に仕掛けられたトラッシュトークは、全て無視してやり過ごした。


 今のエクリプスがガタガタなのを悟らせない方針。

 死蝶からの再三の挑発に、ソルティが沈黙を貫いたのは意外だった。

 なのに──。


『ソルティ先輩! 戻って!』

『あ? 俺の動きにあわせろチーザ! モンド、望み通りぶっ殺してやる!』


 何のことはない。静かにキレていただけだ。

 チーザの指揮を無視して突撃していったソルティ。

 これ以上、敵に有利な情報を流せないから、敢えての演技を行う。


「さっそく切り札プランでいくんですねソルティさん。チームエクリプス、バブル作戦(・・・・・)でいきましょう!」

『あいよ!』

『え? ハーちゃ……りょ、了解!』


 即興(アドリブ)のハッタリを仕掛けた。

 聞き返そうとしたチーザに、ウェハーが機転を利かせて大声を被せてくれて、正直ホッとしたところ。

 でも、空気を読まない人がいるのを忘れていた。


『なんですそれは? 事前のプランにありません。まともな指揮をください』

『サービスたっぷりの新入り、いいねぇ!』

『ブラフかましても無駄だぜ。悪いな!』


 アポロが色々と台無しにしてしまい、目眩を起こしそう。

 至近で爆発したグレネードを迂回し、群がる猟犬たち(マイクロミサイル)を捌いて上空へ。


『D2、E3、プレス続行』

『アンチウェポンに仕事はさせねぇよ! 廃業しとけ!』


 イカロスの中核を成す緑色のチェイサー。

 暗号指示(フレーズ)の内容は分からないが、先ほどからクロワの射線が、紫の番人(ルーラー)に通らない位置取りを続けている。


 イカロスは何かしらのコンタクトでタイミングをあわせ、ルーラーが実弾をばら撒くときだけ、クロワの射線をキッチリ防いでいた。

 最強の槍が手元に縫いつけられ、法の支配が纏わりついて息苦しい。


 まるで深海の底。

 もがくほどに体躯が重く、絡めとられていく。


『方向感覚が狂います! 何なんだこれは?』

『アポロ、惑わされないで。ルーラーの手品だから!』


 キャメルがアポロの救援に向かった。

 初めてのイカロス戦で手玉にとられるアポロ。


 光と音を完全支配するルーラー。

 相変わらずの圧倒的な強さに、背筋が凍りつく。


『キャメル! お前もプロミネンスみたく陥落してろ!』

死蝶(モンド)、ストーカーは嫌われるよ!』

『褒め言葉か!? 墜ちるまでモスキートランデブーしてやろう!』


 キャメルと死蝶の桃色と金色が捻じれあう。

 無数に爆ぜるグレネードが、すずらんのように連なって咲き乱れる。


 フィールドの反対側も激しさを増す。

 無秩序に暴れるソルティは、ルーラーの秩序の檻に囚われて、いつもの持ち味が消されている。

 逃げ惑うその背後には、焦げ臭さを思わす黒煙と、カメラを揺らす爆音が連なる。


『このムッツリが! 背後にパラパラと炒飯バラ撒くんじゃねーよ!』

「ソルティさん、飛ばしすぎです!」


 目に映る灼熱、音しか届かない恐怖。

 その全てで感覚が狂わされていく。

 普段通りの動きをできているのはチーザしかいない。


「チーザさん! キャメルさんをキーパーと想定した指揮に切りかえて!」

『了解!』


 手の内がバレるとか言っていられない。チーザも即応してくれた。

 エクリプスの3枚のアタッカー陣。


 その内の2機が、チームを無視した勝手な動きをしているのだ。

 崩壊寸前の最前線を支えるのは、桃色の機影(キャメル)。墜とさせはしない。


「さぁ、これで僕の守りはゼロですよ! これでも僕を狙わないんですか!?」

『上等だ! のってやる! お前ら横薙ぎだ!』


 5つの飛行機雲が横一列に揃いだす。

 イカロスのアタッカーとチェイサー全機投入した横ライン。

 一人で捌けたなら、ナックに肩を並べたと言える。


 フィールドに幅広く展開し、眼前に迫る5倍の敵。

 自らを鼓舞して高らかに吠えた。


『太陽に近づく羽虫の皆さん! 今日も黒こげですよ!』

『太陽らしく赤に沈めてやる! モンドさんご武運を!』


 巨大な大鉈が眼前に迫り、モービルギアの振動なのか、僕自身の怯えなのか分からないほどの震えが包む。

 無謀かも知れない。だが、ナックなら同じ選択をしたはずだ。


「濃紺&紫色のポンコツさんたち! フォローをお願いしますね!」

『あ? 誰がポンコツだぁ!?』

受諾(コピー)。自分が左翼を受け持つ』


 狙いは横薙ぎ中央の敵チェイサー。両翼が殺到する前に必ず墜とす。


「あーあ、ラクしたいのに! でも、太陽の散歩道にしてあげますよ!」



───用語説明・補足解説:

・イカロスのMC(ミドルチェイサー)が使う暗号指示(フレーズ)について

 アルファベットと数字の組み合わせで、位置関係を指揮している。

 フレーズだけでは敵に分からないよう、射撃との組み合わせで位置が決定する。

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i1071624
― 新着の感想 ―
イカロスとの試合の前に、なんともいえない空気のエクリプス… ソルティもいつもの調子じゃないみたいだし、アポロも上手く連携取れてない?? ハーちゃん、この劣勢を変えることができるか??
ナックの開けた穴もそうですが、今回はアポロのミスが目立ちましたね。 どうやって修復していくか期待してます。
 ラスボスになれる器と(読者である自分が)思った、アポロちゃん。ハーベストに一騎打ちで負けちゃったでござる…… (´·ω·`)   能力はともかく、精神面で未熟なところも多いのかな?  チームエクリ…
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